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スラムの酒場にて

「美味───おいしい」

「はぁ……なら良かったけどよ」

スラム街、まだ人の居ない"酒場"にて。

サンドイッチを食べながら子供のようにニコニコとしている男を眺め、頬杖をついた少女は溜息を吐く。

「ㇵッハッハ!急にミケがデカい荷物抱えてきたから一体何事かと思ったが……まさか金も持たずにうろついて空腹でぶっ倒れるとはなぁ!お代はいらねぇ、たんと食えよ!」

「お代はいらねぇって……この店そんな金に余裕ねぇだろ!おいアンタ、そんなぶっ倒れる程腹減ってたのかよ?」

豪快に笑う酒場の店主からミケと呼ばれた少女の問いかけに対し、男は食べる手を止め、宙を眺めて考える。

「……6日?」

「は?」

「6日、くらい」

「食べてないって事か?あんな強いなら狩りにでも行きゃいいのに……ってかオマエ、その間飲み水はどうしたんだよ」

「川の水、使えた」

男は指先から小さく先程の白い火を出す。どうやらこの不審者は何も食べず、加えてあの濁った川の水を啜りながら、狩りをしに行くでもなくひたすら町の中を歩いていたらしい。バカじゃねぇの?ミケは呆れた。

サンドイッチ一つを食べ終わり、再び無表情へと戻った目の前の男は改めて挨拶する。

「助けてもらった。感謝、ありがとう。……えっと。僕は、……多分、ゼノ?」

「知らねぇよ、なんでアンタが自信なさげなんだよ……アタシはミケ、ここのスラムで暮らしてて、こっちの店主のおっちゃんには昔から世話になってる」

「ご紹介にあずかった俺はケイン、酒場の店主さ。ミケが世話になったな、ゼノ!」

自己紹介を理解したのかしていないのか、ゼノと名乗った男はミケとケインの顏を見比べ、少ししてから呟いた。

「……窃盗、過剰防衛」

「んぁ……?さっきから言ってるそのセットウってなんなんだよ、ったく。アタシの泥棒の事どこで知ったのか知らねーけどさ、飯まで食わせてやってんだから衛兵にチクるんじゃ───」

チクるんじゃねぇぞ、と言いかけてミケは気付く、先程まで微笑ましげにこちらを見ていた酒場の店主ケインが、今は何かに驚いたように、わずかに表情を引きつらせている。


ケインをじっと見つめていたゼノが、不思議そうに首を傾げた。

「……過剰、防衛?」



「つまりゼノ、お前さんは人の昔犯した罪だとか魔物の悪意だとかが全部見えるって訳かい?おっちゃんそんな詳しくねえけど、〈魔眼(まがん)〉!みたいな奴なのかね」

「どちらかといえば、そう……?」

「まじかよ……。道理でつえーわけだ」

ゼノの暗号じみた意味不明な供述をケインはあっさりと解読していく。ミケは合点がいった、確かに先ほどもゼノは魔物の攻撃をあっさり躱してみせた。もし魔物がどんな攻撃をしてくるか事前に予測できるならば、躱すくらい造作もないのだろう。

「目視。僕の目には、〈悪〉の(こえ)が聴こえる」

なんて言い出した時にはゼノの電波っぷりに困惑したミケだったが、ケインにはその真意があっさりと理解出来ているあたり、自分の理解力にも問題があるのかもしれないと思い立ち、複雑な気持ちになった。

「スラムにゃ厄介なゴロツキもごまんと居る、過剰防衛って言うなら確かに思い当たる節は沢山あるなぁ。昨日も危うく、ナイフ構えた奴らに店の酒を奪い取られる所だったんだ」

「ゴロツキ六人、返り討ち……過剰防衛、つよい?」

「ハハハ!ケインなケイン、過剰防衛は名前じゃないぞ~」

窃盗窃盗、とゼノが口にしていた理由も、話しているうちに次第に明らかになっていった。彼の魔眼には罪名だけでなく罪人の名前や詳細な罪の内容などがすべて見える。しかし彼は「名前」という概念をはっきりとは知らず───恐らく“全て見えている”故に区別をつけられず、基本的に罪名の方で人を呼んでいるようだった。ゼノ自身の名前をどのように知ったのか、なぜ自己紹介ができたのかなどは、まだ分からない。

ミケからすれば“名前”の意味も碌に知らずどんな人生を生きてきたのかも想像がつかない程不思議な話だったが、スラムにはそれくらい生い立ちの分からない人も、何を考えているのか分からない人も、読み書きのできない人だってごまんと居る。ゼノもまたどうにかして生き延びてきたのだろう、ミケはそう納得した。


「オレも盗みなら毎日やってるからなぁ……オレにピッタリな名前なかもな、セットウ」

「そう。窃盗、めっ」

机に突っ伏してぐてぐてと呟くミケの額に、突如ゼノのデコピンが飛んだ。

「いたっ、何すんだよ!?」

「窃盗、横取り、経済の破壊。……良く、ないこと」

「はー?ケインは良くてオレはダメってか?ちっ……そりゃあ、悪い事してるとは自分でも思うけどさぁ」

頬を膨らませ、ふてたように再び机にもたれかかったミケに、ケインのフォローが入る。

「まぁそう言ってやるなよゼノ、こいつも盗みでもしなきゃ食っていけない事情があるのさ」


ケインが初めてその少女と出会った時、彼女はスラム街の傍にて倒れていた。

哀れ、おおかた家計が苦しくなって子供を養う余裕が無くなったのだろう、それとも後継ぎとして男児が欲しかった家庭に二、三年程して遂に捨てられたか。

どちらもよくある事だ、そうやって野垂れ死んだ子供を何度も見てきた。この子もまた同じようになるのだろう、ケインは仕事を続けるべくその場を去ろうとした───それでも。

「おなか………すいた」

そんな呟きを聞けば、彼にはもう、少女を放っておく事はできなかった。

連れ帰り、スープを与える。こういう時は流動物の方が吐き出さないで済む、自分がそうだったからよく知っている。暫くそうしていると次第に元気になって、ゴロツキ達の行動を真似たのか、やんちゃに育っていった。猫っ毛からミケと適当に名付けられたその子はケインに世話される事を申し訳なく思ったのか、「迷惑ばっかかけてらんねーよ!」なんて言ってスラムの中で独り立ちした───窃盗は、碌に働けない少女にとって生きる為の唯一の術だった。


「俺らだけじゃない、スラムには沢山の犯罪者が居る。形こそ違えど大体みんなそうせざるを得なかった理由があるんだ、あまり責めないでやって欲しい」

ゼノのその魔眼を真っすぐに見据えた、ケインの言葉は切実だった。アンデッドとの戦いを聞いた限りゼノは相当に強い。ゼノには恐らくどんな悪人でもその内心を覗き見て断罪する事ができる、それがスラムの住民にとって、そして自分にとってどれほど恐ろしい事か。ケインには想像せずにはいられなかった。

しかし、同じくケインの瞳を覗き込むゼノには全く違う景色が視えているようだった。

「嘘。ケイン……窃盗、しなくていいと思ってる」

「……!」

「店に迷惑をかけて、別にいいと思ってる。子供、罪を犯さないと生きられない、そんな状況……間違ってると、思ってる」

本当はそのままミケを養い続けてもよかった、そんなケインの内心を読み取ったゼノは席を立つ。やっと罪名と名前の違いが分かってきたらしい男は、罪人二人に向けて語りかけた。

「大丈夫。罪───償えばいい」


「は?償うってどうやって……」

「返済?例えば,お金。盗んだ分、盗んだ以上?払えばいい」

まるで教えを説くようにゼノは言葉を紡ぐ。開かれたその両の目は正義とも悪ともつかぬ光を宿し、爛々と輝いていた。

「罪。皆、罪を持ってる。でも───罪の裏に“宝“がある。罪を償う、罪を裁くより大事」


「……ったって、どうすりゃいいんだよ。オレお尋ね者だから仕事貰おうにもギルドに登録できねーし、魔物とも戦えねーし」

「ギルド?」

「おぉ、ギルドを知らないのか?そりゃ流石に珍しいなぁ」

きょとんとした様子のゼノを見て、ケインがこの国の労働管理組織であるギルドについて説明を始める。

「基本的にこの国で合法的に働くにはギルドの承認を受ける必要があるんだ。俺達はギルドに顔出しできないから金を稼ぎたきゃ無許可で働くしかないって訳だが……仕事の依頼とかも全部ギルドにあつまるから、衛兵に追われたりしてなけりゃゼノもギルドに行けば金を稼げるかもな!」


「ギルド………ギルド」

ゼノはうわごとのように呟きながら、ドアの方へと歩き出した。

「ギルド……行ってみる。ご飯、ありがとう───返済、しに来る、ね」


閑散たる酒場に取り残された二人は顔を見合わせる。

「……ギルドの場所分かんのかな、アイツ」

「さあ……。どのみち俺達はついて行けないしなぁ」

最初から最後まで変なヤツだったなとミケは思った。


次の日、彼は酒場には現れなかった。その次の日も。

「そりゃそっか」

テーブルにて頬杖をつきながらミケは呟く。当然ギルドの手続きにも時間がかかる、昨日の今日で戻ってくる訳はないのだが、ミケの脳裏には別の想像が拡がっていた。

そう、“また来る”みたいな事をゼノは言ってはいたものの、普通に考えれば金を稼げるようになってまで一々このスラムに戻ってくる必要はないのである。

アイツまた来るのかな、みたいな事考えつつわざわざケインの酒場を訪れて、雑談や手伝いをしつつグタグタと過ごしていたミケは───心のどこかでゼノが本当に自分の罪を償う術を教えてくれるのではないかと期待してしまった少女は、魔法を駆使して真っ当に生きられもするのであろう彼との住む世界の違いを思い知らされる。


少女は“盗賊“だった。その生き方は簡単には変えられない。

明日には盗んできた食料が尽きる。ケインに迷惑を掛けず一人で生き続けるのなら、明後日にはゼノの真っ当な説教など忘れて、再び盗賊へと戻らなくてはならない。そんな事を考えると、どうもミケは気分が重かった。


次の日の朝、彼は普通に酒場に現れた。酒場の前で、ボロボロになってぶっ倒れていた。


偶然にもそれを発見したのはミケだった。

「おい……おいゼノ。生きてっか?」

「……空腹」

返事の代わりと言わんばかりに彼の腹が鳴る。結局職につけなかったのかと思いきや、その右手には硬貨の入った小袋が握られていた。

「何日食ってない」

「三日、くらい……早めに、食べにきた」

「バカじゃねぇの?」

余りに馬鹿馬鹿しくて、先程までの暗い気分も吹き飛んでしまう。

どうやらゼノには、食事は毎日食べるものだと真っ先に教える必要があるらしい。ミケは呆れながらも店内のケインを呼び───






~~~~~~~~~~~~~~~~~

修正はそのうちやります。

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