異世界転生十分で恋に落ちかけましたが、その肩書はご遠慮します!
久しぶりに小説を書きました。ふんわり設定です、ご容赦下さい。誤字報告ありがとうございます。
それは私の恋が、まるで深い眠りに就く様だった。
もう嫌だと、こんな扱いは、耐えられないと。
貴方が私以外を妻にと望むだけならば、まだ耐えられたと思う。
婚約破棄された傷物令嬢となろうとも、それならば、まだ貴方の幸せを願えた。
出会った日に繋いだ手のぬくもり。
花冠を作って、指を絡めた約束も。
初めて交わした口付けも。
でも、貴方の私への最後の『お願い』は、私の恋を殺した。
もう何もかも要らない。
大切にしていた思い出も、真っ白に塗り変えて。
唯一になれないのなら、二番目になど、ならない。
私が、彼女の事を思い出せるのはたったそれだけ。
あとは彼女が全て一緒に持って逝ってしまった。
だから私は目の前で怯えるフリをしている女も、その彼女の肩を大事そうに抱く男にも、全く興味がない。
これが異世界転生と言うやつか。なかなか過酷だ。
自分に合わない乙女ゲームを無理やりやらされるのは面倒くさいとしか思えない上に、悪役令嬢。いや、悪役令嬢自体は悪くない。実際、私はこのヒロインより彼女の方が好ましいし。そんな現実逃避に近い事をつらつら思っていると、目の前の男が声を荒げた。
「聞こえていないふりはよせフリージア!リリーに行った事を謝罪しろと言っている!」
「謝罪、ですか?」
そう言われても、彼女がリリーさん?とやらに何を仕出かしたのか私は知らないのだ。もしかしたら命に関わる酷い事をしたのかもしれない。まぁ無さそうだけど。だってそれなら私の顔を見るのも怖い筈じゃない?あんなザマァ顔で私を見られる訳ないじゃない?
「ごめんなさい、私、覚えていないのです」
「は?」
「ですから覚えていないのです。私が何故彼女に何かしなければならなかったのかも覚えておりません。覚えているのは、二番目になるくらいなら、死んだ方がマシ、そう思っていた事くらいで。ですから覚えていない事には謝罪します。けれど、逆にお聞きしてよろしいでしょうか?二番目とは、どういう事でしょう?」
リリーさんは男を驚いた様に見た。男は一瞬、嫌そうな顔をしたけれど、それに気付いた人は数える程だろう。直ぐに優しそうな笑みを浮かべて、リリーさんの手を握った。
「リリーにあまり堅苦しい事は務めさせたくなかったんだ。君には可憐なままで居てほしくて。」
それはつまり、彼女を形だけの正妃に据えると言ったと言うこと?
自分を愛して、ずっと、子供の頃から支えて居た彼女を、一番目の笑顔の為に、生涯飼い殺したいと言った、と。
「「馬鹿馬鹿しい」」
私は自分以外の誰かがそう言った事に驚いた。
顔を向けると、妖精の様に綺麗な顔をした人が私を見て微笑んだ。
「よく耐えたね、君は強い人だ。けれど無理をしないでおくれ。君の手のひらが可哀想だ」
そう言って私の手をそっと取ると、ぎゅっと握りしめていた拳を優しく解いてくれた。
「叔父上!!」
どうやらこの人とあちらは血縁関係にあるらしい。私が咄嗟に手を払おうとすると、その手を少し強く握った。
「お前程の愚か者を甥に持った覚えはない。二度と私に声をかけるな」
その声は凍てつく氷の様で。実際何だか寒気を感じる。けれど私が怯えていると気付くとふんわりと微笑んでくれる。まずいわ、転生十分で恋に落ちる断罪中の悪役令嬢とか笑えない。しかも大体の会話からして、この方、王弟殿下と言う立場なのでは…?
「叔父上、フリージアは罪人ですよ!?然るべき対応を取り、グリーンベル侯爵家にも…」
「黙れ。この婚約破棄による責はお前にあると兄上も承知した。その為、お前から継承権を剥奪するとのご決断だ」
真っ青な顔の王子様、手を翻す様に離れようとする暫定ヒロイン。ド修羅場だわ。
「王位継承権第一位は私に戻った。そして私、アイルリード·クランツベルクは妃にフリージア·グリーンベル侯爵令嬢を望む」
「……………え」
いや、いやいや。私はフリージアであり、フリージアにあらず。侯爵令嬢としての振る舞いを行える自信も無く。
うっかり恋に落ちかけていましたが、つまり、王太子妃、ですよね?
無理無理、絶対無理!壇上から生徒達のつむじに向かって答辞を読んだあの時もがくがくぷるぷるしていた私に務まる訳がない!
じりじりと逃げようとしている私の腰にすらりと腕を回し、その妖精の様に美しいご尊顔を私の耳元に寄せた。
「君の名前は改めて後で教えておくれ。私の勇敢な異世界令嬢さん?」
なんで、バレてるの?
逃さないからね、と腰が痛くなる程引き寄せられて。
ギスギスしていた空気は、新たな王太子殿下を祝福して皆手を叩き、高揚している。
今頃ゲームのエンドロールが流れている頃だろうか。そのスタッフやキャストがどんな風になっちゃってるのか凄く気になるー。
読んで下さりありがとうございました。