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先生へ

作者: 小波

 

 御卒園おめでとうございます。

寒い雪国に太陽が差し込んだ雪がまばらに残る園舎。


 私はあの日卒園式以来、先生をお見かけしていませんね。

みなさん元気でいらっしゃるでしょうか。

 ずっと書き続けていた手紙を新しい住所にもちゃんと運び読んでは泣きまた書き直し‥‥‥

私はこの手紙を卒園式までに渡したかったです。


 先生へ

 お元気ですか。在園中は大変お世話になりました。

私は先生のお便りが好きです。園バスが到着するとまずは子供のリュックサックを開けて、興奮気味に帰ってくる息子の話を半分聞きながらあのお便りを見つけ出す。あったあった。あまり夢中になって読んでいるとヤンチャな子に怒られたりするので大変ですが‥。


 ある時のお便りは先生の若かりし日の育児のことが書いてありました。子供達は皆小さくて仕事は忙しい、充実している日々にも聞こえます。忙しいからと頑張るうち子供との間に距離が出来てしまいそれに傷つきそれからは考えを改めたお話、あのお便りの書き出しは、お恥ずかしい話なのですが(教諭として)とありました。私は何度も読み返して壁に画鋲で留めて家族と共有しました。暖かくて優しくて普通の家族‥羨ましいと感じました。何度も読むうちにある日気づいて苦しくなり壁から剥がすと捨ててしまいました。ごめんなさい。あの家庭の光景が私の経験した中に存在していないと気付かされたからでした。親というのはこちらの変化に気づいて振り向き関係性を構築しようとかならず見つめていてくれる、その事に感激して涙して、つらくなり、もう読めないとなったのです。これだけのことに気づかせてもらえたことを伝えたかったです。それなのに私の手紙は完成しないままこの部屋にあります。最初に書いた時は巻物の様にとてつもない量になってしまいました。途中興奮して字も激しくなりました。どこから説明したら良いのか沢山の過去の感情が逆流してきてペンが震えていました。何度も完成に近づけようと試みましたがそれは叶わず、書けば書くほど泣きたい私が飛び出してきて、食べるのも構わずに書いた日もありました。もう、私のための自己カウンセリングになっていました。


 それだけ先生のお便りは刺激的だった。新しい、いや元々あるのに伏せていた感情、その時の幼い自分では受け止め切れなかった思い、言葉にならなかった悲しみ、それを吐き出して読み直し、声に出してまた私に聞かせてあげました。


 私が私のそばに立ち背中を撫でる作業でした。どちらの私も癒されて、ずっと会いたかったよねと謝りました。


 先生、お元気でいらっしゃるでしょうか。先生の言葉を私は忘れません。ありがとうございました。

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