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ホラー・ホラー風味

急な腹痛

作者: まい

夏のホラー2023に投稿する用です。


 正直あまり怖いと言い切れる自信は無いですが、読んで楽しんで頂けたら嬉しいです。

 ある暑い夜の日。


 見るからに仕事帰りであるクタビレたスーツ姿の中年男性が、明らかに怒った様子で街を歩いていた。


「くっそーー! こんなに仕事があると(酒を)()まなきゃ、やってらんねーよ。 畜生っ!」


 どうやら仕事で嫌な事があったらしい。


「なんでこう、毎日毎日毎日毎日。 アレやれコレやれと俺にばっかり。 俺じゃなくて他の奴の方が手が空いてそうなのに、なんでに俺ばっかり!!」


 …………どうやら仕事で嫌な事が毎日あるらしい。


「こうなりゃ今日もヤケ酒だ! 好きな芋焼酎をいっぱい呑むぞ! 肉をたっぷり使って……スタミナつけるのにレバーもたっぷりか。 それを健康を意識してレタスで巻いた肉祭りだ! まあ最近ほとんど変わらないメニューだけどな!」


 どうやらストレス解消に、好物ばかり食べているらしい。



 そんな【帰り道】を歩く男性の叫びを、周囲はどう受け止めているかと言うと……。


 男性の大半が同情の目。 それだけハードな仕事なのか……お疲れ様です。 って(いたわ)る目でもある。


 女性の多くは、白い目である。 そんな食生活では気分は良くなったとしても、体調がどうなるか分かったものではない。


 それらと違う反応をする者達は、目を丸くして驚いていたり、顔を真っ青にして男性を見ている。 おそらく、ひどく乱暴な食生活をしている……していられる男性の体に(おどろ)きや心配をしているのだろう。


「動物の肉だけだと駄目かもな。 そうだ、実家から大量に送られて来たアジの干物もツマミで炙っていっぱい食うか!!」


 まさにヤケ食い。


 ヤケ酒に、ヤケ食いでストレスを発散させたい様だ。


 彼はストレスが溜まる(たび)にこんな生活をしていたのだろう。


 口にする言葉に、よどみがない。


 肩を怒らせ荒々しく歩いているにも関わらず、声に怒り以外の震えがない。



 いや。



 だれもがそう思おうとしていた。


 思い込んでいた。




 怒っていた中年男性が急に立ち止まって黙り込み、体の全体が震えだした。


 よく見ると中年男性の瞳の焦点が定まらず、瞳がガクガクと震えている。


 (しま)いには“ドッ”なんて擬音(ぎおん)が可愛く見えるほどに異常な脂汗が、中年男性の顔に浮かび上がる。


 この異様(いよう)な光景を見てしまった通りすがりの人々の顔と体は、皆一様(いちよう)(こわ)ばった。


「お゛……お゛ぉ゛……………お゛?」


 彼は言葉にならない言葉と共に自身の腹部……いや、下腹部。 膀胱(ぼうこう)周辺に手を当てて、脂汗でドロッとした顔を不思議そうに(ゆが)ませる。


「これ……ヤバい…………?」


 近くにいる通行人かなんとか聞き取れるかも知れない程度の(かす)れ声を発した後、前のめりに派手に倒れた中年男性。


 と同時に、騒然とする周辺。





 通行人達のそれぞれが思い思いに動き出す。


 倒れた中年男性を()る者、見守る者、誰か友人へ話す口調でスマホを使って連絡している者、無断でスマホ等で撮影する者。


 その中には警察や消防へ連絡している者もいた。







 やがてその警察や救急の車が現場に到着すると、全員の視線が中年男性から離れる。




 それから中年男性が“()った”場所へ視線を戻すと、そこには何も()()()()…………。


 それに驚いたスマホで撮影していた人達が撮影記録を確認するも、男性を写したはずの写真画像も動画も、その男性を写してはいなかった。


 忽然(こつぜん)と姿が消える怪談に良くある、居たはずの場所が()れていた。 なんて事もない。









 通報した者達は、倒れた人が誰も居ない事を確認している警察官や救急隊員へ必死に「ここに居たはずなんだ」と言い(つの)るが、それに分かっていると言いたげな顔で返される。


 いや、実際に返された上で警察官達から教えてもらっていた。




 この場所では、夏の暑い夜の日に同じ事がたまに起きるらしい。


 1人で怒鳴り散らした後に倒れた中年男性が、ふとした時に姿を消す怪現象。


 大体同じタイミングで姿を消すが、ある時は救急車で病院まで搬送(はんそう)し、ストレッチャーへ乗せようとする直前に消えていたそうだ。


 それ以降も何度も同じ特徴の中年男性がたまに通報され、そして消える。


 この現象は平成の年数が二桁(ふたけた)になったばかりの頃から、年に何度か、暑い時期になると起きていると言う。


 それで何か原因となるモノが無いか、発生し始めた頃から(さかのぼ)って調べてみたら、怪しいのは見つけられたんだそう。



 その怪しい情報とは、この近辺で起きた()()案件。


 ほぼ同じ時間に、遺体から通風や結石持ちと診断された、似た特徴の中年男性がほぼ同じ場所で倒れていた案件だ。


 病院履歴などが無く、外見からは分からなかったが、司法解剖で病気持ちだと判明した。


 直接の死因は違うものらしいが、上記の2つによって痛みで長期間苦しんでいたのではないかと推測されるそうだ。


 この過去の人物と現在消えてしまった中年男性は高確率で同一人物だと見られているが、既に死亡している相手なので同一人物である証明は出来ないままだと、こっそり教えてくれた。










 科学捜査ではこの怪現象に関する直接の原因の解明ができず、そのまま数十年。



 今もその土地で暑い時期の夜になると、この脂汗を流して苦しみ、いつの間にか消えてしまう怒りで叫ぶ中年男性を見ることが有ると言う。

 今も判明しない怪現象。


 これは果たして、ホラーなのだろうか……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] うん、ホラーです。 [気になる点] なんか自分を見ているような気になって来るのは何故だろう…… 平成の時代も今ほど世の中優しく無かったですもんね。 それで心の病に成ったりとか…… [一言]…
[良い点] ある日思い知る不摂生のツケ。 ベルトのサイズがキツイ……口内炎……体質変化。予兆はあったはずなのに、気のせいと見ないふりをしてきた結果が体を襲う。 不健康な生活をしていた人の背中に忍び寄…
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