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おすすめは幸せになれる壺

 王都内にあるとある屋敷で、一人の男が部屋の中をぐるぐると歩き回っていた。大きな宝石の着いた指輪を太い指にいくつもつけ、金の刺繍が幾重にも施された部屋着を張り出した腹部が押し出している。

 その格好の豪奢さとはうってかわり、部屋の隅には埃が溜まっていて掃除が行き届いていないことがうかがえた。


「第2王子死亡の知らせはまだなのか!? さてはあいつ、怖気付いたな。

 せっかくあのお方から頂いた薬までやって、役に立たせてやろうとしたというのに。

 王子の部屋付きになったと言っていたのも嘘に違いない。本当は王城でも役立たずで、それが私にバレて妹が殺されるのを恐れたんだ。

 こんの、私を謀ってただで済むと思うなよ!」


 男は机の上の水差しを手に取り床になげつけた。水差しが割れる音を聞きつけた使用人が部屋の前まで駆けつける。


「旦那様、大丈夫でしょうか?」

「うるさい!水差しを落としただけだ!」

「……すぐにお掃除いたします。それと、お客様がいらっしゃいました。」

「なに!さ、先にそれを言え!」


 男は体当たりするくらいの勢いで扉を開けて出ていった。どたどたという足音が遠ざかっていき、代わりに使用人が部屋へと入り片付けを始める。

 ビクビクと何かに怯えながら急いで掃除を終えた使用人も部屋から出ていくと、唐突に部屋にふたつの影が現れた。


「キル、伯爵は?」

「まだ下で話してる。」

「そう、なら結界張っちゃおうか。」


 潜む様子もなく至って自然体で部屋を見回すキルとカイ。2人とも部屋着なこともあり、あたかも自分の部屋にいるかのようだ。

 部屋着と言っても爵位相応に質のいいものなので、部屋の質との差にどうしようもない違和感があるが。


「気配で事前に気づけるけど。」

「一応ね。証拠がどこに隠されてるか分からないし、部屋を荒らすことになるかもしれないでしょ。扉も随分と立て付けが悪そうだったし、すぐに開かなくても変に思わないよきっと。」


 そのまま話していたが、カイの言葉にそれもそうか、とキルはさっさと魔法を展開する。

 どうせ結界を張るのならずっと気配を探って警戒しているのも疲れると、部屋に入れなくするだけでなく誰かが同じ階に上がってきたらわかるよう魔法陣を組み替える。

 キルが魔法を使っている間、カイは部屋を歩き回り探し始めていた。


「なんというか、なんでこんなの飾る気になるんだろうね。」


 そう言いながらカイが見ていたのはひとつの棚だった。棚の中は、炎のような装飾の着いた中身のない額縁、人が踊る様子が独特な画風で描かれた壺、刃がなくて柄だけの短剣など。

 一見、いや明らかにおかしなものばかりが並べられている。


「収集癖があるんだよ。それと、騙されやすくて自分の都合のいいことしか受け入れようとしないから、変な商人の金蔓になってる。」

「ふーん、ものの価値が分からない人が収集しても意味ないのに。」


 2人で眺めながら酷い言いようである。命を狙われたのだから仕方ないのかもしれないが。


「で? どこに隠してると思う、どうせわかってるんだろ?」

「ふふ、そんな期待されると照れるね。」

「はいはい。で、どこ?」

「多分この棚だと思うよ。性格は単純そうだから、1番使用人が触れないところに置いてるはず。お気に入りは誰しも触らせたくないものだからね。」

「……にしてもよく分からないものばっかりだな。」


 キルが近付いて見てみると、棚が全体的に埃を被っているのがわかった。使用人に触らせたくもないが、自分で掃除するのも嫌なのだろう。使用人にもかなり高圧的に当たっていたし、貴族が掃除などすべきではないなどと思っていそうだ。

 物を動かさぬようにしながらよく観察していると、下の方に入っている一冊の本だけ埃を被っていないのに気がついた。


「おい、これ。」

「あ、ほんとだ。木を隠すなら森の中ってことかな。」


 大きく分厚いその本は装丁も他の本に比べて随分と立派で、深緑のようなベルベットの表紙が滑らかに光を反射している。

 汚い手で触りでもしたのだろうか。一部表面が固まってしまっているが、それでもなお近づきがたいほどの美しさがあった。


「あ、これ魔道具だ。しかも結構出来の良い奴。」

「お前に結構って言わせるって相当だな。なんで伯爵なんかがそんな良いもの持ってるんだ?特にお金に余裕があるわけでもないのに。」

「それこそ黒幕の差し金だろうね。これを買ったにしても作らせたにしても、侯爵以上じゃないと厳しいんじゃないかな。」

「なるほどな。だからこそ、そいつに関わることが入ってる可能性が高いってことか。

 自分との関係が露見しないように厳重に保管させてるわけだ。それで、開けれそうか?」

「うん、今やってるとこ。」


 キルがちらりとカイの顔を見ると、いつもと変わらない表情で目を瞑り魔力を操っていた。唯一開けられた本の表紙裏に刻まれた魔法陣が、少しづつカイが流す魔力によって淡く輝き形を変えていく。


「よし、できた。」


 一瞬魔法陣が強く輝きすぐに収まると、カイが目を開けた。ようく見ないと分からないほどの差だが、確かに魔法は解除されていた。

 その証拠に、次の瞬間カイの持っている本がひとりでに開き出した。本だと思っていたそれは、分厚いページの全てに表紙より一回り小さい穴が空いていて入れ物になっていた。


「予想通りだな。これでやっと黒幕が出てくるか。」

「そうだね。さて、どの人かな。」


 入れられていた紙をひろげ魔力を通す。そこに浮き上がってきたのは―


「! 誰か上がってくる。」

「分かった。じゃあ見たいものも見れたし、結界を解いて転移しよっか。」

「魔道具はそのまんまでいいのか?」

「大丈夫だよ。別に伯爵が使えないようにした訳じゃないから。人に見せることもないだろうから、魔法陣の書き換えに気付くこともないよ。」


 魔道具を棚に戻し、痕跡が残っていないことを確認すると2人は姿を消したのだった。


この度は作品を読んで頂きありがとうございます。

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