会う度に言われてる
放課後のカイとキルのお茶に、魔法師団長ユリウスが訪ねてくることになった。
ユリウス・サッガー。魔法のエリートが集まる魔法師団で、弱冠25歳で師団長を任されている天才。初代国王の親友の一人の血を受け継ぐ公爵家の嫡男。中性的な整った顔立ちとストレートに伸ばされた銀髪はよく似合っており、美しいという言葉が彼以上に似合う男はいないと言われているほど。
「恐らく、私の使っている転移魔法の件でしょう。」
「うん。父上もユリウスさんが来るかもって言ってたもんね。」
侍女にユリウスへの連絡と追加のお茶を頼み、しばらくしてユリウスがやって来た。
「2人ともお久しぶりです。」
「ユリウスさん、こんにちは。」
「お久しぶりです。」
侍女に呼ばれて部屋に現れたユリウスは、何やら重そうな本を何冊も抱えていた。挨拶もそこそこに、それらをドサッと机の上に置く。
「早速だけど、色々聞いてっていいかな、キルクライン君!」
「はい。」
「ちょっとユリウスさん、せめて席には座ろう?ラインも僕の後ろじゃなくて、ここに座りなよ。話しにくいでしょ?」
一応客人ということで側近としての位置に移っていたキルが、カイの言葉に従い席に着く。ユリウスも我に返っていそいそとソファーに腰を下ろした。
実力、身分、容姿ともに優れたユリウス。パートナーを決めるにあたって重要な要素は全て揃っているのに、彼に未だ婚約者もいないのは、実はこの魔法バカのためだったりする。
魔法のこととなると普通に寝食を忘れ周りが見えなくなり、遠慮も配慮もどこかへ放り投げてしまうのだ。
ちなみに魔法師団はそんな人たちの巣窟である。
「それで、転移魔法のことなんだけど。まず実際に見せてもらってもいいかな?」
「わかりました。」
キルが立ち上がり目を瞑る。すると、足元に魔法陣が現れた。円と線と文字が複雑に組み合わさり、ひとつの模様を作り出す。魔法陣から溢れ出ている黒い粒子が、段々薄くなって乳白色になり、最後には透明になった。
「これは魔力の同化!なるほど、存在を誤認させるというのは、魔力の質を寄せていたのか。……いや、これは寄せると言うよりも、無くしている!? すごいぞ!」
もっとよく見ようと机の向こうから身体を乗り出し、キルの足元に顔を近づける。瞬間、魔法陣とキルの姿が掻き消えた。
「おぉ!そうか、魔力の無性質化が出来れば、それは色が無くなったということ。1度無色になればどんな色にだってなれる。結界魔法で指定されている者の魔力の色にだって。この技術を習得出来れば、魔法の幅が一気に広がるぞ!だが、逆に無色にするということは、元からある自分の色、癖を無くすということ。とんでもない魔力操作が必要になるんじゃないか?」
ブツブツと早口で呟いてるユリウスを見てカイは内心、
(早口過ぎて怖いんだけど、早くキル帰ってきてくれないかな〜。)
と思っていた。表情は微笑んではいるが、心なしか目に生気が感じられない。
1人は声に出したり本を漁ったりして考察をめぐらし、もう1人はそれを表情を動かさずに眺めているという混沌とした部屋で、侍女も疑問符を大量に飛ばしながら追加のお茶を入れ退室していった。
5分程経ったところで、部屋のドアがノックされキルが帰ってきた。
「どうぞ。あれ、ライン?おかえり。」
「ただいま戻りました。」
なぜ彼がドアから入ってきたかと言うと、彼が転移したのが王城の結界魔法の範囲外ギリギリだったからである。
結界魔法を誤認させる方法を見せるために使うのだから、範囲外へと出ていかないと意味が無い。だからといって態々遠くに行くのも馬鹿らしい。距離が伸びるほど使う魔力量も増えるのだ。そこでキルはギリギリ範囲の外に転移し、そこから歩いて帰ってくることにしたのであった。魔力を膨大に持っていることにユリウスが気付けば面倒臭いことになるというのもある。
「キルクライン君、君は凄いことをしてくれた!魔力操作だけでそのものの性質を変えてしまうなんて。」
「いえ。」
「そう、ラインはすごいんだよ。」
「ありがとうございます。」
ユリウスにはサラッと、カイには頭を下げて。明らかな対応の差にユリウスが何か言うことは無い。
ユリウスとキルの1番上の兄ゼルは、歳が近く爵位も近かったため幼い頃からの友人だ。その関係で、キルたちのこともほとんど生まれた時から知っている仲なので、その性格も熟知している。
そもそも魔法以外に関して無頓着なため、礼儀など邪魔さえされなければ気にしない。
「……あれ? でも確か、聞いた話によるとキルクライン君はいつも突然現れ突然消えるんだよね? 魔法陣を見れば明らかに普通じゃないことくらい分からないものかな?」
「今は魔力の無性質化が分かりやすい様にしましたので。」
「え?じゃあ普段はどうなの?」
「ラインは基本的に魔法陣も魔力も見せないよ。僕もラインの魔法陣見たの久しぶりだなぁ。綺麗だよね。」
カイがなんでもないように明かした事実にユリウスは衝撃を受けた。この歳でもうその域まで達しているなんて、と。
魔法陣を見せないということは、魔力の構築を目に見えないほど素早く行っているということ。魔法のエリートである魔法師団でも、使えたら一人前と言われるくらい高度な技術である。
まだ学園に入学したばかりで、本格的な魔法の授業も受けていないはずなのに。こんな才能の塊を逃すわけにはいかない。新事実を知ったことによるおかしなテンションのまま、思わず声を上げた。
「魔法師団に入ってくれないか!」
「お断りします。」
すげなく断られしょんぼりしてユリウスは部屋を去っていった。
「良かったの?魔法師団なんて入れたら将来安泰だよ。」
「俺を魔窟に放り込もうとするな。絶対魔法バカに絡まれて面倒臭いだけだ。お前とサボってるぐらいがちょうどいいんだよ。」
「ふふ。そう、ならこれからもよろしく。」
「……ああ。」
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