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可愛い末っ子には弱い

 王城からの呼び出しの後。一応帰宅を知らせるため、玄関のホールに転移すると、ちょうど兄の一人が外から帰ってきたところだった。


「ゼル兄上、おかえりなさい。」

「ただいま、ライン。帰ってすぐラインに会えるなんてラッキーだな。というかお前今、突然現れなかったか?」

「僕も今帰ったとこです。王城に呼び出されていて。兄上もお疲れ様です。」


 ゼルはドクルハイト家の長男。既に結婚しており、今は父侯爵と領地の仕事を分担して行っている。まだ20代前半という若さでありながら、領地改革の案をいくつも出し活躍していると噂であった。


「そういうことでは無いんだが、今日もラインが可愛いからまあいい。内容はなんだったんだ?」

「この前王城から抜け出したことで少し。」

「嫌なことは言われたら俺がどうにかしてやるからすぐ言えよ。」


 末弟を溺愛しているという噂とともに。

 ちなみに今も、キルのことを抱きしめて頭を撫でている。いつものことなのでそのまま会話を続けていた。


「ゼル様、キルクライン様、お帰りなさいませ。」

「ハクノ、ただいま。」

「ただいま。いつものことだけど、急に現れるね。もうそんな若くもないだろうに。」

「ご心配ありがとうございます。ですが、まだまだ身体は動きますゆえ、ご安心ください。」


 突然後ろに気配が現れたと思ったら、横から声をかけられる。これが日常茶飯事なのだからこの家の特殊さが伺えるだろう。ちなみに、キルもこれが普通だと思って幼少期を過ごしたので、常識が世間一般と若干ズレている。


「キルクライン様、旦那様がお呼びです。執務室までお越しください。」

「分かった。着替えたらすぐ向かう。」


 屋敷の2階、一番奥に侯爵の執務室はある。


「父上、僕です。」

「ラインか、入っていいぞ。」


 学園の制服から室内用の簡素な服に着替え執務室を尋ねると、すぐ部屋から返事があった。

 中に入るとまず目に入るのは、数枚の書類の乗った大きな机とそこでペンを動かしている長身の男性。右手には応接用のローテーブルとソファーがある。正面にある大窓以外の全ての壁面が書棚で埋められていた。


「これだけ終わらせてしまうから、そこに座っておきなさい。」

「はい。」



 気配を消して待機していたハクノがサッと出てきてお茶を入れる。


「どうぞ。」

「ありがとう。」


 キルもハクノも自分から話すタイプでは無いためそこで会話が途切れる。しばらく無言の時間が流れたが、侯爵がペンを置き席から立ったことでやっと部屋に音が生まれた。

 キルの正面のソファーに座り、お茶で喉を潤してから口を開いた。


「待たせたねライン。まず、最初に聞きたいことがあるんだ。ラインは私を殺すことは出来る?」


 にこにことしたまま、なんでもないかのように、物騒な質問を投げかける。

 何も知らないならそれでよし。もし知っているのなら、どこまで知っているかを探らないくてはならない。だから、この質問に対する反応で見極めるつもりだろう。

 どこまで知られていてどこまでなら誤魔化せるのか。下手に嘘を着くと徹底的に調べられてしまう。それは避けたいところだ。


「……好条件が揃えば可能性はあるかと。」

「ハクノは?」

「五分五分です。」

「ふむ。」


 考え込むようにカップを手に取り、口をつけながら父がちらりと左を見る。つられて左を見た瞬間、後ろから薄い殺気を感じた。


 感覚のまま、咄嗟に顔を横にずらすとバターナイフがすぐそばを通り過ぎた。すぐさま袖口に潜ませてあるペンを投げつける。

 さらに、ポケットから家紋の入った懐中時計を取り出し、今まさに振り下ろされようとしているフォークに鎖を絡めて取り上げる。


 この間わずか2秒。キルは突然襲ってきたハクノを座ったまま見つめた。


「よい。」

「父上。」

「悪い、ラインを試した。」

「いえ、構いません。」


 侯爵が手を上げて、ハクノを止めた。キルも姿勢をただし父に向き直る。


「ラインがこの前、ある貴族を始末したというのは本当だったのだね。陛下から話を伺ってね。私にも詳しく教えてくれるかい。」

「わかりました。敵国と繋がっていたマルグランデ子爵。彼がクロムカイト王子を害そうとしたため、相応の罰を受けるようにさせました。」


 キルから強烈な怒気が発せられる。にも関わらず、彼の表情は全く動かない。その様子はいっそ不気味でもあったが、侯爵がそれに反応することは無い。


「王子を害するとは?」

「敵国より密輸したであろう薬物を食事に混入させるよう指示していました。」

「そう、それは王城で?」

「はい。」

「少し私が居ない間に何をやっているのか。」


 今度は侯爵から冷気が発せられる。キルと違い極わずかだが、常人なら身がすくんでもおかしくない程の冷たさだった。


「旦那様、お静まりください。」

「……はぁ、すまない。落ち着いた。それで、その薬物と犯人に気づいたラインは子爵を始末したと。」

「はい。」


 ふむ、と顎に手を当てて再び思案する。1分程経った後、顔をあげて言った。


「今回はラインのやり方が上手くいったからよかったものの、何が起きるかわからん。次からは、ちゃんと大人に相談するように。」

「はい。……ひとつだけ質問が。」

「ん?なんだい?」

「何故、先程から"始末"という言い方をしているのですか?」

「え?わかってたんじゃなくて?さっき私とハクノを殺せるかっていう質問にできるって答えたよね?」

「はい。父上とハクノを倒せるくらいには魔法も剣術も努力しました。しかし、もちろん大切な2人を殺すなんてことできません。子爵も横領などのほかの罪を見つけ出して暴いただけです。」

「そう……、いや、ならいいんだ。言い方についてはゴテスのがうつっただけだよ」


 実力についてはバレているが、なんとか、組織に関する知識だけは誤魔化せたようだ。ちゃんと、一見軽い方法で処理して置いたおかげで、そこまで怪しまれずに済んだ。

 ただこの時キルは、組織の長をこんな簡単に騙せて大丈夫なのだろうかと心配にもなったのだった。



この度は作品を読んで頂きありがとうございます。

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