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一緒にかくれんぼしただけ

「お茶はいいから下がっていいよ。」

「かしこまりました。」


 そう言って侍女を下がらせる。護衛は部屋の外にいるので部屋の中には2人だけだ。


「もう城下町に行くのは難しいかなあ。」

「そうですね。ちゃんと護衛して貰って行くようにしましょう。クロム様は王子殿下なのですから。」

「お忍びのあの感じが楽しかったんだけどなあ。近衛にも変装してもらって、遠くから守ってもらうとかできないかな。ラインが一緒なら大体の人には勝てちゃうでしょ?」

「私も表立って戦ったことはないので、なんとも言えませんね。近付かれてしまえば、体格差はどうしようもありません。」


 机を挟んだソファーに向かい合って座り話し始める。方やにこにこと楽しそうに、方やよく見ないと分からないくらいの微笑を浮かべつつ。10分ほどその状態が続いたあと、突然キルが姿勢を崩しソファーの背もたれに体を預けた。


「もういいぞ、カイ。」


 それに合わせカイも顔に張りつけた表情を消す。


「見張りは?」

「今はいない。さすがに今日は大丈夫と判断された。先程父上もいらっしゃったし。」

「あぁ、宰相が振り向いたのはそういうことか。」

「一瞬降りてきて肩叩いて戻ってった。父上でも、子供の頃の話は恥ずかしいんだな。」

「ふふ、そうだね。でもどうしようか、これからも組織の見張りが着くようになる。」

「だな。」


 どうしようか、と言う割に2人にあまり悩む様子は見られない。


「キルがこっちに来てる時間って、本来勉強するための時間だよね?」

「基本的には。」


 キルとカイは学生のため、今は学業に専念するよう言われている。お互い、1人の方が集中できるから、と勉強している間は部屋に人が入らないようにお願いしているのだ。

 実際のところは、2人とも学園入学前に学ぶべきことは一通り学んでいるため、授業を真面目に聞いていれば復習をする必要などない。暇を持て余し、結局カイの部屋に遊びに来ることになるのだ。


「真面目に勉強する?」

「する気もないくせに。」

「僕は勉強してる姿を見せないといけない理由があるけど、君は気持ちの問題でしょ?

 別に君は優秀さを周りに見せつけてもいいんだよ。なんなら、僕に教えてくれてることにすればいい。

 そしたらきっと、"必死に勉強しないとテストで上位を取れない主人に仕える、勉強をしなくても大丈夫な側近"って噂されるね。」


 ニヤニヤと笑いながら言うその様子には、ゆるふわ王子と呼ばれるその可愛いさの欠片も無い。これを他の人が見たら我が目を疑うだろう。


「つまんねぇこと言うな。そんなん面倒なだけだろ。元から見張りが着いた時には、一緒に勉強してる幻覚を見せてる。」

「へぇ、そんなん見せてたんだ。じゃあ、君はわざわざ僕の部屋まで勉強しに来てるって、組織の人達に思われてるわけだ。」

「そうなるな。たまに、来てないようにも見せてたけど。だからほとんど毎日来てたのに、侵入の仕方は聞かれても、怒られはしなかったんだろ。ただ殿下のこと好きなんだな、ぐらいにしか思われてない。

 ま、実際お前の遊び相手に来てんだから、間違っては無いけど。ねぇ、殿下?」

「そうだね。一緒にサボらせててくれるなら僕は嬉しいかな。」

「はいはい、そう思って貰えて光栄ですよ。」


 キルの口数の多さにも驚くかもしれない。普段も心の中はこれくらいに饒舌だが、それを知る人はほとんど居ない。必要最低限しか話さない人だと思われている。


「で?どれにする?」

「うーん、じゃあここはお願いする側の僕が頑張ろうかな?」


 そう言ってカイは棚に入ってるティーポットを指さした。そのティーポットは、中のものの温度を一定に保つ機能を持つ魔道具だった。

 魔道具とは、本体についてる魔石の魔力を使い、刻まれた魔法陣に魔力が流れることで魔法が発動するというものだ。


 カイは魔力量がそこまで多くない。と言っても、王族だけあって一般的な貴族よりは十分に多いため、“王族の中では”と言う言葉が頭につく。

 王太子、つまりはカイの兄が歴代の王族の中でも多い方だったため、比べて少ないと言われることが多い。本人が派手な魔法を好まない性格なこともあり、攻撃魔法はあまり得意では無いとされている。

 その代わりと言ってはなんだが、細かな魔力操作は非常に上手く魔道具作りは得意であった。物に細かい魔法陣を刻むのには相応の技術がいるのだ。


「なるほどな。ついでに俺のも作れるか?」

「いいよ。でもその分の魔石は頂戴ね。」

「もちろん。」

「そういえば君、毎回家の方はどうしてるの?」

「あぁ、集中すると気配が薄くなると思われてるから何もしてない。部屋に人が近づいたらわかるようにしてるし。」

「は?」


 キルの家は代々組織の統括を任されている。その為、あまり部外者を家の中に入れるのはよろしくない。

 結果、家の中にいるメイドや執事などは全て組織の構成員でもあるのだ。全員が隠形のプロでもあるため、魔法で視覚的には誤魔化せても気配は誤魔化せない。


「え、気配が消えてることには気づくのに、本当にいなくなってると思わないの?」

「俺に気配の消し方を教えたのはあの人たちだ。それに、俺は魔法使う時とか集中する時は気配を消す癖をつけてる。」

「……そっか。普通そこに居ないのと同じくらい気配を消せる人なんていないけど、君に言っても無駄だったね。君の家は色々変わってるんだった。」

「失礼なやつだな。」


 その話はそこで終わり解散。キルは、どうせバレたのだからと転移魔法で家まで帰ることにしたのだった。



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