見つかるまでが通過儀礼のはず
まだ日が暮れるには早い時間、国王の執務室にノックの音が響く。
「誰だ。」
「父上、クロムカイトとキルクライン・ドクルハイトです。」
「二人か。よい、入れ。」
「「失礼します。」」
執務室で二人を出迎えたのは、カイと同じ太陽のような橙色の瞳と、癖の強い金髪の男性だった。
彼こそが、この国の王、アレキサンド陛下である。王子と同じ色をしているが、受ける印象は全く違う。王にふさわしい貫禄と威厳のある覇気を纏っていた。
「父上、お呼びとのことで参りました。」
「うむ、よくきた。そこまで固くならずとも良い。少し、お茶でもしよう。二人とも座ると良い。ロイも少し付き合え。」
陛下がそう言うと、控えてた侍女たちがさっとお茶の準備を整え、護衛の近衛騎士と共に部屋から出て行った。共に執務をしていた宰相も休憩に入る。
「さぁ、ここには我々しかおらん。キルクラインも楽にしたまえ。」
「はい、失礼します。」
「それで、父上今日はどう言った用事でしょうか?何も心当たりがないのですが。」
ソファに座り、一口お茶を飲むと、早速カイが不思議そうな顔をして尋ねる。
「はぁー、お前たちが毎日のように部屋で会っていることについてだ。キルクラインはどうやって侵入しておるのだ。城の警備にも関わる。正直に話しなさい。」
思わず2人は顔を見合わせる。バラした後から部屋を見張られているのはキルが気付いていた。
しかし、その後も何も対策がなされていなかったから、もう許されたのだと思っていたのだ、本人達は。
「あれ?父上、それは見張りからの報告でわかってるんじゃなかったんですか?見てるんだと思ってました。」
そう、キルは度々視線と気配を感じていたのだ。それが自分の兄のものだということも、わかっている。
それをカイも聞いていたから侵入手段もわかっているだろうと思っていたのだ。あくまで予想、という体をとって誤魔化し、確認する。
「そこまでわかっておるのか。確かに見張らせていた。お主らがまたこっそりと城下町に出ようとした時、引き止めるためにな。
だが、まさか毎日のように会っておったとは思っていなかった。しかもキルクラインはいつも唐突に現れ、唐突に消えるときた。」
本当にバレていなかったようだ。特に隠すようなことでもない、という風にキルが直接説明し始める。
「陛下、私が使っているのは転移魔法です。」
「それはわしらも考えた。しかし、おかしくはないか?城には、転移魔法を制限する魔法がかけられているのは周知の事実のはずだ。」
「はい。しかしあくまで制限されているだけなので、転移自体は可能です。」
王城にかけられている魔法は、転移魔法を完全に禁止するものでは無い。王族の緊急時の避難用や、戦争時国境への兵の投入のため、一部の場所には転移可能となっているのだ。
キルは自分の存在を魔法的に転移を許可されたものとして誤魔化している、と説明した。
「そんなことが可能なのか。これは、ユリウスに話して対策させねば。」
「そうですね。悪用されて侵入者でも出れば大問題です。私の方から早急に回しておきましょう。」
実際は、魔法に誤認させるというのは繊細な魔力操作が求められる高等技術。ユリウスが率いる国の魔法師団でも使えるのは数える程だろう。
キルは元からの才能に加え、隠れることに特化した侯爵家の教育によってできるようになってしまった。
「キルクラインが優秀だとは知っておったがここまでとはな。わしも子供の時は城下町に抜け出そうとロイ達と必死に考えたのが懐かしい。」
「あの時はマチスの魔法にハークスの誘導、さらにゴテスの獣並の気配察知があってどうにか、という感じでしたね。それもバレてたようですが。」
キルの魔法があれば、彼がいるだけで簡単に抜け出すことができてしまう。
また、国王たちは知らぬことだがキルは幻覚の魔法も使うことが出来る。カイの魔力を使えば彼そっくりの幻覚を作ることも可能なのだ。
「父上の誘導、ですか?」
「そう、君の父ハークスはね、既にその時から、」
―組織の長にふさわしい技術を持っていた―
宰相のロイがそう続けようとした時、後ろから肩を叩かれた。振り返ってみても誰もいない。
「どうかしましたか?」
「……いや、なんでもない。とにかく色々準備してやっとだったのにすごいな。」
宰相が何事もなかったかのように会話を続けるので、誰もそれ以上は追求しなかった。
そのまま4人での他愛もない談笑が続く。しばらくして、大臣のひとりが陛下を訪ねて来た。
「失礼します。陛下、今よろしいでしょうか?」
「ホメストーニ大臣か。あの件についてだな。」
「はい。」
それを見て、キルとカイも立ち上がり、退出の準備をする。
「では陛下、我々は失礼します。」
「あぁ、今日は話せてよかった。もしかすると、ユリウスの方から話がいくかもしれんから、その時は答えてやってくれ。」
「わかりました。」
陛下、宰相、大臣それぞれに礼と会釈をしてから、2人は部屋を出る。そしてそのまま、何も言わずに2人は王子の部屋へ向かった。
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