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わ、私は歴とした成人女性です〜!

約2ヶ月ぶりの更新、遅くなりまして申し訳ございません。更新増やせるよう頑張りますので、とりあえずは今回の話をお納めください。

 

「書類には、大きくわけて3種類ある。

 上のものからの指示が書かれた、指示書。

 指示されたことの経過や結果が書かれた、報告書。

 そして、民や領主からの嘆願をもとに考えられた事業の案が書かれた、企画書。

 ここまではいいか? 」

「大丈夫です、兄上。」


 指で一つ一つ指さしながら説明をする第一王子ゲオルグと、それを覗き込むように見て頷く第二王子クロムカイト。向き合って座っている二人の横で、小柄な女性がびくびくしながら、例として出された書類を一緒に覗き込んでいる。


「先生もなにかあったら仰ってくださいね。」

「は、はい〜!殿下がお教えになるのでしたら、私の仕事はないかと思います〜。」

「兄上を指導なさったのも先生なんですよね? 」

「そうだぞ。先生の教え方はとても理論的で、実際の執務の時にも助けられることが多いんだ。」

「そ、それは殿下がすごいのであって〜。」


 王子二人の視線を浴びてさらに縮こまってしまい、先生の体がほとんど机の下に隠れてしまった。ちなみに先生は、一般的な女性よりもかなり小柄で童顔である。カイと同じ年齢と言われても違和感がないほどに。

 そんな先生が怯えた態度をとると、本当に子どものように見えてしまうのだった。先生に苦笑しつつ、ゲオルグが説明を再開する。


「3種類の書類の中で、王族である私たちに回ってくるのは、主に報告書と企画書だな。私たちの上に立つ方というのは、形式上、陛下のみだ。そして、陛下からの命は直接賜ることがほとんどだ。」

「形式上、ですか?」

「そうだな。国王や王族が全ての指示を出すことは出来ないだろ? 国家を運営するにはたくさんの知識と経験が必要なのだ。それを一人で全て補うことは不可能と言って良い。

 だから、それぞれの分野を得意とする者が、どうすべきかを決め、指示を出すのだ。我々王族とて、専門家の指示を仰がねば正しく国を導くことはできない。」


 静かに控えていたキルは、ゲオルグの言葉に密かに驚いていた。

 キルのドクルハイト家は建国当初から続く家で、だからこそ彼はカイの側近候補に選ばれているが、第一王子との交流はほとんどなかった。カイについて王城に上がった時に廊下ですれ違う程度で、政治についての思想を聞くような機会はなく、知っているのは兄としての顔だけだったのだ。


「あれ? でも、僕たちに指示書はほとんど回ってこないんですよね?」

「ああ、彼らからの指示は提案という形で私たちに回ってくる。私たちの役目は、それらが正しいのかを確認し、適切な者に指示を出し直すことだ。」

「なるほど。」


 緩い雰囲気を保ったまま真面目な様子も示すという、絶妙なことをしながら、カイはゲオルグによる政治学の授業を受け続けた。ゲオルグもそんなカイに応えるように、一つ一つ丁寧に説明を続ける。

 キルはカイの斜め後ろに立ち、気配を小さくして控えながら考えていた。カイは、ゲオルグのこの思想を知っていたのだろうか、と。これまでカイは多くの暗殺をしかけられ、その度にキルとともに対処してきたが、ゲオルグのことを調べるよう言われたことは1度もない。中には第1王子派の貴族によるものもあったにも関わらず。

 可能性は低いが、さすがのカイでも、家族のことは疑う気にはならなかったのかもしれない。


「キルクライン君。」

「はい。」


 取り留めもないことを考えていると、横から声をかけられた。キルと同じように脇に控えていたゲオルグの側近、ニード・二グラコラだ。ゲオルグがカイに政治学の実務を教える提案をした張本人である。

 廊下で偶然ゲオルグと出会った時、カイとキルは少し会話をしたら別れようとしていた。しかし、会話が終わる直前、唐突にニードが会話に入り込み提案したのだ。

 せっかく時間が空いているのであれば、ゲオルグが教えれば良いのではないか、と。特に家族との軋轢もないカイがそれを断る理由もなく、先生も全力で首を縦に振ったので、今こうして授業が行われている。


「そう呼んでもいいですか? 」

「どうぞお好きなようにお呼びください。」

「ありがとうございます。では、キルクライン君。貴方も側近としての実務を経験してみませんか? 」


 にこりと尋ねてくるニードを横目に眺めながら、彼に関する情報を引っ張り出す。

 ニード・二グラコラ。二グラコラ家の長男で、宰相を務める父ロイの元で学んだ後、第1王子の側近として働いている。綺麗に整った顔に常に微笑をのせて話す、彼の姿に惹かれる女性も多いのだとか。

 だが、噂や影から少し覗いた程度しか知らなかったキルは、実際にその微笑みを見て、胡散臭いと感じていた。常にこうなのかは分からないが、笑顔が貼り付けられているように思えて仕方がないのだ。


「いえ、お気遣いなく。クロム様の授業を一緒に聞かせていただければ、充分ですので。」

「政務の手伝いに関してはそれで良いでしょうが、側近の仕事はそれだけではありませんよ。(あるじ)の傍にずっと控えているだけでなく、(あるじ)が動きやすいように手回しをする必要があります。」

「それは既に行っていることですので、改めて教えて頂かなくとも良いかと。」

「学園卒業後のことを考えれば、王城の者たちと顔を繋いでおくのは損ではないはずですよ。」


 バッサリと切り捨てたキルの言葉にも動じず、さらにニードは言い募ってくる。正直に言ってしまえば、キルが動きたがらないのは、意図の読めないニードについて行けば、面倒なことに巻き込まれる気がしてならないからだ。初対面に近い相手に親切をしてくれるような善人には、どうも思えなかった。

 だが、そんな考えは微塵も出さずに、ニードを見つめ返す。こういう時に無表情は便利だ。捉え方を相手に委ねることが出来るのだから。

 長いようで短い間、感情の含まれない2つの視線が交錯する。


「――ライン。」


 ふいに書類から顔を上げたカイが、キルの名前を呼んだ。キルはすぐにニードから視線を外し、カイに1歩近づく。そんな2人を、ゲオルグと先生がキョトンとした顔をして眺めている。


「行ってきなよ。僕はここで勉強してるから大丈夫だよ。」

「……承知しました。」


 丁寧に頭を下げ了承の意を示すと、キルは再びニードに向き直った。そして、先程までの会話などなかったかのように平然と口を開いた。


「ご教授、願えますでしょうか。」

「もちろんですよ。」


 にこやかに返答するニードが、キルたちと出会ってから1度も表情を変えていないことに気づいているのは、カイとキルだけであった。


この度は作品を読んで頂きありがとうございます。

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