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照れ屋さん

2週間ぶりです、すみませんでした

 

「それで、お前の本音は? 」


 ハリーから配られた書類をバサッと机の上に乱雑に放りだして、カイの真意について問う。何故、わざわざ放課後の教室で注目を浴びていると理解した上で合同合宿の行き先の話題を出したのか。図書室の個室に行くことぐらいなら、他にどうとでも言えたのだ。

 カイが、行き先に言及したらあの話の流れになることを予測できなかったとは思えない。ならば何か思惑があっての事だと思うのは、キルからすれば至って当然であった。


「ちょっと今のままだと、証拠が足りないんだよね。あと、確証も。」

「証拠と確証? 」

「今回は相手が大きいからね。前回のようにはいかないと思うんだ。念には念を入れないと。それに無事に成功しても、彼がダメな人なら他の方法を考えなきゃいけない。」

「……はぁ。」


 当たり前のことのように話を進めるカイに思わずため息が出る。のんびりした容姿に反して頭の回転が恐ろしく早いカイは、よくこうして必要な言葉を抜くことがある。人前では気をつけているため滅多に出ることは無いが、キルの前では遠慮をしない。

 どころか、敢えてそういう言い回しを使うことで遊んでいる節がある。答え合わせのようにキルが説明し直すところまでがこの2人の決まったパターンだった。



「――つまりお前は、スヴェン・ヴェラッドのやらかしを確かにするためと、領地にいる長男の素質を確かめるためにヴェラッド領に行きたい、ってことで合ってるか? 」

「正解。だから避暑地なんだよ。」

「ああ、そういうことか。」


 アスライト王国は西に海、北に山脈、東と南には他の国との国境を持つ大国だ。海と山には魔獣が跋扈しているため、そこに領地を持つ貴族は戦いに慣れた、武闘派と呼ばれているものばかりになっている。

 しかし、東南の周辺国との国境付近の領地は隣国と穏やかな関係が続く今、警戒する必要が無いのだ、表向きは。代わりに人の流れが多く商業が盛んで、そういう方面での絶妙なバランス感覚が必要とされる。


 ヴェラッド領はアスライト王国最南の領地。隣国、ゴルドスタイン皇国との貿易の要であり、南の首都とも呼ばれているとても栄えた場所だ。王都からゴルドスタインの首都に行くにはここを通るのが最も近いため、両国から人もものも集まってくる。


「避暑つったら普通、北か西に行く。王子殿下が避暑地に好印象を持っていて、かつ具体的な地名がわかんないならそこら辺に賭けるしかない。つまり、北と西に希望が殺到するわけだ。だが、実際にお前が行きたいのは暑っつい南側だと。」

「そう。ハリー先生は僕たちを贔屓なんてしないだろうから、自然と希望が通るようにするにはこれぐらいしないとね。先生は方針が一貫しすぎて逆に誘導しやすい。」

「お前それ馬鹿にしてるように聞こえるぞ。」

「まさか。」


 カイが心外な、というようにわざとらしく目を見開いてみせた。その態度が馬鹿にしているように見えるんだ、と言う言葉がでかかったがギリギリで止める。

 カイの場合はどこまでが計算でどこまでが無意識なのか判断がつかない。全てわかっているようで何も考えてないことも多いのだ。言うだけ無駄だろう。


「まあお前がどうしようと好きにすりゃいいけどな。他に細工はいるか? 」

「いや、大丈夫。あそこは体を動かしたい人が来るところだから。」

「大森林か。確か合宿中にそこで狩りするんだったな。」


 国境をまたぐように、ヴェラッド領とゴルドスタインに広がる、ラカディー森林。通称大森林と呼ばれるそこは、普通の動物ではなく魔獣が住み着く、一般人には危険な場所だ。魔獣が森から出て街を襲わないよう、定期的に間引きする必要がある。

 教室でサラッと目を通した書類を思い浮かべ、そういえばそんなことも書いてあったと思い出す。そこには一定の実力があるものに限ると書いてあった。


 しかし、その点についてキルとカイが引っかかる心配はないだろう。キルの魔法の実力は魔法師団も驚くほどだし、ドクルハイト家の特殊な環境で育ったため身体能力も高い。

 カイも攻撃魔法は滅多に使わないとはいえ、使えない訳では無い。喋り方や雰囲気から動きが遅いとよく勘違いされるが、自分の身を守るために武術を身につけてきたので充分役に立つだろう。

 どちらかと言うと、あのゆるい雰囲気のまま人を投げ飛ばしたりもするので、周りが呆然とするのではという方が心配される。


「制限があるなら、そもそもそんな競争率高くないんじゃないか? 」

「制限と言っても入学前から鍛錬を積んでいれば合格できるぐらいのものだよ。特に1年生はまだ実践経験も少ないのを考慮して、判定も甘くなる。

 毎年、ちょっと練習した剣術や魔法を披露するためだけに希望する、自己顕示欲が強くて頭の悪い人達が一定数いるらしいよ。希望者が多いと、軽く試合をして強いひとから選ばれることになるんだ。」

「あー、それは面倒だな。そこまでして行くのも馬鹿らしい。」

「君はそう言うと思って。」


 カイとキルであれば、もし試合をすることになることになっても選ばれること自体は簡単だろう。それでも他の生徒の興味を別の場所に移したのは、結局のところその試合をするのが面倒だからと言うだけだなのだ。王子の一言で行き先を変えるくらいの生徒なら、どうせ試合をしたら落とされるのだから無駄を減らしただけだと思っている。


「さすがに1週間もある合宿に君と行けないのはつまらないし、嫌だ。」

「あっそ。」

「あれ、もしかして照れちゃった? 」

「呆れてんだよ。人を玩具扱いしやがって。」

「ふふ、そういうことにしておこうか。」

「うるさい。」


 あだ名とは似ても似つかないニヤニヤとした笑みを浮かべているのを自覚しつつカイは、キルをからかう。キルは自分に都合の悪い話だと割と直ぐに話を切ろうとする癖があるのだ。

 からかわれて顔を逸らしているキルは――世間ではクールだなんだと言われているが――可愛いと表現するのが相応しいとカイは常々思っている。


「とにかく、これで面倒なことは避けられるんだな? 」

「多分ね。2、3年生に関しては何もしなくても、例年だと1年で懲りて辞める人が多いらしいから大丈夫。」

「なら、いいか。」


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