親バカ兄バカ
だいぶ遅くなってごめんなさい。話の進め方がわかんなくなりまして、ちょいちょい文も違和感あるかもしれません。
温かい目で読んで下さると嬉しいです
カイが妹へと話題を移し追求を逃れていた頃、ドクルハイト家でもまた家族の会話がなされていた。
「ライン、今日もかっこいいね!」
「ライン、今日も可愛いね! 」
「今日は城下に行ってきたんだってね!」
「殿下と行ってきたんだってね! 」
「「楽しかった?」」
「……僕はクロムカイト殿下についていただけですので。」
「「ええー。」」
不満を訴えるようにに口を尖らせる、瓜二つな顔の2人。少し白みがかった軽そうな髪も、切れ長でイタズラな光をたえた碧眼も、実年齢よりも幼く見える各パーツの配置も、全てが鏡写しのよう。それぞれ左右片目を隠すように伸ばした前髪がなければ2人を見分けるのは困難だろう。
片目を覆う髪を慣れたように避けてサラダを食べながら、双子が文句を垂れる。
「ラインが殿下を大好きなのは知ってるけどさ、別に一緒に楽しんじゃダメなわけじゃないじゃん。」
「今日行ったとこはラインにとってそんなつまらない場所だったの? 」
「いえ、それほどでは。ただ、あくまで僕は側近としてついていただけということです。」
「「よかった!! 楽しくなかったわけじゃないんだね! 」」
本当に嬉しいのだろう、先程までの不満気な空気をさっぱり消し、部屋が一段階明るくなったように錯覚するほどの笑顔を浮かべた。あまりの変化にわざとかと疑いたくなる。
ちなみに、キルが表情をあまり動かさないのは家族の前でも変わらない。外で他人と接している時よりは不自然でない程度に抑えているが、それでもぱっと見て気を弛めているとわかるほどではない。
しかし、双子を含めた家族や昔からいる使用人らはそれをいとも容易く見抜く。今も、昼間に見たカイの潔いほどの作り笑いを思い出して少し可笑しく思っていたら、その様子を言葉の端から感じ取ったらしい。話していた双子以外の家族も、どこかほっと安堵したのを感じた。
「殿下とはどこに行ったんだ?」
「今日はエスコーツ商会に行きました。」
「ほう、確かあそこは貴族や王族をお客にはしないのではなかったか? 」
父ハークスも嬉しそうに会話に加わってきた。貴族の間でも時々話題になる商会の名前が出てきたことに、僅かに目を見開き驚いてみせる。貴族に楯突く下賎な輩、権力に屈しない優秀者、と見方はそれぞれ異なるが、やはりその珍しい経営理念は無視できるものでは無い。その動向を伺っているものは多いのだ。しかし、情報を集めるという点において一流であると言っても良い"組織"でさえ、王子と侯爵子息が商会の者と面識があるなど聞いたこともない。
「基本的にはそのようですね。」
「じゃあラインは特別ってことだよね! 」
「エスコーツ商会、見る目あるね!」
「いえ、僕達はあくまで平民としてお忍びで行ったので、貴族と気づかず注目していなかっただけの可能性もあります。」
「――それはない。」
無意識的にも意識的にもひたすらラインに甘い家族は、隙あらば彼のことを褒めようとしてくる。そんなに甘やかされてよく我儘にならなかったよね、とはドクルハイト家の会話を聞いたカイの談。その時カイは何故か遠い目をしていた。
キル本人としてはあまり持ち上げられても困るので、やんわりと兄の言葉を否定する。商会を使って褒められたせいで、自分を下げることで遠回しに商会も下げてしまったのは仕方がないだろう。家族だけの会話なので許して欲しい。
と、あまり深く考えずに発言すると即座に強く否定された。滅多にないことに思わず手を止めて疑問の目を父に向ける。
「ラインのこの素晴らしさがお忍びのための変装ぐらいで薄れるわけが無い。」
「確かに!ラインの変装はすごいから貴族だとは思われないとしても、」
「ラインの良さを隠せるわけないもん!」
「「ねー! 」」
「……。」
もはや何を言っても変な方向へいく気しかしなくなったのでスルーする。ある意味でどう頑張っても勝てない相手だ。
「そういえばあの時も……、」
「そうそう、他にもラインは……、」
「あんなことも……、」
その後夕飯の間、本人抜きの思い出話は途絶えることは無かった。
翌日、いつもの通り、カイとキルは学園の馬車止めから教室までを一緒に歩いていく。入学当初2人の周りに群がっていた生徒は今はもう居ない。おかげで2人は盗み聞きを気にせず話すことが出来た。読唇術なんてものができる生徒がいるとは思えないが、念の為お互いを見ず口を動かさずに話す。
「君も昨日は尋問された? 」
「尋問ってな。俺んとこはまたよく分からない俺褒めよう大会になって終わったよ。そっちこそ大丈夫だったのか? 騎士からの報告もいってただろ。」
「まあ、そこはほらあの家族だから。マインが言った我儘に乗っかる感じで話題を逸らしたら直ぐに乗ってくれたよ。」
一瞬の沈黙の後、それまで真っ直ぐ前を向いていた2人の視線がカイが振り返ったことでふと重なる。そしてどちらからともなく笑いだした。片方は、ご機嫌を表すようにふわふわと。もう一方は、口元を隠して目を細めて。あくまで表向きの顔のまま、それでもカイとキルはお互いが同じことを思っただろうことがわかった。
いつの間にか止まっていた足を進め、再び教室への道を歩き始める。
「末っ子に甘えてんのはどっちも同じか。」
「そうみたいだね。」
2人の笑顔を見た周囲に女子生徒は、きっと胸を押さえていることでしょう。
という冗談はさておきこの度は作品を読んで頂きありがとうございます。
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