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結局全員甘い

遅れました。でも、ギリギリ1週間はいっていない!

というわけで、少し短いですが、どうぞ ˭̡̞(◞⁎˃ᆺ˂)◞

 商会へとお忍びで行った日の夜、晩餐を食べながら、カイはそれとなく店長バオとの会話を探られていた。


「今日は城下に遊びに行ったのじゃったな。楽しめたか?」

「はい! 城下はいつ行っても賑やかで、珍しいものばかりです。」

「クロムがエスコーツ商会の店長と知り合いだったとは驚いたぞ。いつ知り合ったんじゃ? 」

「前にラインと城下に下りた時です。あそこには色んな種類のものが売っているので楽しくて何回も行っていたら、店長さんにお話を聞けるようになったんですよ。」

「例えばどんな話なのか、教えてくれぬか? 」

「それはバオさんと僕とラインだけの秘密です。」


 上座に座った国王がにこやかにカイに話しかける。その顔は普段家臣らに見せるような凛々しいものではなく、子供との会話を楽しみにしている普通の父親のような柔らかい表情を湛えたものだった。カイもそれに普通の子供として無邪気に答える。

 内心、護衛をあんな追い出し方したらやっぱ怪しまれるかぁ、と思ってもそれを表に出すようなことはしない。高貴な家の親子は、にこにこと会話を楽しみつつ、手元は優雅にフォークを操り肉を切り分ける。


「クロムおにいさま、ずるい。マインは行ったことないのに。」

「マインも大きくなったら一緒に行こうね。その時にはお兄様がいろんな所へ案内してあげるよ。」

「やだ、マインはいま行きたいの! そうよ、明日行くわ! いいでしょ、おとうさま? 」


 いいことを思いついたというように、妹は目を輝かせて国王を見つめる。カイとは違いサラサラと流れる真っ直ぐな髪に、ぱっちりと開かれた大きな橙色の瞳。まだ幼いながらも既に将来美人になるだろうと容易く想像出来るこの少女は、アスライト王家の末っ子にして唯一の姫、マインベル・アスライト王女だ。


「そうか、マインはまだ小さいのに、もう民の生活に興味があるのか、偉いな。」

「ええ、本当に。民を守るための王家ですからね。」

「ああ、マインはきっと王族に相応しい子になるじゃろう。だが、外は危ないことも多い。少し心配じゃな。 」

「騎士のみんなが守ってくれれば大丈夫よ!だからね、お願い! 」

「そうじゃな……。」


 子供たちの中で唯一の女の子であるマイン。おまけに美少女と言って差し支えない容姿だ。甘やかされて育ったことは言うまでもないだろう。親である国王と王妃だけでなく、年の離れた長男もマインのことを蝶よ花よと大切にしている。だからと言ってカイが蔑ろにされているということも無く、本人も親に甘えたがるような可愛い性格でもなかったため、特に気にすることもなかった。

 しかし、そのせいでマインが段々とわがままな性格になっているのはいいのだろうか、とは常々思う。末の娘が可愛いのはわかるが、やり過ぎは良くないだろう、と。まったく子供らしくない思考であるが的を得ていた。実際マインは、全てのことはお願いすれば叶えてもらえる、と思っている節がある。


「おとうさま? 」

「わかった、では――」

「父上、ちょっと待ってください。」


 娘の可愛いさに負けて国王が許可を出そうとしたのを、いつもと変わらないゆったりとしたカイの声が、しかししっかりとした意志を持って遮った。


「なんじゃ、クロム。」

「マインに城下はまだ早いんじゃないですか? だってマインです、城下に出たらきっと大変なことになりますよ。」


 この"だって"には、『だってわがままに慣れきっているマインが民に紛れるわけがない』という思いが込められている。もちろんそんなカイの本音など知らず、他の3人はごく自然に『だってどこにいても目を引くくらい可愛いマインは攫われてしまうかもしれない』と勘違いしていた。が、思い直すきっかけにはなったため、そのすれ違いが判明することはなかった。


「む、やはりクロムもそう思うか。」

「おにいさま、酷いわ。自分ばっかり楽しい思いして、マインに意地悪するなんて! 」

「マイン、僕は意地悪で言ってるわけじゃないよ。」

「じゃあ、なあに? 」

「マインのことが心配なの。」

「心配? 」


 不思議そうな、でもどこか期待しているような表情で、マインがカイのことを見つめる。


「だってマインはもし城下で1人になっちゃったら、どうすればいいか分からないでしょ? 」

「1人になんてならないもん! 」

「ねえねえ、マインは知らないでしょ? 民たちって歩くのがとっても速いんだよ。マインが一緒に歩いたら、きっとすぐに吹き飛ばされちゃうよ。」


 何故か少し自慢げな様子で、カイが自分たちと民たちの違いを説明し始める。それをワクワクした目で聞き入るマイン。最早その会話の主導権はカイが握っていた。

 ちなみに、国王はそれに訳知り顔で相槌をうち、王妃は微笑ましい気持ちで見守り、長男は興味深そうに話を聞いている。


「じゃあ、マインはどうすればいいの? 」

「簡単だよ、吹き飛ばされないように訓練をすればいい。」

「訓練? 」

「そう、ぶつかられても大丈夫なように、体の芯を鍛える訓練。それはね、ダンスの練習だよ。」


 思わずキョトンとした後、嫌そうに顔を顰める。


「ダンスの練習は嫌い。だってつまらないもん。」

「でも、ダンスの練習をすれば体の芯が鍛わって、民たちの中を歩けるようになるよ。そうしないと、僕は心配でマインを城下に行かせたくないな。」

「!」


 うーんうーんと唸りながら必死に考える。城下には行きたい。でも、ダンスの練習はやりたくない。どっちを優先するべきなのか。マインの中でその2つはどちらも譲れないことだった。故に、その判断を下したのはただ嬉しかったからだ。カイが本気でマインのことを考えてくれたことが。


「わかったわ。マイン、ダンスを頑張る! だから、マインが上手になったらおにいさまがマインを案内してね! 」

「もちろん。」


 やる気をみなぎらせているマインも、兄妹の仲良しな会話だと微笑んでいる家族も、上手に言いくるめてくれたと感謝している使用人たちも、誰も気づくことは無かった。

 カイが意図して話題を変えさせ、自分への追求を逃れたことに。


この度は作品を読んで頂きありがとうございます。

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