隠密って言いかけてて内心ちょっと焦った
更新遅くなってすみませんm(_ _)m
もう毎週更新途絶えちゃいました泣
「つまり、俺たちをお前の部下として雇いたいって話か?」
人身売買の現場から助け出した最年長の少年に雇用を提案したカイ。少年はまだ完全には警戒を解いた訳では無いが、詳しい話を聞かせるために一旦席につかせる。まだ幼いサックには話しても分からないだろうと、他の子供たちの元へ帰らせた。
「正確には、僕の側近候補であるキルの部下、だけどね。」
「側近候補? それは側近にそいつがなれない可能性もあるってことか?」
「どうかな? それはキルにかかってるけど。君はどう思う?」
全く悪意のなさそうなふわふわとした笑みと口調で、カイはキルに問いかける。ゆるふわ王子の所以たるその表面的な仕草にほとんどの者は騙されてしまうのだろう。だが、幼少期から共に過し、2人だけの時は素で接し合うキルには、その瞳の奥に浮かぶからかいの感情がありありとわかった。
自信を持って自分の能力を誇示するのか、それとも忠誠を示し努力することを誓うのか。実際のところカイは、キルが側近にならない可能性を微塵も考えていない。それほどの信頼を寄せているし、能力があると知っている。キルがほかの未来を選択肢に入れることはないと確信しているのだ。
だからこそ、普段力を見せて目立つことを嫌い、恥ずかしがり屋でもあるキルが、どのようにして答えるのかを期待している。どう答えようとも揶揄うつもりではあるが。
「 ねぇよ。」
「どうして? 」
面倒くさそうに言い放ったキルに、笑顔で問い直す。するとキルはチラとカイを見てニヤリと笑った。その表情にあれ、とカイは内心首を傾げる。
「まともな貴族はお前の側近になりたいなんて言わないさ。なら、俺が何をやらかそうが側近から外されることはなくて、安心てわけだ。」
「……ふふ、酷い言いようだなぁ。でも、そっか、確かに本当だからなんとも言えないね。」
「おい! ちょっと待て。」
2人だけで進んでいく会話に、慌ててリナウが言葉を挟み込む。聞き捨てならない言葉が聞こえたからだ。
「他の貴族は側近になりたがらないってなんでだ。」
「さあ? 僕から言えるのはひとつ、一般的な貴族は家を継ぐ可能性の全くない次男に仕えさせるのは長男の枠が完全に埋まってしまった後だということだけだよ。」
「一応親の体面は保てて、自分は楽にこなせる地位を何故選ばないのか俺は不思議でしょうがないがな。」
睨む勢いで聞いたリナウの言葉にも、2人はどこか軽い口調で平然と返してくる。確かにその言葉を聞いたら、2人が一般的な貴族でないことはよく伝わってきた。
ストリートで生活してきたリナウのイメージする貴族は、期待されていないことを笑顔で話したりしないし、地位を楽だからという理由で選ぶなんてしない。そんな、リナウにとって良い意味で貴族らしくないキルとカイに、少しの呆れと共に信じてもいいかもしれないという思いが浮き上がってきた。
「あんた達のことはなんとなくわかった。そのうえで聞くが、本当に俺たちを全員雇ってくれるのか? 」
「もちろん。全員って言っても4人だよね、それくらいなら大丈夫だよ。」
「……わかった、俺たちを雇ってくれ。」
「いいよ。君たちが僕のために働いてくれるのなら、僕もそれに見合ったものを返すと約束しよう。キルもいいね?」
「ああ。」
リナウがソファに座ったまま深々と頭を下げ、カイが微笑んで応える。その様子にそれまで口を挟まないようにしていた、シエラとデインが嬉しそうに笑った。
「良かったね、リナウ。こんなとこだからね、アタシらん中にもストリート出身のやつも多くて心配してたんだよ。」
「まだ幼いお前らをここにいさせる訳にもいかねぇからな。でも、そいつらが面倒見てくれんなら大丈夫だろ。んで、具体的にこいつらをどうするつもりなんだ? 」
「しばらくは、俺らの知り合いが会長をやっいてる商会で従業員として働いて貰うことになる。」
「商会? 」
「うん、エスコーツ商会って言うところ。知ってるでしょ?」
「!?」
ここ数年で急激な成長を遂げ、今ではここアスライト王国を中心として世界中に店舗を展開している大商会がある。それこそがエスコーツ商会だ。日用品や魔道具、食料、武器まで幅広いジャンルを取り扱っており、エスコーツ商会に行けば手に入らないものはないと言われるほどだ。
この商会には普通の商会ではありえないルールがあった。
「エスコーツ商会!? あそこは王族貴族には商品を売らないんじゃねぇのか。」
大商会でありながら、王族貴族に商品を売ることを拒否し、庶民のみを対象に商売を続けている変わった商会として名を馳せているのがエスコーツ商会なのだ。
普通商会が大きくなろうと思えば、貴族のパトロンの力によりさらなる貴族との繋がりを得て販路を広げなければならない。庶民だけを対象とした商売では国をまたにかけるほどの利益を上げることは不可能だからだ。
しかし、エスコーツ商会は新しい販売方法を導入し、幅広いジャンルを幅広い価格帯を揃えることでそれを一代で実現して見せた。その裏には会長の柔軟で斬新な発想と、冷酷さと人懐こさを合わせ持った性格によるツテの広さがある。
「そう、売ることはしない。でもそれは言葉通りの意味でしかないんだ。」
「まさか!」
「売るのはダメでも、買うことは出来る、つまりはそういうことだ。詳細は省かせてもらうがな。」
会長との初対面を思い出し、キルは疲れたようにため息をついた。独特な感性を持つ会長との会談はカイにほぼ任せ切りとはいえ疲れるのだ。普段偽りの仮面を被り自分の思うままに行動する2人にとって、数少ない振り回される相手と言えるだろう。
「ふーん、まあそんなのはどうでもいいけど。そこで俺らは何すればいいんだ?」
「まずはそこで従業員として鍛えてもらって、一般常識や、教養を身につけて欲しいんだ。さらに週に2、3回はキルにお、戦闘を学んでもらうよ。」
「お戦闘? 貴族ってのは随分おかしな言い方をするんだな。というか、喧嘩なら俺らはお前らよりよっぽど慣れてる。」
「喧嘩ではなく、戦闘だと言っているだろ。対人、魔物どちらに対しても通用するような技術を叩き込んでやる。」
「それである程度までになったら、直接キルの元に行ってもらうことになるから、よろしくね。」
拳を作ってアピールしたリナウを、キルが呆れたように見遣る。その視線にイラッとし睨みつけるがキルは何処吹く風といった様子だ。さらに、ふと懐に手を入れ懐中時計を取り出すと、カイに向かって口を開いた。
「おい、そろそろ時間だ。」
「ん、そっか。じゃあ、君たちには早速着いて来てもらうから、他の子たちと一緒に準備して来てね。シエラさん、デインさんも今日はこの辺で。また、いつか。」
「ああ、アンタたちならいつでも歓迎するよ。もちろん仕事をね。」
退出のために立ち上がり、感謝の言葉を伝える。キルはさっさと歩きだし先に廊下へ出て待っている。
「行くぞ。」
「うん。じゃあ、また。」
その後をカイもゆったりと歩いて追っていく。カイが扉を通り抜けた時、ふとキルは振り向くと部屋の中のシエラたちに呼びかけた。
「どうした? 」
「ひとつ言い忘れていた。今日渡した魔道具だが、分解、解析しても構わない。ただし、何重にも施してある偽装と隠匿を解ければの話だが。では、そういうことだ。」
最後に特大の爆弾を残して、キルとカイは4人の子供たちを連れ、橙色の百合の拠点を後にした。
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