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趣味と性格は必ずも一致しないらしい

 アスライト王国は、大陸中央に位置する大国である。

 戦乱の時代、数多くの戦火を鎮め平和を求めたアスライト王国初代国王の姿勢には多くの小国が賛同した。それらの国の王は、アスライト王国に付き従うことを決め、やがて大陸に平和が訪れた時には王国の貴族となった。

 小国の王がなった貴族と元から各国にあった貴族が存在するため、アスライト王国の貴族の数はとても多い。

 その中でも、建国物語にも出てくる初代国王の親友たちの家を三大貴族と呼ぶ。三大貴族以外の公爵家は全て、小国の王家だった家だ。


「で、伯爵に指示を出していたのはそのうちの一つ、ヴェラット公爵家だったわけだけど。」

「まぁ、予想通りっちゃ予想通りだな。」

「問題はどうやってつつくか、だね。」


 ヴェラット公爵家。戦乱の中、比較的最終期にアスライト王国にくだり貴族となった、国境を持つ公爵家である。

 現在の当主は、スヴェン•ヴェラット。当主であるにも関わらず一年中王都の別邸に住み、領地の仕事は全て代官に任せきりという、悪い貴族の代表例みたいな男だ。


「公爵領は広い上に隣国と接してる、国防の要と言ってもいい場所だ。ただ排除しておしまいにはできない。」

「そうだね。でも、王族の殺害未遂となると当主ひとりの首では済まされない。」

「できるだけ大事にはせずに、当主だけすげ変えるのが1番か。」

「そのためには適度な罪が必要だね。よし、当主を探ろうか。そもそも理由も調べず排除するのは良くないしね。」


 にこっと、多分に含みを持った笑顔で話すカイに、また忍び込むつもりかとキルは呆れ顔だ。人を動かすことに躊躇しない癖に変なところで自分がやりたがるのがカイだとわかってるので、止めようとは思わないが。


「いつがいいかな?」

「1週間後とかなら。一応公爵家だし、念入りに調べておきたい。トラブルは面倒だ。」

「ふふ、キルらしいね。わかっ――」


「おいおい、随分いい服着てんじゃねえか。こんなとこにいてもいいのかなぁ、ぼっちゃん?」

「ほんとになんて格好してんだ。貴族ではこんなんが流行ってんのか?」

「んな事どーでもいいだろ。」


 突然後ろからかけられた声にゆっくりと振り向く。その先にいたのは、ガタイのいい如何にもチンピラといった雰囲気の5人の男だった。

 ちなみに、キルとカイは伯爵家から王都の路地裏に転移し、適当にぶらつきながら会話していた。変に家でコソコソするより楽だから。


「だから姿隠そうっつったのに。」

「えー、これもお忍びの醍醐味だよ?」

「おい、 無視すんじゃねぇ!」


 声の元がわかっても怯える様子なく、コソコソと話す二人にひとりが手を出した。

 胸ぐらを掴もうとする手をカイは一歩下がって避ける。勢い余った男が1歩前に出るがそれももう一歩下がって避けられる。


「無視したつもりはなかったんだけど。ごめんね。それで、僕達に何か用事かな?」

「おう。お前ら、いいもん着てる割に護衛つけてないだろ。」

「あ、この服いいでしょ? すごく着心地が良くてお気に入りなんだ。」


 無邪気な笑顔を浮かべその場で一回転してみせる。ゆったりとした裾が風を含んで少し膨らんだ。

 あまり話が通じていなさそうなカイの様子に、話していた男の顔が引き攣る。


「あ、あぁ、いい服だな。だが、こんな路地裏でそんな格好で子供だけでいたら襲って下さいって言ってるようなもんだぜ。」

「大丈夫だよ!ラインはすごく強いんだ。」


 ねっ、と言ってカイがキルに笑いかける。

 つられて男たちもキルに注目するが、当の本人は少し頭を下げただけでなんの表情も伺えなかった。

 なるほど、従者だかなんだか知らないがよっぽど信頼しているから全く恐れる様子がないのか、と男たちは納得した。

 だが、男たちからしたら従者と言っても子供。大人の自分たちが心配することはないだろう、と判断してしまう。


「そいつがどれだけ強いのかは知らねぇが、それでも大人数に囲まれたら勝てるか分かんねぇだろ?」

「それは、どうだろう?」

「こんなとこにいるような奴らはみんなプロだ。ガキだからって容赦してくれないぜ。」


 カイは男の言葉に困惑した表情になり、キルの方を振り返った。しかし、キルは男たちの方を見ていてカイの様子に気づかない。


「だからよぉ、親切な俺らがいい所まで案内してやるよ。」

「ほんとう!?やったね、ライン。」

「……はい、丁度良いですしお願いしましょう。」


 キルの言い様に少しイラついた様子を見せた男だったが、ガキがイキがってるだけだと思い直し背を向け案内を始めた。


「こっちだ、着いてきな。」

「はい。ありがとうございます。」


 二人もそのまま歩きだす。男たちの意識が完全に前を向いたことを確認した後、聞こえないように小声で話し始める、腹話術で。


「それで、何が丁度良いの?」

「あいつ、あの右端にいる一言も喋らないやつ。兄上の資料で見たことがある。王都にある闇組織"橙色(とうしょく)の百合"の構成員だったはずだ。」

「花言葉から来てるのはわかるけど、それにしても随分可愛らしい名前だね。」

「まぁな。でも、実力は確かって話だ。」

「そんなとこから人員を呼べるくらいの資金はあるってことね。さて、収入源は何かな。」


 二人が話している間にも、男たちはどんどん路地の奥へ奥へと進んで行く。道は徐々に細くなっていきどこか空気も重たい。


「ねぇねぇ、本当にこっちであってるの?」

「心配すんな、もうちょいで着く。」


 まもなく男が立ち止まったのは、古びた看板と扉の酒場だった。


「ここがいい所だ。」


橙色=オレンジ色の百合の花言葉は「憎悪」だそうです。それっぽくて語呂がいいので採用しました。

この度は作品を読んで頂きありがとうございます。

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