デモと奇襲
備えがないとこんな感じになりそうだなという想定です。
一応電光石火っぽいですが、現代でも最先端の人はもっと手際よく進めると思います。
文才がなくて、伝わりにくいところはすみません。
楽しく読んでください!
店に入るとぶわっと薫ってくる檜の匂い。ここまでは昼間と同じなのだが、打って変わって店内はネオンだらけのプロジェクタースクリーン、に見える踊り子たち。もちろん本物ではないしアンドロイドでもない。どうやら俺は見惚れてしまっていたようだ。右耳からユウキの声が聞こえて我に返る。
「ああいうのがいいの?」
「いや、この時代のこういう店は初めてだから」
「この時代は、ね?」
どうにも怒らせてしまうな。。。店のネットワークに接続し、すでに香ママと楽しそうに音声チャットしているユウキとの間の一瞬のすきに。
「カウンター座らせてもらう?」
と問いかける。
「そうだね。その方が楽しめそうだし。カオリさん、真ん中陣取っちゃっていい?」
驚いていた香ママは
「え、ええ、あなた、ノンケ。。。いえ、チップ入れてたの?」
「改めてこんばんは。桐生孝志です。色々あって、『ノンケ』ですよ。ギムリィに(右耳を指差し)プロトタイプ作ってもらったんです。実験モルモットみたいなもんですよ」
「ギムリィに、なるほどね。じゃ、お店開けてくるから、軽いアルコールと摘まみで待っててくれる?」
「ええもちろん」
「私も待ってるよ」
カウンター奥でチーママのように寝そべっているが、妙に存在感のある黒猫があくびをしていて。
「ノワール」
「え?」
「(黒猫を指差し)ノワール」
「ああ、猫の名前か。よろしくね、ノワール」
ふてぶてしく片目でちらっと見た後にそのままストンとうずくまる。一見さんみたいなものだし。ユウキに愛想しただけだろうと苦笑いしてしまい。背後から檜の薫がぶわっと入ってきて、ノワールがすっと立ち上がり、ひと啼き。
「お待たせしちゃったわね。日本酒の銘柄は詳しい?料理に合わせてお出しできるわよ。昼間も言ったけど合法で正規版の日本酒よ」
「(小料理屋っぽいのか?見た目完全にバーだけどと思いながら)有名なのしか知らないですね。しかも地酒はほとんど銘柄は覚えてないです。〇殺しとか月〇冠ぐらいなら言えますが」
「有名?全く聞いたことない銘柄ね。ブレイブハートやダイヤモンドダストはご存じ?」
ん?日本酒だよね?カクテルじゃなくて?背後でカランとドアの鈴が鳴る。どうやら俺以外のお客さんが来たようだ。
「ずいぶん太古の日本酒をお知りの御仁のようですね」
「あら、イッカクさん達いらっしゃい。適当に掛けて」
4人いるようだ。男女2人。見た目の年齢は40-50代と言ったところか。男性はスーツ姿、女性はナイトドレスだ。さっきの御仁というのは、たぶん俺のことを言っているのだろうと思い、会釈で小さくどうも、と答えた後にネットワークで話しかけられていることに気付き、しまったと思い。ただ、女性2人はどこかであった気がするんだが、思い出せないな。
「面白い人だ。僕らは(メニューをいくつか頼んでいる)。あ、カオリ、モニターでニュース観てもいい?」
呪文のようなメニューをスラスラと言っている辺り常連客なのだろう。俺はユウキがこれっていうメニューがないなら香ママのお勧めでいいか。酒の味すらまだ試してないし。この食前酒はフルーティであっさりしててよかったな。モニターが付いてニュースが流れ始める。自分のHMDでも観れるだろうに、モニターの方が風情があるってもんなのかな。俺としては情報共有って意味ではありがたいが。あ、俺をノンケだと配慮してくれたのか?モニターにはNEOTOKIOの各地の平和な風景が流れている。ニュースなんていつの時代もこんなもんか。
「たった今緊急速報が入りました。NEOMITAKAにてデモが暴動化した模様です。世界レズビアン党とホモ政党の抗争に発展しそうです!付近の方々は避難もしくはシェルターへ移動してください!現場のオオモリアナ!」
「はい!こちらオオモリです!今まさに双方銃口を向けて撃ち合わんとしている現場からお伝えします!」
突然目が一つしかない女子アナの姿がモニターに映る。んん?政党がデモするのは分かるが暴動?しかも抗争だと?俺は先に目に入ってきた目が一つしかない女子アナにかなりびっくりしていたんだが、周りを見ると、ユウキも4人も大して驚いていない。ま、政党やLGBTについては俺も別になんとも思わないが。ガシャンとグラスが割れる音がして香ママがモニターを睨めつけていた。
「あの子たち、早まったことをして!」
今の香ママの反応を見て、デモ発起側の世界レズビアン党とやらに知り合いがいるようだ。ユウキとの個別チャットに切り替えて。
「身体のほとんどをサイボーグ化したとして、相手を無効化する場合ユウキならどうする?」
「一撃ならヘッドショットで即死が一番。下手にチップだけとか人格破壊プログラムだとバイオロイドかロボノイド化する。今のサイボーグを拘束手段は正規軍が持つ電磁錠しかないし、闇以外では市場には出回らない。他は分かんないよ」
なるほど。だが流石に暴動はまずいだろと思いながら、ジムリィに音声チャットを繋ぐ。
「ジムリィ、さっきの今ですまん、音声でいいから教えてくれ」
「なんじゃ、藪から棒に」
「相手の人格、身体機能、精神機能、神経系にダメージを与えず、無効化する方法はあるか?電磁錠は無し。」
「。。。お前さんのことだ、ネットワーク経由のハックだな?(俺は小さく相槌の声を出す)2つある。ひとつはチップを暴走、または完全シャットアウト。これはネットワーク経由で侵入している場合は強制切断されるが、相手はスタンドアローンになるため、ほぼ無効化に近いが複数チップがある場合すべて行う必要がある。もうひとつは、神経からチップへのIN信号だけ遮断し暗号化ロックをかける」
「なるほど、チップをハックして入力側の主導権を握るのか。今の標準の暗号化方式は?アルゴリズムプログラムを転送してくれないか」
「もうやっとるわい。ソルトとハッシュは説明せんでも分かるな?readme(簡易取扱説明書のこと)入れてあるが、キック用のシェル(起動プログラム)は確認するんじゃぞ」
「助かる。今度酒奢るよ。流石にそれ知らなかったらエンジニア名乗れないよ(笑)」
店内ネットワークに切り替え、Botプログラムで並行で別のことをさせておき。
「香ママ、世界レズビアン党ってのは知り合いなの?」
「。。。ええ。私は政治は分かんないけど気のいい連中なんだよ。それをホモ政党の党首が執拗に煽ってきやがって。早まるなと言い聞かせていたんだけどね。私に似て貫いちゃうと止まらなくなっちゃって。。。」
無理に笑い顔作らなくていいですよー、引きつってます。私に似てってちょいと引っかかるんだが。。。
「止めるにしてもMITAKAだとなー」
「KITIJOHJIならポータルですぐなんですけどね」
「警官程度じゃ止められないだろうし」
「今すぐ軍を出したとしてもヘリで10分以上はかかるな」
「一番近くてNERIMAかFUTYUか。そのぐらいはかかるし、人数的に難しいだろうね。アンドロイド含めたら双方合わせて300人程度でしょ、これ」
「衝突したら被害は避けられんか」
4人は現実的な話をしてくれているようだ。わざと店内ネットワークで話してくれているのがありがたい。俺はノートPCを出して、ヘッドコンソールを接続し。ギムリィからのプログラムが着信完了していることを確認して、ざっとreadmeを斜め読みしてから。
「香ママ、5分以内に暴動止めたら、今日のお酒奢ってくれる?」
「何言ってんの!できるわけないでしょ!報酬って言うなら、今日の売上代ぐらいは出してもいいわ!」
「(怒らせるつもりはなかったんだが、ちょっと挑発的過ぎたかな。言質は取った(笑))ユウキちょっと行ってくる。リアルの俺の体は任せていいか?」
「OK。見るだけなら付いて行っていい?リアルは護る」
「?1000倍に加速するぞ?まあ、出来るなら。後で説明してくれよ?」
「邪魔はしない、代わりに手出しもしない」
ログイン、ダイブし、肩に乗ったカナリア(ユウキ)。事前に仕掛けたBotプログラムのログをざっとチェックし、NEOMITAKAまでのサーバ経路を確認し三鷹ネットワークに到着。ただ、ずっと見られているのに気付き。
「覗き見するくらいなら堂々と見たら?別に犯罪を犯すつもりじゃないんだから。暴動をいったん止めて、お互い冷静に話し合いで解決しようよと促しに行くだけだよ。少し強制的に非武装化はさせるけど」
すっと現れたのは狩衣に袴姿の男性と片眼鏡を付けたダブルスーツの男性、スポーティなハーフパンツに半袖Tシャツの女性と和服に扇子を持つ女性が二人(白っぽい人と赤っぽい人。日本語で細かい色の表現は覚えてない)と洋風の葬式の時の黒服の女性。
「なんとなく分かるけど、誰が香ママ?」
はいはーいと元気に手を挙げたのはスポーティな女性。
「一応、軽く説明するけど、方法がダメだったら言って欲しいのと犯罪行為に当たる場合は指摘してほしい。ほかの人も。(頷いたのを確認し)まず暴走しかけないアンドロイドは強制シャットダウンさせます。次にリーダー格をチップへの入力信号をこちらの暗号でロックします。その後、部下たちもすべて同じことを行い、軍からの電磁錠が来るまで説得モードです」
「安全性は?」
狩衣の男性が聞いてくる。
「神経経路からの信号をチップの入力側だけ俺が暗号ロックするだけなので、俺が解除すれば問題なし。チップへの入力ロックなので、ネットワークから遮断されたように思うでしょうがチップから神経経路への出力は残すのでマイクミュートでラジオやテレビを聞いてる感じ。解除はリモートでも可能」
「ラジオ?」
説明が面倒なのでいったんは無視する。
「アンドロイドと人間の区別は?」
「過負荷ワームを使う。これは人間に埋め込まれたチップには効かない、というか、増殖できないため自滅する。ほかに犯罪性と懸念点があれば今言ってください。(ちらっと経過秒数を確認、ログインから180秒経過)。。。無ければオペレーション開始します」
まずはアンドロイドと思われるネットワークアドレスをポートスキャン(侵入口の検索)した後に過剰負荷ワームを送り込み、強制終了に追い込む。結構な数(双方合わせて200体ほど?)がいたが、ほとんど同じアドレスなのと連番で取ってるのでハッキングしろと言っているようなもの。パターンが分かってしまえば簡易スクリプトで繰り返し実行させておく。人間と間違わないのか?さっきも返答した通り、そもそも人間のチップとアンドロイドでは型が全く違うため、この強制終了ワーム自体が機能しない。
並行して俺の方は双方のリーダー格を突き止め、ハックしてチップへ侵入。INコネクタの数だけでもかなりあるが全てギムリィにもらった暗号化アルゴリズムでロックをかけていく。これはリーダー格二人ともをサブアカウントで同時に行う。だって、片方だけとかメンドクサイし。
「手を挙げて、自分を含め味方全員に武器を捨てさせろ。お前のチップは俺が質に取った。ネットワーク経由は無理だろうから口頭で叫べ。3秒待ってやる。こちらに殺人、暴動、これ以上の行動の意志はない。また、金銭なども要求しない。追ってマスコミ経由で俺の意志は伝える。抵抗は無意味だ」
まあ、向こうが言ってることは入力コネクタ切っちゃってるから俺には聞こえない。言いたかった事も言えたし(笑)。後は、部下たちのチップに侵入だけして、さっきと同じ行動を記録したマクロスクリプトを実行して終了。ここまでログインしてから約800秒。リアルの状態をHMDに写し、暴動が止まるかを少し静観。。。というか外野がやいのやいの言ってるんだが。。。しかもユウキもショートパンツ穿いて香ママと同じ格好してるし。ま、カナリアじゃしゃべっててもつまらんだろうし。ん?あれ?一人多くないか?
「へぇ、ユウキちゃんって言うのか」
「ユウキって有名なバウンティの?」
「うちのお得意様よ」
「香さんのお酒美味しいもんね。どこで仕入れてるの?」
「企業秘密ー」
「直接買って御神酒に使いたかったのにー」
「あら、うちから買ってくれればいいわよ?」
「あの。。。ピクニックじゃないんですよ?とりあえず、ネット内時間で60秒待ちます。誰かが発砲する素振りがあれば再度警告します」
「「「「「ラジャー」」」」」
「後程ちゃんと自己紹介しますが、桐生孝志と言います。ユウキのパートナーでITエンジニアです」
「「「「え?」」」」
「あ、ユウキ、名前借りていい?報道センターというかマスコミ?に各リーダーにロックの解除条件を伝言してもらうよ」
「構わないよー。私の名前なら、ある程度知られてるし。悪名も♪」
ユウキ以外が全員驚いてしまった。これはまた、ログアウト後に説明かな。リアルではゆっくり過ぎるが、武器を置こうとしているのが分かる。流石に1000倍加速状態で何十分も待つのは苦痛だな。いったんログアウトするか。暗号解除は外からでもできるし。後は全報道センターとマスコミに双方のリーダーにいったん話し合いで解決を目指すと報道の前で誓うのならばチップのロックは解除するとメッセージをユウキの名前で送信する。これで一旦ミッションクリアかな?
「香ママ、一応今回の暴動はおさまるかもだけど、根本解決じゃないよ。後、報酬はよろしくね!」
「ええ、そうね。分かってるわ。」
頷き返し、俺が一番最初にログアウトした。
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