自分が出来ること
日本語は通じるのに、話が通じないって時ありますよね。
議論を交わすより手を動かした方が早かったり。
百聞は一見に如かずとはよく言ったもんですね。
スマホもノートPCの充電はできず、圏外であることは変わらない。
とりあえずケインの上司とやらが来るらしいのだが2-3時間待ってくれと言われ、転送とかないの?と思わず質問すると。
「ここは辺境地なので一番近い所からジェット機でそのくらいかかる」そうで。確かに見渡す限り砂漠だしな。
どうやって時間潰そうか。。。デスマーチ(IT業界では寝る間もなく何日も徹夜をする死の行進プロジェクト)が一息着いた時のような虚脱感包まれながらも。
「ヘッドセットでネットワークに繋げることはノンケの人にも可能ですよ」
言い方注意しようぜ。。。ノンケとは脳内チップを入れたくない、もしくは入れるだけの金がない、古すぎてアップデートしていないなどの人のことを指す侮蔑用語だと知ったのは後のことで。今度会ったら一言ぐらいは文句言ってやると思うのは後の自分だが、この時は渡りに船なので借りることに。
持っているノートPCとタブレットは電源自体の形状が違うし下手したら発火する可能性があるので止めておく。シャットダウンして電池セーブするしかないのといったんは機内モードにして後で設定しなおした方がいいなと。こういうのを相談できる人がいるといいんだが。。。ハードウェア系は基礎知識しかないのでほとんどわからない。これも課題だな。。。
で、とりあえずはネットワークに自分のIDで入り。おお、意外とMMOというかメタバースに近いな。でもって図書館へ。
。。。情報量が多すぎる。
ABC兵器がある程度まで極限行っちゃったのはなんとなく理解出来たが、デジタルログ(電子化記録)は改竄記録が残りにくいので紙媒体の証拠が欲しかったのだが、それもない。写真っぽい画像はあるが焼け焦げていたり、肝心なページが無かったり。致命的なのは、現状基礎から作れるエンジニアがほぼ皆無だということ。どうやってデバッグしてんの?と思うが、それすらもコンピュータが自動修復、改修するらしい。
それって、本当に正しいのか?今年は星暦2030年らしい。図書館の歴史を見ると、地球が本当にヤバくなったのは西暦2100年らしく、火星と月のテラフォーミングが成功しているのが2060から2070年。西暦2090は星暦0年に当たるらしい。星歴元年(1年)でない理由は、前後の計算をしやすくするためだとか。月勢力と火星勢力で争ってるとか、一旦どうでもいい。が、ある程度ピッタリの理由は当時のクーデター(成功したので革命と言われている)が計画的に行われたということみたいだ。
ワープ航法の理論書も見つけてしまった。ただ著者曰く、プログラム出来るエンジニアが居ないため今は現実不可能だろう、と後書きに書いてある。素人目に見た感じ、何かを重ねている感じはするのだが、俺の知っている数学記号じゃないのでさっぱり分からない。これも保留だ。ワクワクはするのだが。
なので、よくわからん部分は専門家を見つけて要約してもらうとして、一旦は大昔(大体西暦21世紀前半)の充電と周辺機器へのコネクタの確認。これも断片的すぎてよくわからんのだが、少なくともUSB-TypeCコネクタと無接触充電を見つけたときは歓喜した。とその時、ネットのアラートが。まだ1時間程度だがずいぶん早いな、と思い、チャットマークをタップすると。
「タカシ!ダンジョン潜ろうよ!」
ユウキだった。思いっきり目の前に現れてビジュアル付音声チャットだ。現実のユウキと遜色ない。肩を叩かれてびっくりしたほど。ただ見た目が黒髪で黒い和服を着ていたのでその髪には合わないぞとツッコミはいれたかったが(苦笑い)。
「すまん、あと1-2時間でケインの上司ってやつと会わないといけないんだ。それにバッテリーの充電ができないから無駄遣いできない」
「バッテリーか。ギムリィ爺さん紹介しようか?」
「ギムリィさん?」
「ああ、私もよくお世話になってるサイバー技工士だ。気難しい人だけど、ちょっと聞いてみるよ。長生きだしヒントはくれるかも」
あ、ちょっと、いきなりは失礼だぞ、という前に行ってしまった。。。意外と考えるより行動タイプなのか?ユウキって。勇気と蛮勇は違うぞ!
成功したクーデター(革命)も主格は月に一旦逃げたらしいからな。書かれてないけど内部のスパイや案内人も居たんだろうな。当時のドラマとか映画無いかなと思っていたら、ユウキが帰ってきて「いいみたいだよ。3‐40分なら話も聞きたいってさ」と言うや否や、グループ申請が飛んでくる。なんかMMORPGみたいだな。同時に同じ場所に行けるんだな?OKボタンをタップするとほぼ同時に雪山ロッジのようなドワーフ鍛冶師の人が目の前にドカッと座っていて。
「お初にお目にかかります。桐生孝志と言います」
日本式の敬礼をしてみると、相手も一度立ち上がり、敬礼で返してくる。
「これはご丁寧に。ギムリィと名乗っています。なんでも古い世代のコンピュータをお持ちだそうで、ご拝見くださいますか?」
おお、初見で普通に対応してくれたのは初めてだ。もちろんと返しノートPCとタブレットを出してみる。
「これは!」とか「ふむふむ」とか、じーっと見つめてきたりして。5分ほど沈黙。おい、ユウキ、あくびするな(笑)
「バッテリーは使い捨てでもよろしいか?」
「爆発したり発火したりしなければ、使えれば大丈夫です。何分くらい持つやつでしょうか」
「このバッテリー構造自体コピーして、充電したモノを試してもらうことは許可してもらえるのであれば、同性能は可能でしょう。ですが、タブレットは交換型ではないので、すぐには難しいでしょう」
そりゃそうだな。俺のいた時代のタブレットやスマホはほぼ電池寿命イコール買い替えなんだからこればっかりは仕方ない。100V日本の標準50/60Hzのこういうソケットってできるかと聞いてみた。後はケーブルも出して見てもらう。
「生ものはサンプルで貰えるか?」
と言われ、横からユウキが「リアルの現物のことだよ」と横やりのおかげでようやく理解して。
「電源ソケット側とケーブル一本なら渡せます」
「分解はネット上でできるんですが、どうしても動作確認が出来なくて。今どこにいるんです?」
ちらっとユウキにアイコンタクトすると
「沈黙の海駐屯所」
「じゃ、ギムリィ宛に送ってください」
「え?あの、どうやって送るとか代金とかは。。。」
「ユウキが知っていますよ。ユウキも手放したくないでしょ?代金は着払いで。」
「ログアウトするよ。ポーターに頼まなくちゃね。コピー終わった?爺さん」
「ちょうど終わったよ。久々に面白い仕事だ。ああ、チャットならいつでも質問してくださいね。一応1000年前くらいは生きてるので」
顔を背けていたので表情は分からなかった。って、1000年?強制ログアウトさせられた後で少しクラっとしつつ、どっから情報整理すりゃいいんだろうか。まだ混乱していた。
「『沈黙の海』なんて知らないな、静かの海のことかな」
そう呟きながらポーターがある場所にユウキに案内してもらっていると。
「こちら側からは地球は見えないよ」
そうか、俺のいた時代はまだ、月の裏側って名前が付いていないんだっけか。そうこうしているうちに一階のポーター受付へ。日本語で書いても通じるのかなとか、住所分かんねえなと思っていたら、ユウキが勝手に書き出して。え?ギムリィ ケプラー 精密機器 取扱注意 着払い、としか書いてない。
「これでいいの?」
「大丈夫ですよ。どれを転送なさいますか?」
いいのか。。。それだけ有名な人なのだと思うことにして、USB-TypeCへの電源ソケット(いわゆる変圧器)とUSBケーブルを渡す。のと同時に起動しない古いタブレットがあったなと思って俺のいた時代でも使わない変換コネクタも一緒につけて、一言添える。
これは充電はできますが電源が入りません。ランプが赤く光ったら充電できた証拠になるので、充電テスト時に使ってください、とテープで書き添えとともに巻いておく。
「この文字、ユウキもギムリィさんも読めるよな?」
「うん、大丈夫」
「星間標準語ですから、大丈夫ですよ。確かに承りました。着払いでいいのですね。」
と受付の方も同意してくれた。新しい単語が増えるには増えたんだが(笑)
「さて!後顧の憂いも絶ったことだし、ダンジョ。。。」
「タカシ、1階にまで来てくれていたんですね。」
「玄関で出迎えとは、あなたがタカシさんですか。よろしくお願いします。申し遅れました、ウィリアム・タケバヤシと申します」
ユウキが俺を連れ出そうと駐屯地のエントランスに向かったところでケインともう一人が対向で手を振り近寄ってきて、ユウキは機嫌が悪そうにしているのだった。
一通り挨拶を交わし、相手の所属や名前なども聞いている最中、ずっとブツブツと小声で呪詛のように俯いているユウキに俺は。
「機嫌なおせよ、ユウキ。名のあるバウンティだからリアルのこの場にも同席できるんだろ?この程度で不貞腐れるな。後で付き合うよ」
「ほんと?(顔を上げて)」
「バッテリーの複製ができないとあいつ(ノートPCを親指で指して)の起動は怖くてできない。ましてやタブレットは別問題だ。ACアダプタが使えればまだましだが、それもいつ壊れるか分からん」
嘘か誠か、3-5年周期で買い替えるようにメーカーに操作されてるって言われてたぐらいだしな。そうなると俺もハードウェアはこの時代のものを使いこなせないとただの役立たずだ。飯も食えないのは嫌だ。
「そこなんですが、タカシ」
「なんでしょうか、タケバヤシさん」
「ウィルでいいですよ。インプラント(チップ埋め込み。星歴2030年では赤ん坊の頃に埋め込む)は嫌なんですね?」
「じゃ、遠慮なく。ウィル、少なくとも現状は。時空の歪みだか重力場のねじれだかはさっぱり分かりませんが、戻れる可能性があるなら、嫌です」
「残る方法は2つ。1.神経の直結ソケットに接続するように毎回注射を打つ。初期段階のインプラントととも言えますが、身体的負担が大きすぎるのでお勧めしません」
「No」
思わず即答。神経経路のすべてに麻酔有りだとしても正気の沙汰じゃない。
「もう一つは、先ほど使ってもらっていたようですが、ヘッドコンソールを使用すること。ただし、これのデメリットはリアル世界の肉体が完全に無防備になり、有線か無線が繋がる範囲でしか接続できません。また、重量があるのと電源供給ができる場所でない場合、長く持ちません」
「具体的には?」
「3-5分。それ以上はバッテリーの重量が重すぎて移動できません」
「ヘッドコンソール、戦闘に耐えうるか、ユウキと模擬戦闘してみてもいいか?」
ん?とほとんど口を開けて今にもよだれを出していびきをかきそうなユウキを親指で指してみて。
「模擬戦闘、ですか?ユウキはそれなり、というかかなりのランカーですよ?」
「勝った負けた、じゃなく、操作性と反応性のテストに近いかな。ぶっちゃけ避けるだけでも大変だろうけど、逆に言うと俺の視聴覚に対しての脳反応にそのヘッドコンソールとやらは付いてこれるか?って事だろう」
俺自身気付いていなかった。後から聞いたのだが、俺の口角は上がっていたそうだ。
「痛覚は0%は止めてくれ。リアル世界と違いすぎるのも困るので75%で。あ、でも、触覚って痛覚と同じだっけ?となると。。。あと、インストールするプログラムは、いったんはこれとこれと。。。」
今はほとんどいないというヘッドコンソール技術者と調整中である。起動しないと言ったはずのノートPCを立ち上げてまで。
「まだ?」
焦らされているユウキはたまったものではないが、こればっかりは仕方ない。
「ああ、画像や動画からネット世界に複製はできるんだっけ?」
「すべてではありませんが可能です。時間が限られていると、使い捨てだと思ってください」
「構わない、じゃこれとこれもインストールしておいて。」
「承りました」
ヘッドコンソール技術者はチップを埋め込んでいるのでリアル世界に居ながら高速である程度の希望を叶えてくれる。そういやユウキは何タイプなんだろう。オールラウンダーなのかな。となると、俺にほぼ勝ち目無いんだけどな。その場合は回避性能を試すか。よし、できたようなので、サムズアップした後にログインする。
「3分3本勝負とします。(完全に格闘ゲームじゃねえかよ、そのルール!)お互いが相手をバイオゾイドだと認識している状況なので反則はありません。質問がなけ。。。」
「本気出していいの?」
「い、いや、ユウキ。。」
「いいぜ、ユウキが本気じゃなきゃテストの意味がない。それとも、俺の神経系統にリアル世界にダメージ来るって言うなら別だが?」
「身体的にはありませんが、精神的トラウマなども。。。」
「構わない。この時代、この世界でのスペックを知らないで生き残れるものか」
「。。。分かりました。ドクターストップもありません。自身の身体が攻撃できなくなるか、ギブアップで終了です。3本目までダメージはネット内では蓄積しますのでご理解を。では、1本目、スタート!」
3D視点のVRというところ。一人称視点(現実に近い視点)と三人称(自分が見えていて背後から周りを見る視点)に切り替えることができる。コンソールは出そうと考えるだけで半透明なウィンドウが出てくる感じだ。俺の時代に流行ったVRMMORPGに近いのか。一応サーチサークルはあるが、なにぶん敵一人じゃどっちに行ったものか。今のうちにアイテム(というかインストールしたプログラム)を確認しておく。一応、俺はウィザード扱いなんだよな。。。近接攻撃無理だし。先に相手を索敵してしまいたい。が、攻撃されるとめんどくさい。ので。
「ファイアウォールプログラム起動。Webサーバ起動。Webアプリサーバ起動、簡易ハニーポットプログラム起動、ウィルス検知プログラム起動」
こんなところか。メモリ量はまだ持つな。お手並み拝見と行こう。ただ、ステージが砂漠って歩きにくい。。。
見てくださってありがとうございます!
応援してくださると喜びます。主に著者が、ですが。
避難誹謗中傷構いません。
よろしくお願いします