39.リディアは反射的に彼の前へ躍り出た。
それから十分も経つ頃には、ジョルジュもユーベルもつかまっていた。
ユーベルの目的は、一番御しやすそうなサイモンを王位につかせ、自分は宰相として裏で国をコントロールすることだったらしい。
その目的のために、フィリップには『魔女の禁忌の力を使った』という嫌疑をかけ、ダグラスには『ジョルジュと一緒に人身売買をしている』と言う濡れ衣を着せたのである。
ちなみに、サイモンが茨の森にいたのは、フィリップが魔女の力を使ったのかどうか、直接オクタヴィア本人に聞き出すつもりだったらしいのだ。
しかし、迷ってしまい。辿り着けずじまい。
近々リディアに案内をさせようと思っていたらしい。
事後処理を見ながらフィリップは口を開く。
「父上が倒れたのは本当に偶然だったようだけど、それからも度々体調を悪くしていたのは、全部ユーベルのせいだ。あいつが父上の盃に毎回毒を盛っていたんだよ」
「そんな! ユーベルは父上の信頼をあんなに勝ち得ていたのに? 親友だったのに? 盟友だったのに?」
悲痛な声を出すのはサイモンだ。そんな彼にフィリップは向き直り、困ったように眉を寄せた。
「だからこそ、なんだろうね。だからこそ父上は騙されてしまった。だからこそユーベルは好きに振る舞うことができ、味を占めてしまった」
体調を崩す頻度から考えて、毒は国王の寝室か彼の自室に隠していると思われた。しかし、ユーベルの部屋には常に鍵がかかっているし、彼自身が国王の意志として寝室への立ち居入りを制限していたことから、今までどちらも捜索ができていなかったらしい。
フィリップの説明に、ダグラスは声を低くした。
「つまり、今回の件はユーベルの隙を作り出すためにお前が仕組んだのか?」
「仕組んだって言うよりは、誘導したってのが近いけどね。『議会での話し合いだけではダグラスは無罪になるだろう』『もっと確実な証拠が必要だ』って。まさかここまでのことを思いつくとは、俺にも予想外だったけどね」
「おまえ、それでリディアを餌にしたのか?」
「餌って言うならダグラスもだけどね。他の証拠は全部揃っていたんだけど、やっぱり物理的なものも欲しかったからさ」
彼が長く王宮を離れるきっかけが欲しかった。要はそういうことだろう。
フィリップのあまりの飄々とした態度に、ダグラスは奥歯を噛み締めながら「お前……」と声を震わせた。
これはもう、どこからどう見ても完全に怒っている。あと少しでも何かあれば手が出てもおかしくない怒り方だ。
そんな彼を諌めるためか、フィリップはリディアに身体を向けた。
「ごめんね、リディア」
「わ、私は別にいいですけど……」
無事だったので無問題である! とまでは割り切れないが、フィリップにも事情があり、本当に悪いのはやっぱりユーベルだということで、リディアも頷きひとつで謝罪を受け入れた。
フィリップは次に木の根のところに座っているオクタヴィアにも声をかけた。
「オクタヴィアさん、でしたか? 貴女も大丈夫ですか?」
「私は平気だよ。軽い脳震盪だけだったみたいだし。ハクロの方は、治療ありがとね」
「狼の治療は専門外ですが、人ならばそれなりに知識を持っているものを揃えていますので大丈夫ですよ。幸いにも弾は抜けていましたしね」
そういう通りに、ハクロは治療を受けている。
フィリップが呼んだのだろう、現場にはさきほどよりも多くの兵と人間が集まっていた。
場の収まり具合から考えて、そろそろお開きだろう。後はユーベルとジョルジュを王宮に連行し、然るべき司法機関で彼らをさばくことになる。
一息ついた状況に、リディアは空を見つめながらホッと息を吐いた。
(無事に終わってよかったー……)
正直、ダグラスが来た時はどうしようかと思ったが、結果的に彼は刺されなかったし、来てくれて良かったということでいいだろう。 それどころか、ダグラスが来てくれなかったら今頃リディアの頭は木っ端微塵になっている。
彼はまぎれもなく、リディアの命の恩人だ。
前世はもちろんだが、今世でも彼を幸せにしないといけない理由ができてしまった。
(でも、もう軍資金残ってないしなー)
たっぷりとあった軍資金だが、泥棒を捕まえたり、オクタヴィアの対価に支払ったりなど、そんなこんなしているうちにもう三百万ペンド程しか残っていない。もちろん、三百万ペンドは大金だが、最初の頃のように舞踏会などを開こうと思えば足りないし、ドレスだってオーダーメイドは結構かかるのだ。
(というか、軍資金云々はもうどうでも良いのか……)
ダグラスとローラをくっつけなければならないのかも疑問だ。
いろいろイベントは端折ってしまったが、彼のルートはなんとなく最後を迎えたのだし、もしかするとこのまま何も起こらずに彼は幸せになるのかもしれない。
「そうなったら……」
自分が彼の隣にいる未来もあり得るのだろうか。
そんなことを考えていたためだろうか、完全に気が抜けていた。
ユーベルのこともジョルジュのことも、その時のリディアは全く気にも留めていなかった。
「こいつ、隠しナイフ持ってるぞ!」
そんな声が轟くまで――
リディアが兵士の声に顔を上げた時には、もうユーベルはナイフを持って走り出していた。その切っ先は真っ直ぐに隣のダグラスに向いていて、リディアは反射的に彼の前へ躍り出た。
エブリスタで連載している新作です。
エブリスタの方では、完結まで投稿しております。
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