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38.攻防3

「どういうことだ。思ったよりも早いじゃねぇか」


 ジョルジュは苦しそうな声を出しながら、まるで降参するかのように両手を上げる。

 そんな彼に視線を止めたまま、ダグラスは背後にしゃがみ込むリディアに声をかけた。


「大丈夫か」

「あ、はい……」

「無事でよかった」


 そう、心底安心したように言われ、リディアの胸は熱くなる。悲しくもないのに目尻にじわりと涙が浮かび、泣く直前のように頬が火照った。

 そんな彼女の姿を眺め見て、ダグラスは眉を寄せたあと、ジョルジュに低い声を出した。


「観念しろ、ジョルジュ」

「さぁ、観念するのはどっちかな」

「どういうことだ?」

「俺の目的は、もう達成されたってことだよ」


 ジョルジュがそう言った直後、幾人もの足音が重なって聞こえてきた。

 一人二人ではない。何人もの大人が草を踏む音である。

 そして、現れたのは――


「ダグラス?」


 サイモンだった。

 後ろには狼狽えた様子のユーベルと、数十人もの兵士たちがいる。

 ダグラスは剣を下げると、サイモンに視線を向ける。


「サイモン、どうしてここへ?」


 その質問に答えたのは、ユーベルだった。

 彼はサイモンの後ろに隠れたまま、恐る恐る口を開いた。


「先ほどタレコミがあったんです。ここで、奴隷商とダグラスが商談をしていると。私たちはその真偽を確かめに……」

「本当なら、なかなかしっぽを掴ませないジョルジュと、お前を一網打尽にできると思ってな! ……ただ、まさか本当だとは思わなかったぞ。ダグラス!」


 引き継ぐようにサイモンは、そう怒りを露わにする。

 まずい。これはまずい。恐らく、すごくまずい。

 ダグラスの嫌疑を確定するためには、事実として奴隷の売買が行われていたジョルジュの屋敷付近でダグラスとジョルジュを捕まえるということが重要なのだ。

 なぜならいくらダグラスが『俺は何も知らない』『やってない』と言おうが、犯罪者が『やっていない』と言うのは当然のこととして相手にしてもらえないからだ。信じてもらえないからだ。

 きっと、二人が捕まった後は、ジョルジュの証言通りに事実確認がされていくのだろう。


「兄上が目をかけていたから今まで放置していたが、やはりお前は王族の癌だ! もっと早く取り除くべきだった!」

「俺は――」

「うるさい喋るな! 言い訳なんて聞きたくない!」


 予想通りに釈明もさせてもらえないダグラスに変わって、リディアは声をはる。


「違います! ダグラス様ははめられたんです!」

「リディア?」


 そこで初めて彼女の存在に気づいたのだろう。サイモンは大きく目を見開く。

 驚いた様子の彼に目もくれず、リディアはユーベルに言葉を向けた。


(最初にダグラス様を庇ってくれた彼ならきっと――)


 必ず話を聞いてくれるはず。そう思ったからだ。

 それに今のところ、ジョルジュと組んでいたのはサイモンである可能性が非常に高い。ならば彼に言葉を重ねても無駄だと思ったのだ。


「全部、ジョルジュと黒幕のせいで――」

「サイモン様。彼女はダグラスと懇意にしています。耳を貸さない方がよろしいかと」

「――え?」


 遮られた台詞に声が漏れた。なぜなら、遮ったのがユーベルだったからだ。

 黒幕のサイモンならばそれもわかるが、彼はリディアに調査を依頼してきた人物である。このまま議会にダグラスを呼ぶのは忍びないからと、彼を庇った張本人だ。


「所詮は下賎な成金娘です。貴族の末端といえど、彼らの言葉は信用に値しないかと」

「それは! ……でも、信用できないのはそうかもしれないな」

(まさか――)


 黒幕はサイモンではなくユーベルだったのだろうか、

 ジョルジュのパトロンをしていたのも、ダグラスをはめようとしているのも、ダグラスとジョルジュの二人が組んでいると思わせるようなタレコミを投げたのも。

 全部全部ユーベルだったのだろうか。


「もしかして、調査を依頼したのも……」


 そのまま議会に上げても証拠不十分でダグラスの有罪が確定しないだろうと思っていたからなのだろうか……

 それならば全て辻褄が合う。


(ユーベルの目的は、きっと――)

「サイモン様、ご決断を」

「本当に、いいんだな」

「大丈夫です。あなたの決定に間違いはありませんから」


 ユーベルはまるでサイモンを誘導するようにそう言う。

 サイモンは背後にいる兵たちに命令するように片手を上げた。


「わかった。お前たち、そこにいるダグラスとジョルジュを――」

「何をしてるのかな? サイモン」


 凛とした声がその場に満ちて、サイモンは動きを止めた。

 しんと静まり返った場に、たった一つだけ満ちる足音。

 そして、暗闇の奥から現れたのは――


「兄上、どうして……」


 フィリップだった。彼は供もつけずに一人っきりで、ゆっくりとこちらに歩いてきている。

 意外な人物の登場に、その場にいた誰もが息を呑んだ。


「サイモン。私はね、膿を出しにきたんだよ」

「膿?」

「あぁ、我が王族に不必要な膿だ」


 その言葉に、サイモンはダグラスの方を見る。恐らく、フィリップのいう『膿』とは、ダグラスのことを指しているのだと思ったのだろう。

 しかし、フィリップが向かったのはダグラスの元ではなかった。彼は白い聖職者のような服を纏うユーベルの前に立つ。

 そして、すごく嬉しそうに頬を引き上げた。


「ユーベル、お前をようやく捕まえる手筈が整ったよ。よくも弟たちと父上をここまで苦しめたね」

「フィ、フィリップ様……」

「お前たち!」


 呼ばれたのは、サイモンとユーベルの背後にいた兵士たちだ。

 第一王子からの呼びかけに、彼らは背筋を正す。


「ジョルジュ・エルベールおよび、ユーベル・ヴェンタールを引っ捕えるんだ」


 その命令に、否を唱える者などいなかった。


エブリスタで連載している新作です。

エブリスタの方では、完結まで投稿しております。

続きが気になる方はこちら(https://estar.jp/novels/25871275)まで。


面白かった場合のみで構いませんので、評価していただけると嬉しいです!

どうぞよろしくお願いします><

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