第一話 出会い①
「それでは部活動紹介に入ります。」
俺は今日この私立筑州高校に入学した。
入学式は既に滞り無く進み、今は一旦教室へ帰った後、再び体育館に集められオリエンテーションが行われている最中である。
そして、たった今宣告があった通りこれから部活動紹介が行われるようだ。
「部活かー。雑賀、お前はどうするんだ?」
葛西が後ろを向いて話しかけてきた。
「うーん。流石に入らないな。わざわざこの高校に来た理由がわからなくなるし。」
「お前はそうだよなー。でもよーせっかくの高校生活だし青春らしいことの一つや二つしたくね?」
「確かにそうだけど、部活に入ってたせいで大学受かりませんでしたーじゃ洒落にならないだろ。」
「お硬いなーお前は」
そう言って葛西はまた正面を向いた。
葛西は中学校以来の友人で、サッカー部のエースストライカーだった。
運動ができる人間にありがちな典型的なバカだったが、校則がゆるく校舎が綺麗という理由だけで猛勉強し、繰り上げ合格ではあるが特進コースに入ってきた大バカである。
実際彼の姿は公立の一般高校では確実にアウトだろう。
長い髪を後ろでひとつ結びにして、そして薄い青で染めている。
長身かつ痩身な上、顔も整っているせいで似合っているのが何とも小癪だ。
俺自身はオシャレ類全般に弱いため、一般学生らしい格好をしている。
高校進学を機に変えてみようかと思い、色々試して見たが姉に笑われて一蹴されたので結局元通りである。
つまり、あまりパットしないよくいる学生である。
そんな事を考えていると、部活動紹介が始まっていた。
「それでは始まります。まずは馬術部です。」
いきなりすごいのが来たな。
この学校は、かなりの進学校である。
そして、進学校らしくこの学校には多彩な部活があるらしい。
野球部、サッカー部、バスケ部といった一般的な部活は勿論、アメフト部や、先程出た馬術部と言ったユニークな部活もたくさんある。
無論俺のように部活に入らないといった人間も多い。
しかしこの学校は一般コースが12クラスに特進コースが4クラスそしてスポーツ特待も2クラスで計18クラス一学年725人のマンモス校である。
葛西同様部活に入りたいと考える人間も多い以上部活も多彩になるのだろう。
こうして、その後もぼーっと部活動紹介を聞いていた。
また次の部活の番が来た。
「それでは次は旅行部です。」
...旅行部?
旅行してるだけで部活になるなんて、そりゃまた大層な部活なこった。
「こんにちは。旅行部部長の2-2山科です。皆さんはこの部活名を聞いて部活で旅行に行けるなんて大層楽しそうな部活だななんて思ったでしょう。」
見透かされていた。
「そんな人間はこの部活には必要ありません。旅行ということに並々なならぬ情熱と向上心を持ったものだけが入ってきてください。以上。」
こうして、彼女は長い黒髪を揺らしながら舞台袖へと歩いていった。
なんだ?あれ。
「そ、それでは次は囲碁将棋部です。」
司会者が動揺し、それが伝播したのか周囲もざわついている。
それもそうだろう。あまりにも異質な部活動紹介であった。
他の部活は自らの部活の楽しさを必死にアピールしていた、というか部活動紹介というものはそういったものなのだ。
しかし、彼女は楽しいところではないと宣言してしてしまった。
意外性を出そうとでもしたのだろうか。
しかし、当たり障りのないことを言うのは多くの場合で間違いではない。
あの部活に人は集まるのだろうか。
俺はそんなことを他人事ながら考えていた。
それ以外には落研が落語を披露したり、吹奏楽部が演奏を披露したぐらいで目立ったことはなく、そのままその他の行事も終えてオリエンテーションは滞りなく終りを迎えた。
そして放課後、学校を後にしようと葛西とともに教室の外へ出た。
「お前結局どうするんだ。」
「うーん。やっぱりサッカーかな!」
「そうか。でもここのサッカー部強いぞ」
「そうだよなーでもやっぱ好きなやつが1番っしょ!」
葛西らしいな。
そんなことを思いながら階段をおり、下駄箱を出ると其処には地獄が広がっていた。
「吹部に入りませんかー」
「バレー部に入って仲間を作ろう!」
「茶道部に入ればお菓子が食べれますよー」
部活動勧誘である。
「やべえな。ってうわっ」
下駄箱外の階段からすでにもうもみくちゃになってしまった。
まるで縁日のようである。
こういった物があるとは知っていたが、ここまで激しいとは思いもよらなかった。
というか最後の文句はなんだあれ。案の定デブが釣れてるし。それで良いのか茶道部。
そして、いつの間にか葛西とはぐれてしまった。
校門までまだまだあるし、どうしようか。
流れに流され進んでいると右の方に取り敢えずこの流れから逃れられそうな道があった。
そこに行って葛西に連絡しよう。
そう思い、流れの間を縫ってなんとかその道へ出た。
「ふー。」
なんとか一息つくことができた。
目の前の看板を見る限りどうやら他のグラウンドへ向かうための道のようだ。
そして、右を向くと
「うわっ。」
人が立っていた。丁度抜け出す時に建物の影に隠れていたようだ。
こいつも流れに揉まれたのだろうか。ひどく疲れている様子だ。
(続く)