第6話:giwaku
次の日もあきらはいつもと変わらず遅刻をして、遅刻ノートに名前を書いて教室に入った。コウスケもいつもと変わらずニヤニヤとしてあきらを迎えた。
「どうだった? 万引き少女」
直截的で遠慮のない言い方。
「なんか、そんな感じの子じゃなかったぞ。もっとこー……、大人しそうな。万引きもなんかの誤解なんじゃないの?」
「そうなのか? 確かな筋からの情報なんだけどなぁ。お前の見立て違いとかじゃねぇの?」
「だってほんとに大人しそうな……、あ、だけど、万引きの噂が立ってる事は知ってるっぽかったな」
「ほら。やっぱ自覚あるんじゃねぇのかよ。だから学校にも来ないんじゃね?」
「うーん」
チャイムが鳴ったので、数学の教科書を出す。コウスケも不服そうな顔をしていたが、数学の教師が来ると前を向いた。
(あんなきれいなピアノを弾く子が万引きなんてするとは思えないんだけどな)
偏見と言いたくば言うがいい。声だってきれいな声。髪の毛も、醸し出す雰囲気も。―――すべてが。
少し暑かったので窓を開ける。外では体育をやってる生徒が声を上げていた。
昨日の彼女を思い出す。誤解だとしたら、なんでそんな誤解を受けるハメになったんだろう。コウスケの情報に間違いがあった事は今まで一度もなかった。
警察に覚えられている?
まったく昨日のイメージとも、ピアノのイメージとも違った。
それが原因で学校に来てないのだとしたら、それが本当に誤解なんだとしたら、あまりに可愛そうすぎる。あんな可愛い子が。
あきらは決して学校が大好きな訳ではない。だが、家にいて両親やきょうだいと一日中顔を突き合わせているよりは、学校でコウスケとかと笑い合ってる方が楽しい。
勉強も決して大好きではないが、知らない事を知る事は楽しい。今やってる数学も、パズルのようで楽しい。歴史も、自分の生きてない時代にあんな事があったのかと想像を膨らませるのも楽しい。
もしこれが、成績も悪い人だったらこんな風には思わないかもしれない。が、彼女はトップの成績を取れるような頭脳を持っている。むしろ学校でやってる事がつまらなすぎて登校拒否をしているのならそれはそれでもいいとあきらは思っている。自分の学力に見合ったような所で好きなように勉強したらいい。勉強よりも違う事に興味があるのなら、学校で友達と一緒にいるよりもそちらの方がやりたいのなら、そうすればいい。
ただ、彼女は自分を見て逃げた。それが気になる。
彼女に伝えたい事がある。
追いかけようと、あきらは心に決めた。伝えたい事を伝えるために。