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「・・なっ」
心地の良い低めの声で、しかし内容はとんでもない事をサラッと囁かれ、知乃は一瞬頭が真っ白になった。
ソファの上に何故か正座で固まっている知乃に対し、高屋は背もたれに背中を預けたまま、じっと知乃の方を見つめている。
「あ、もしチノが、尾上さんのこと気になってたんだったらスミマセン」
ちっとも悪いと思ってなさそうな口調で、高屋は謝る。
「なんでそうなるのっ。って、意味わかんない・・・」
高屋に背を向けて体育座りになった知乃は、手近にあった、紺色のコーデュロイのカバーをかけたクッションを掴み、それで顔を覆う。
とりあえず何が事実で何が冗談なのかわからない。
顔を伏せているので見えないが、高屋が真後ろに来たんだろう、知乃の肩に重みが加わる。
「チーノー。機嫌直して。それで怒ったんなら、俺ちょっと傷つくんだけど」
知乃の耳の近くで高屋のなんだか甘い声がする。普段から彼の声は心地よいが、こんな声は聞いたことがなかった。知乃の肩を抱きこむように、彼の両手でふんわり拘束される。
「尾上さんのも、俺が言ったことも嘘じゃないよ。俺、本気でチノが好きだから」
・・・告白された。
「・・・なんか、ずるい」
恐る恐る顔を上げると、後ろから顔を覗かせた高屋と目があった。恐ろしくお互いの顔の距離が近い上に、高屋が目を離してくれない。
「なんでずるいの?好きな女に他の男が寄って行こうとしてたら、牽制するのは当然じゃん」
「・・・そもそもそんなことがあったって教えてくれなかったでしょっ・・」
「いや、あんまり変なこと言うと、知乃凄く警戒しそうだから。しかも、知乃の友達に俺狙われてるみたいだったし、余計、ね」
知乃は思わず、なんで知ってるの、と言いかけそうになった。
高屋もぼかしていることだし、ここは大人しく何も聞かないでいるべきだろう。
というかこの調子だと聞き出したら、さらに知らない事実が出て来そうで怖すぎる。
「ってことで、いい?」
何が?と知乃が反射的に聞くと、お互いの顔が更に近づいて、鼻先に高屋の唇が降りて来た。
それを認識した途端に、知乃の頬が熱くなる。
「・・・うん」
心の声に従って、知乃はそう零した。
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