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「え?冗談でしょ。ないよ、私そんな尾上さんと接点ないもん」
社内でも女性人気が高いと噂の尾上さんが、なぜわざわざ他部署の、しかも地味な自分を狙う必要があるのか。
笑い飛ばそうとしたのに、長い腕をソファにもたれかけさせて、こちらをみる高屋の目は相変わらず冷たい。
「わかってないなー。チノ、ほんと鈍い」
「いや、絶対違うってば!なんでそうなるの?」
何故か意見を翻えさない高屋に、ちょっと腹が立ってすぐ近くにあった彼の腕を、シャツの上から掴んで揺さぶる。高屋がさっきあれこれと仕事の質問をして来た時に、ちょうど腕が触れるくらいの近さに2人は座っていた。
「何。チノってのんびりそうな見た目の割に、意外と暴力系なの?笑える」
掴むと鍛えていることがわかる高屋のびくともしない腕に、知乃の焦りは助長される。
高屋は、知らない人が見たら凄んでるとしか思えない目つきで、知乃を見ながらニヤニヤしている。
「・・・なんか、今、高屋くんが初めて憎たらしい・・・」
言い負かされてるようで悔しくて、高屋を睨むと、何故か彼はふっと優しい目つきになっていた。そして知乃が掴んでいた方の腕が彼女の肩にやんわり回される。ジャケットを脱いでいるため、薄手のボウタイブラウス一枚だったのが災いして、妙に彼の腕の体温を感じてしまう。
「・・・チノが狙われてるって気付かなかったの、多分俺のおかげだから」
なにそれ。と思った瞬間、高屋が知乃の肩をいきなり引き寄せて、耳元に彼の形の良い唇が押し付けられた。彼の少し癖のある髪の毛が驚いた知乃の頬を擽る。
ーーーチノは内緒だけど俺と深い仲なんです、って言っといたからね。
彼のことを好きでない人でも、ちょっと虜になってしまいそうな、笑顔を浮かべて高屋は顔を離した。
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