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そして僕たちは恋をする  作者: しのたま
2.そして彼女は真実を叫ぶ
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第2話

 目の前に啓一の顔があった。

 それは、困ったような、嬉しいような、よくわからない微妙な表情。


「なんだよ」

 と、僕はその微妙な顔の啓一に対してそう呟いた。

「いや、別にー?ただ単に幸也のホモ疑惑がはれてよかったなと思っただけ」


 なっ・・・!?


「別にそういうのじゃっ・・・ない」

 上げかけた腰を、下す。

 啓一は僕のこの体質のことを知っている。

 知っているうえで多分、勘違いしている。

 僕が霧沢さんの笑顔を見て胃が痛んだからといって、それはつまり霧沢さんのことが好きだということにはならない。

 胃が痛む=好きになるのだとしたら、僕の好きな人なんて同年代の女子全員になってしまう。


「え、じゃあホモなの?」


 ああもうこいつは・・・

 僕は声のトーンを落として答えた。

「・・・ともかく、好きだから胃が痛むんじゃなくて、多少優しく接されたから胃が痛んだ。ただそれだけ。そこに感情はないよ。ただの条件反射、オーケー?」

「オーケーオーケー、そういうことにしておこう」


 『しておく』んじゃなくて実際『そう』なんだけどな・・・


 そうして逃げるように逸らした視線の先に、渡瀬霞の姿があった。

 相変わらずの派手すぎて何を目指しているのかよくわからない姿を見て、僕は思った。


 多分、渡瀬さんに優しくされたところで絶対に胃が痛くなることはないんだろうな、と。


 そして、その日も当たり前のように放課後が来た。


 警戒していた女子からの接触もほぼ無く、朝の一件を除けばいつもの平和な一日だった。

 では、なぜ『ほぼ』なのに平和な一日であったと言えるのか。


 それはただ単に啓一の人気に起因する。男女問わず彼の席に客が訪れ、そして話の巻き添えをくらって一言二言言葉を発するだけ。そこから何か言われたとしても、最終的に啓一が何とかしてくれる。


 このままいけばそれらの客人から僕は『つまらないやつ』のレッテルを貼られ、自然と話しかけられることも無くなるだろう。

 別にそれに対して僕は何とも思わない。僕には友人なんて、必要ないのだから。


 友人など、ただ単に面倒くさいだけだ。増えれば増えるほど『誰と誰は仲が悪い』とか『誰と誰は相性が良くない』とか『誰は誰のことが嫌い・好き』とか。ともかく人間関係が複雑になるばかりで、僕にはメリットがあまり感じられない。


 ではなぜ啓一のことは友人と呼ぶのか、それはただ単に啓一の厚意に甘えているだけだ。

 彼が僕のことを友人だと呼んでくれるから、僕も彼のことも友人だと勝手に思い込んでるだけ。

 結論として、高校二年に上がった今でも友人と呼べるものは夜兎啓一ただ一人なのであった。

 多分、僕より友達がいないやつなんてこの高校に一人もいないだろう


 ――一人を除いては


 問題の人物を見やる。


 彼女は今日は携帯をただ眺めていた。

 動きらしい動きは無いに等しく、数十秒に一回指を動かすだけの小さな動作。それはまるで時間を切り取って繰り返しているだけの人形のようだった。


 この新学期が始まった頃は興味本位の生徒が何人か話しかけたりしていたが、彼女があまりにも反応を示さないので、一週間と立たずにそれも無くなった。


 僕の知り限り、渡瀬霞の友人はゼロだった。


 では、僕の知る渡瀬霞という人物はどんな人物なのか。

 外見を一言で言えば、『方向性を著しく間違えたギャル』なのだが、内面はまた別。

 内面は『異邦人』もしくは『宇宙人』

 まず、先日あった自己紹介から思い出してみよう。


 彼女は遅刻をした。それもクラス替え初日に。

 別に彼女の遅刻自体珍しいことではないのだが、問題はそこではない。登校の時間がまるでバラバラなのだ。


 登校時間ギリギリだったり、一〇分前だったり後だったり、三〇分前だったり後だったり。最長で一時間半遅刻したこともあった。聞いた話では逆に一時間も前から教室に居たこともあったらしい。

 噂では彼氏に車で送ってもらっているんじゃないかと言われていたが、彼女は学校の近所に住んでいるらしく、徒歩で通っている姿を何度も目撃されている。よって、途中で噂が変化して彼氏と同棲しているんじゃないか、に変わった。

 なお、彼氏の姿は誰も見たことは無い。


 そして、彼女は徹底して喋らない。

 話しかけられても無視するし、しつこく食い下がったとしても首を振って曖昧な返事を返すだけ。

 もしかしたら日本語ができないのかもとの噂が流れたが、去年の中間・期末・学年末テストの結果は全て学年一位。無論現代文も。

 

 あと、すぐにふらっといなくなることも忘れてはならない。

 昼休みは決まってどこかいなくなるし、体育の授業に至っては一度も出席したことはない。

 極めつけは学校行事への徹底的な不参加。

 体育祭や文化祭はおろか、泊りがけの学校行事ですらも無視して欠席する。

 着替えたりして正体がバレそうな行事を全て欠席することから生まれた噂が、『実は男の子なんじゃないか』説。けれどもこれは、身体測定は普通に出席していたことから却下された。

 胸もまったく無いわけではないし。


 これらのことから素行が悪いのかと思われがちだが、実は授業態度は至って真面目なのだ。

 授業中居眠りしたり携帯をいじっている姿もまた、誰も見たことが無い。


 ぱっと思いつく限りではこんなところだろうか。

 他にも探せばありそうだが、正直この時点で僕にとってはいっぱいいっぱいだ。

 噂は数えきれないほど立っているし、その一つ一つを全て検証する気にもなれない。

 だから異邦人。

 だから宇宙人。


 僕たち一般人に彼女を理解するなんて、きっと不可能なのだ。


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