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そして僕たちは恋をする  作者: しのたま
1.そして僕は再び彼女に出会う
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第2話

 程なくして僕は目的の顔と出会う。


「おはよう、啓一」

「お?お、おいーす、幸也」


 最初のお?がこちらを振り向くお。次のお、が僕の顔を確認したときのお。おいーすは言わずもがなただの挨拶。


 僕の友人である夜兎啓一は複数の生徒たちに囲まれていた。

 男子二人に女子二人、啓一を含めた計五人のグループ。

 そして彼はその中心にいる。

 人気があるのだ、昔から。


 整った顔立ちに綺麗なダークブラウンの髪、座っているから分かりづらいが身長も高い。容姿に関しては日系アメリカ人の父の影響が大きいのだと思う。ちなみに母親は日本人。

 そしてそんな彼の人気を支えているのがその性格であった。

 人当たりがよく、誰とでも分け隔てなく接することができるから友人も多い。

 たまにお茶目な一面を見せることがあるのも、親しみやすい理由の一つだろう


 霧沢楓が女子の中のアイドルならば、間違いなく夜兎啓一は男子の中のアイドルと言える。


 ではそんな彼の幼馴染である僕はと言うとどうだろうか。

 普通の身長に普通の体重、普通の家庭に普通の顔。

 『好き』の対極が『無関心』であると言われているように、『人気』の対極も『普通』なのかもしれない。

 そういった意味では僕は啓一の対極にいると言える。


 そして、残念なことに僕は性格があまりよろしくない。それは自分でも自覚するところだ。

 嫌味な性格、とまでは自分を卑下したくないが、友人は多くないし、人付き合いもうまくない。


「ん、どした?」


 ぼーっと啓一を眺めていたらそんな風に聞かれた。

「いや、なんでもない」

 そう言って僕は彼の後ろの席へ移動し、着席する。


 ええと・・・という戸惑いの声が聞こえた。その言葉が僕には何のことかわからなかったけれど、啓一はその言葉の意味をすぐに察して言葉を紡いだ。

「ああ、小一からの付き合いの幸城幸也、腐れ縁ってやつかな。ちなみに結構人見知りなところあるからガツガツいくと嫌われるから注意」

 な、と振ってくる啓一。

 流石啓一、僕の事を分かってる。


 こうして人見知りだと予防線を張ってくれれば、僕の領域は簡単には侵されないだろう。

 僕は啓一の言葉にこくりと頷き返して「よろしく」とだけ言葉を発した。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 そんなこんながあってから、つつがなく朝のホームルームが始まった。

 担任と思われる男性教師が現れて、立ってお喋りに興じていた生徒たちもまずいとばかりに自分たちの席に戻る。


 何の問題も無い見慣れた風景。


 問題があるとすれば、それは『クラス替え初日』という今日の時間の使い方だろう。

 去年と同じならば担任の自己紹介の後、点呼と同時に生徒自身による自己紹介といったところか。

 それを考えると少し憂鬱だ。


 人前で喋ることもそうだが、僕には人様に紹介できるような高尚な趣味も持ち合わせていない。

 別に無趣味というわけでもないが、あくまで高尚な趣味、というのがポイントだ。

 部活にでも所属していれば喋ることはあるのだろうが、残念ながら無所属だった。


 まったく、どこがつづかなく、だ。問題大ありじゃないか。


 そうして僕が頭を悩ませているうちにもホームルームはどんどん進行していく。


 予想通り教師の自己紹介から始まって、進級祝いのありがたいお言葉をいただく。

 正直、教師が何を話したのかあまり覚えていない。

 覚えているとしたら教師の苗字が剣崎であることと、進級おめでとうという言葉くらいだった。

 考えながら話を聞けるほど、僕はマルチタスクな人間じゃない。


「それじゃあ、次、点呼とるぞー。呼ばれた生徒は前に立って自己紹介な」

 割とフランクな言い回しで剣崎先生はそう告げた。


「紹介する事はなんでもいい、部活、趣味、好きな言葉に将来の夢。好きに語ってくれ。ただあんまり長く語るなよ、尺そんなに取れねぇから」

 腕時計を指さしながら笑う剣崎先生に生徒たちから少し笑いが起きる。どうやら掴みは得ているようだ。


 そして、苦悩の自己紹介タイムが始まった。


 出席番号順で始まったそれは、ア行から順調に人数を消化していく。


「――次、霧沢―」

 教師の点呼に霧沢さんは控えめにはい、と答えて教卓の前に立つ。


「ええと、き・・・霧沢です、下の名前は楓と言います。部活は弓道部です。高校に入ってからは毎日がすごく楽しいです。よろしくお願いします」


 そう言ってぺこりと頭を下げる霧沢さん。


「俺も楽しく過ごせるよう努力させてもらいます。よろしくっ」

 そう言って最初に拍手したのは担任の剣崎先生だった。

 別にそれは相手が霧沢さんだからしたことでは無い。自己紹介が終わった生徒全員に対してリアクションを取ってくれるのだ。


 自己紹介で滑った生徒に対しても一言フォローのようなツッコミを入れてくれる。そのおかげか和気あいあいとした空気が出来上がってきていた。

 そして剣崎先生の拍手に続いてクラスからも拍手が上がる。


 心なしか右半分、主に男子の拍手の音が大きいのはきっと聞き間違いじゃないのだろう。

 というか全体の拍手の音自体、他の生徒よりも明らかに大きかったが。


 流石は学年アイドル。


 そうしてまた、自分の番がどんどん近づいてくる。


 あれこれ考えているうちに気付けば自己紹介タイムもいよいよ後半で、あっという間にマ行の生徒の自己紹介まで終わってしまう。

 その間の自己紹介などもはや覚えてはいない。


 ぱちぱちぱち、と剣崎先生が拍手をする。


 これで生徒たちが拍手を追えば、次はいよいよヤ行へと突入する。

 そんなギリギリなタイミングでこちらに話しかけてきたのは前の席の啓一だった。


「なぁ、話すこと決まった?」

「いや、全然」

 緊張気味な啓一に対し、僕は苦笑いしながらそう返すしか無かった。

「だよなぁ」

 彼も僕と同じように苦笑いを浮かべる。


 ぱちぱちぱち、とクラス全体から拍手が上がった。


 僕たちも拍手をしながらその次の点呼を待った。まるで処刑待ちの囚人の気分だ。

 いくらクラスの空気が温まってきたからといっても、嫌なものは嫌なのだ。


「次、夜兎―」

 うわきたぁ、と前の席から小さく呟くのが聞こえた。

「――はいっ」

 腹をくくったような返事とともに立ち上がり、教卓の前へ移動する啓一、そんな彼の自己紹介が始まる。


「あーっと、夜兎啓一です。この髪はよく染めてるなんて言われてますが地毛です。父親がアメリカ人ですがバリバリの日系なんて英語はからっきしです。えー、あー、と他には――」


 と、そこで言葉に詰まり視線が宙に浮く。ああ、これはテンパってるなぁ。


「ちなみにえー・・・夜兎啓一君はテニス部で去年の新人戦で県大会ベストエイトだそうです」


 そんな彼に助け船を出してくれたのは剣崎先生だった。

 手元の資料から啓一に視線を移し、だよね?と笑いかける。


「え、あ、はい。そうっす」

「んじゃあ今年は関東大会で来年は全国大会よろしくっ」

「えぇええ?いや、それは無理っすよ!」


 そんなやり取りにクラス全体が沸きあがる。剣崎先生には思ったより名司会なのかもしれない。


 まぁ、それよりも気になるのは先生が見ているあの資料だよなぁ・・・

 一体何が書かれているのやら・・・


「ああと・・・まぁそんな感じでよろしくお願いします」

「どんな感じかわからんがよろしくっ」


 そして拍手をする剣崎先生と生徒。

 全体で見れば今までで一番大きな拍手だったと思う。主にクラスの左半分が。

 友人として誇らしいと思う反面、少し複雑な気分だった。

 と、いうのも――


「次、幸城―」


 この後に続く僕へのプレッシャーが大きいじゃないか。

「はい」

 僕は覚悟を決めて立ち上がるのだった。

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