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そして僕たちは恋をする  作者: しのたま
1.そして僕は再び彼女に出会う
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第1話

 四月の一週目、月曜日。


 短い春休みを終えて、僕は昇降口をくぐった。

 目に付くのは各学年の下駄箱の側面の部分に群がる人だかり。

 それもそのはずだ、そこには各学年のクラス割が張り出されているのだから。


 クラス替えといえば学校名物の一つと言っていいだろう、仲のいい友人、気になる異性、そして運のいいやつは恋人と一緒のクラスになれる。そしてそれは学校生活の大きな転機でもある。


 それでも僕は、クラス替えにあまり興味を持てずにいる。

 各クラスに割り当てられた名前に一喜一憂する生徒たちを尻目に、僕は携帯を取り出して指紋認証を通した。

 画面に浮き出すメッセージアプリの文字。


【2くみ、ゆきや、29ばん】


 それは、僕より先に登校していた幼馴染である友人からのメッセージだった。

 アプリに登録されている差出人の名前は夜兎啓一(やとけいいち)

 電車に乗っているときに確認したまま画面を落としたのでそのままになっていたようだ。


【いまついた】


 彼と同じように漢字変換せずにそのまま返信をして、そのまま電源ボタンを押す。

 暗転した画面を確認しつつ僕はそれをブレザーの腰ポケットにねじ込んだ。


 二組の二九番ね。


 僕は再確認をして目的の下駄箱を探し、買ったばかりのスニーカーをそこに放り込む。続いてバッグに入れていた上履きを出して床に落とす。

 声をかけられたのはそんなタイミングだった。


「お、おはよう、幸城(ゆきしろ)君っ」

「・・・?」


 声の向く方を見るとそこに一人の女子が立っていた。

 

 白いブラウスに紺のブレザー、赤と白のタータンチェックのスカート。胸元には僕と同じ学年を示す赤いストライプのリボン。

 見慣れたうちの学校の制服だ。

 けれども、目を引くのはその容姿だった。


 肩より少し長めに切りそろえられた黒髪、ぱっちりとした目に整った顔立ち、そしてブレザー越しでもわかる豊かなプロポーション。

 ああ、そうだ、そういえば去年も何回か話したことがあるな、と僕は思い出した。確か名前は・・・


「・・・」


 微妙に思い出すことができなかった。


「あ、あれ・・・もしかして忘れられた・・・?霧沢(きりさわ)です、霧沢楓(きりさわかえで)!」

 僕の醸す微妙な沈黙に耐えかねたのか、彼女は自己紹介をする。

「・・・ああ、霧沢さんか、おはよう」

 若干曖昧な記憶をたどりながら挨拶を返した。


 そして僕らは目的の教室に向かって歩き出す。


 二年二組、それが僕の目指す教室。後ろを歩く霧沢さんが何組なのかは知らない。目的の階につけば自然と「じゃあ」と言って別れることになるだろう。

 何せクラスは五クラスもある。同じクラスになる可能性の方が低い。

 まぁ、同じクラスになったところでどうでもいいのだが。


 僕は後ろを歩く霧沢さんのことを思い出していた。

 霧沢楓――ああ、なんだっけ。確か一年の時の学年のアイドルだったか。


 まぁ、確かに目を引く容姿をしているし、美少女と言っても差し支えはない。性格の方はよく知らないが、アイドルと呼ばれるだけの性格はしているのだろう。その性格がいいのか悪いのかは別として。


 それで、去年のクラスは四組で、僕とは違うクラスだった。

 名前を忘れているくせにクラスはなぜか覚えている。

 奇妙に思われるかもしれないが、それはただ単に友人の夜兎啓一と同じクラスだったから、という理由でしかない。

 そういえば啓一と話してるときに何度か話しかけてきたことがあったっけ。


「・・・」

「・・・」


 そんなことを思い出しながらお互い無言のままで階段を上る。

 二年の教室は三階だ。一年が四階で、三年が二階。一階は職員室その他諸々が詰め込まれている。

 なぜこの高校では学年が上がるごとに階が下がっていくのだろう?後輩は階段を多く登って苦労しろ、ということなのだろうか?

 そんな詮無きことを考えながら階段を上がると目的の三階に着いた。


「じゃあ僕二組だから」

 と、言いながら僕が振り返ると霧沢さんは四階への一歩を踏み出そうとしていた。


「あ」


 と、振り返る霧沢さん

「あ、えっと、慣れって怖いよね・・・?」

 どうやら去年の慣れで四階に上がろうとしていたらしい。

「ああ、うん、僕も小・中学校のとき階を間違ったことあるし・・・」


 彼女が僕の言葉に恥ずかしそうにうん、と頷いていそいそと引き返してくる。

 学年が変わった時、慣れ親しんだ教室に足が向くのは学生の性といっていいのだろう。


「じゃあ僕二組だからこれで」

 先ほどの同じ意味の言葉を繰り返し、教室へと向かう。


「あ、待って」

 そう言ってまたついてくる。

「?」

「わたしも二組だから」


 ああ、そうか、と思った。

 彼女はただ単に不安だっただけだ。


 新しい学年、新しいクラス、知っている顔もあるだろうが、五クラスにも分けられる中、知っている顔がどれだけあるだろうか?

 だから、知っている顔の男子に声をかけた。


 僕は正直目立つほうではないし、人気もあるわけもない。そんな僕に声をかけてくるとしたら、それはただ利用されているだけだ。

 まぁ、だからと言って断る理由も見つからないが。


 そうして僕たちは仲良く二年二組の敷居をまたいだ。


 すでに登校している生徒はおおよそクラスの半数ほど。一クラス三〇人と考えれば一〇数名といったところだろうか。


 そして、この時点における大きなグループ分けは二つ。

 それは楽しそうに誰かとお喋りしているか、自分の席で大人しくしているかの二グループ。

 クラスにおけるコミュニティの形成は、クラスが振り分けられたこの時点で行われていると言っていい。

 まぁ、もっともクラス全員が揃わない現段階では何とも言い難いが。


「あ、かーえでー!」


 一人の女子がこちらに手を振って歩み寄ってくる。


「あ!みなみちゃーん!」


 そうして僕の後ろにいた霧沢さんがその女子に向かって歩み寄っていく。

 どうやら彼女たちは友人のようだ。


「やったね!今年も同じクラスだよ!」

「うん!今年もよろしくね!みなみちゃん」

「こちらこそ!あ、楓ちゃんの席こっちね」

 手を引かれていく霧沢さんの様子を横目に見る。


 ちらりと見えた視界に何人かの男子がガッツポーズをするのを見て、霧沢楓という女子がいかに人気かを垣間見た気がした。


 そして僕は黒板に向かう。そこに座席表が張り出されているからだ。

 クラスと出席番号がわかっていても、座席まではわからない。


「幸城・・・幸城・・・」


 五十音順に並んでいるのだから、『ゆ』という苗字がどのあたりに位置するかはなんとなく想像がつく。


 僕の通っていた小・中学校で言うのなら窓側の後ろの方、もしくは一番後ろ。

 しかしながらこの高校では出席番号とは別に、男子・女子で席が二分される。

 廊下側が男子で、窓側が女子だ。

 廊下側の一番前が大体ア行の男子で始まり真ん中の一番後ろが大体ヤ行・ワ行の男子といったシステム。そして男子が五十音順で並べられた後、また女子のア行から始まり窓側、後ろに向かって五十音順で並べられる。


 五人六列、一クラス三十人。

 そのシステムに沿っていくのならば、『ゆ』で始まる男子の僕の苗字は三列目の後ろの方になる。


 ――幸城幸也


 あっさりと見つかった。

 席は想像通り三列目の一番後ろ。

 その前の席は、


 ――夜兎啓一


「なんだ、同じクラスじゃないか」


 小学校一年の時から馴染んだ名前、幼馴染であり友人の名前がそこにあった。

 昇降口にあったクラス替えの名前を見れば一目瞭然だったのだろうが、生憎僕はそれを見ていない。

 ふぅ、と半ば安心したような溜め息をついて僕は席に向かった。


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