序幕
「あの・・・さ・・・」
逸る心、高鳴る心臓、そんな自分を落ち着かせようとする自制心。
彼女の顔は見えない。
当然だ、ここにその子はいないのだから。
だから僕は、目の前にあるマイクに向かって喋りかける。
「僕は本当に面倒なやつだと思う。たった一回傷つけられただけで落ち込んで、こじらせて、腐っちゃうくらいに」
彼女の返事も、相槌も無い。
もしかしたらこの無駄で、無意味な僕の言葉も彼女の耳には届いていないのかもしれない。
それでも、だ。
僕は言わなければいけないのだと思う。
過去に決別するために。
自分自身が変わっていくために。
「もう恋なんてしないと思ってた。したくなかった。それが僕の信念だったんだ。だから、友達ですらいらないと思ってた」
だった
それは過去形の言葉。
今の僕は、きっと違う。
きっと僕は変わっていける。
「でも間違ってたんだ。過去を言い訳にして、誰かと向き合うことを恐れてた。本当の意味でぶつかろうとしなかった。そんなのはただの逃げでしかないのに、自分を正当化することでごまかしてただけだったんだ」
僕は本当に何を言っているんだろうな、と思う。
言わなければならない言葉は決まっているはずなのに、わけのわからない自白を続けるばかりで、肝心な言葉が紡げない。
少しばかりの沈黙が辺りを包む。
覚悟を、決めろ。
逃げるな。
僕は拳を強く握って自分に言い聞かせる。
大丈夫だ、きっと彼女は茶化したりしない。
もっとも、本当に僕の言葉が彼女に届いているかどうかすらもあやしいが――
それでも、言わなくてはいけない。
言わなければならない。
なけなしの勇気をかき集めて口を開く。
「僕は、君のことが――」
そしてこの日、僕は生まれて初めて、告白をした。