2-2.ゼノグラシア/未知なることば
泡が浮上して、ぱちりと弾ける。
夢の底、糸杉の森の奥深くより、記憶が現実に染み出した。
揺らぐ記憶が時間を遡る。それは、かけがえのない悪夢だった。
終わらない夜。死と闇に満ちた森。血と骨を踏みしめて戦場を駆け抜ける。
見知らぬ異世界に投げ出され、流されるようにして戦いに巻き込まれた俺は、ふとした拍子に絶望の中へと転がり落ちた。
救われたのはちょうどそんな時だった。それまで通じなかった言葉で語りかけてくれたその人は、銀色の甲冑を身に纏った小柄な騎士の姿をしていた。
「この『死人の森の断章』は死者の言葉を記す魔導書。さっきのはそういうこと。あなたという『一度死んだ者』の言葉を理解することができたのも同じ理由」
甲冑騎士はそう言って黒い本を掲げ持った。
性別のわかりにくい不思議な雰囲気。男性の中にいれば少年だと感じるだろうが、女性の中にいれば少女だと感じるかもしれない。
「いずれにせよ、言葉が通じるようになって良かった。バラバラになったみんなにもあなたが敵じゃないってちゃんと説明できる」
こちらを案ずる言葉はどこまでも優しい。
直前の俺の失態、そして取り返しのつかない罪さえも優しく包み込むようだった。
俺はこの人に、どれだけのものを返せるだろう。
相手の名を呼ぼうとして、その音が正しいのかどうかを頭の中で確かめる。
一呼吸置いてから、疑念と共に口にした。
「偽名で呼ばなきゃいけないんだったよな。アズラ、でいいか」
「あなたの渾名は『鎧の腕』だね。ふふ、伝説の大戦士にちなんだ異名だ」
それからアズラは散り散りになった仲間たちの名前を順番に呟く。
オーク、カルコス、ミルラ、フィグ。
そしてカイン。
封じ名とアズラは呼んでいた。本当の名を知られないための偽名だと。
それにしては、なんというか異世界っぽくないというか、ひっかかるところが多い。
「仮の名前は魂を守るための呪文。聞く者の認識に応じて変化するような構造にしてあるから、きっとあなた個人が持つ文脈に影響された名前に聞こえてるんじゃないかな」
「よくわからないが、名前の響きに聞き覚えがあるのは俺が勝手にそう感じてるだけか」
魔法じみた力による不思議な翻訳。
視界に浮かぶ日本語は、俺の認識を参照して形を変えているという。
内心で自分の本名とアズラたち、それから『彼』の名を並べる。
だとしたら、滑稽なことだ。
俺の中にある罪の意識、救済を願う浅ましい欲望が形になった、それだけのこと。
そう、やはり俺は罪人でしかない。
仲間殺し。その罪を、アズラは赦してくれた。それでも俺は。
「今は警戒して、敵を倒す事に集中しよう。それ以外のことは後で考えればいい」
この森には俺たちに殺意を向ける恐るべき敵がいる。
名を知られれば呪われる。呪われた者は怪物と化す。
怪物となったものは敵となり、俺たちは同士討ちを強いられる。
仲間殺しの罪人を生み出し続ける最悪の敵だ。
「魔将シェボリズ。奴には必ず報いを受けさせる。称号ではなく、奴の『まことの名』を解き明かして。手伝ってくれるよね」
「ああ。カインの墓前で勝利を報告する。そういう約束だからな」
『彼』の名に誓う。
俺たちは共に勝って生き残り、死んだ仲間を弔うのだ。
だが、死闘のあとに残ったのは虚脱と後悔。
約束は不完全な形で果たされることになった。
それから半年、俺はずっと待ち続けている。
「おはようゼノグラシア。気分はどう?」
知らない声だった。
発音のひとつひとつが明瞭ではっきりとした、活気のあるソプラノ。一瞬だけ少年の声かとも錯覚したが、上から俺を覗き込むその顔は女性のものだ。寝台の上で仰向けに寝そべっている自分に気付く。枕元にはすやすや眠る怪物と黒い本。生身のまま残っている左腕上腕部から点滴の管が伸びているのに気付く。ここはどこだ。いやそれよりも。
「誰だ」
少女だった。細身で背はすこし高め。おそらく俺とほぼ目線が同じくらいのはずだ。
私服なのだろう、服装は黒い長袖のワンピース。丈が短く、すらりとした脚がよく映えていた。黒いタイツがショートブーツまでの脚部を完全に覆っているので、全体のシルエットは細く、そして非常に暗い。
まるで影のようだった。
見るものに鮮烈な印象を残す赤い髪とは相反する衣装。いや、逆に服装が暗色系だからこそ燃えるような髪色が際立つのか。
「さんさのやり」
正体不明の赤毛の少女は短くそう答えた。
気を失う前に得た不思議な翻訳機能は正常に働いているようだが、何かが妙だった。
視界の下部に表示されている字幕表示の意味がわからなかったのではない。
その言葉は、俺が知る日本語で響いていたのだ。
「トリシューラ。私はトリシューラだよ。ここは病院。あなたは大怪我して運び込まれてきたの」
繰り返された名乗りと字幕の表示が一致する。
もう日本語が聞こえてくることはない。聞き取れない異邦の響きだ。
錯覚か? 少女の口から発せられる音声と字幕表示は一致している。耳で聞いても『トリシューラ』だ。まだ寝ぼけているのだろうか。
「今、日本語で何か言わなかったか」
少女のすっきりした声には違和感がある。
スピーカーを通して喋っているかのような、奇妙にアーティフィシャルな感じ。
違和感の正体に気付いた。息づかいがないのだ。
目の前にある女性の顔には整った形の鼻も口もあるのだが、それらが呼吸しているように見えないのだ。
遅れて認識する。相手の相貌はぞっとするほど整っている。美術品の彫像というか、人形めいていた。緑色の目は大きく、肌の白さも相まってビスクドールのようだった。
髪色は赤い。生来の赤毛であるのか、それとも染めているのか。判断の付きにくいほどにその色は深く、にも関わらず透き通るようなきめ細かい髪質。
左右に流れた毛束が黒いシュシュによって肩の所で二つに結ばれており、毛先は緩やかに巻かれていた。
「あなたがトリシューラだと認識できているのならそれでいいんじゃない。私が三叉の槍に託した願いと、あなたがそれを受けて直観したイメージが相互に参照し、揺らぎながら生まれた神話像。その結果『断章』が出力した解釈がトリシューラという名前なわけ」
めんどくさい説明だが、似たような話なら夢で聞いたばかりだ。
要するに、俺の認識に引っ張られた結果、『三叉の槍』を意味する響きの言葉が『トリシューラ』に変換されたということか。
「ストライダーとスティングが馳夫とつらぬき丸に置き換えられるみたいなもんだね」
「なんで異世界人が指輪物語を知ってるんだよ。やっぱこれ夢か?」
「それはどうかな。こちらの世界における対応関係にある例を出しただけかもしれないよ。私が床にぶちまけたのがミルクだとしても、あなたには水だと認識されているのかもしれない。ほら、モノクロ映像だったら字幕翻訳でも混乱しそうじゃない?」
朗らかな声で煙に巻くような事ばかり言うな、この女。
心地良い響きのせいでつい納得してしまいそうになるが、よく考えれば全く説明になっていない。トリシューラといえばヒンドゥー教において破壊と再生を司る神シヴァの持つ槍のことだ。つまり俺は目の前の少女にそういうイメージを抱いたということになる。しかし話していて抱く印象はむしろ悪魔とか魔女とかの方だ。
離していると、トリシューラと名乗った少女はよくわからないことを始めた。
簡素な布製の人形を繕い出したのである。
その上、使っている道具が奇妙極まりなかった。
血色の針と、毛髪の糸。
縫合に使われているのは赤毛の少女のものではなさそうだ。色は黒、そう長くないから男のものだろうか。
「あ、勝手に髪の毛抜いてごめんね。量を気にしてたら悪い事したかな。お父さんの頭髪はどうだった? 心配ならカツラの準備しようか?」
「余計なお世話だ。というかなんで俺の毛で人形を縫ってるんだよ恐すぎるだろ」
普通にやり取りしていたが、ひょっとしてちょっとサイコでオカルトな傾向のある取り扱い注意なタイプの女性だったのか?
そもそもどういう立ち位置の相手なのかも不明だというのに。そこまで考えた時、俺の身に無視できない異変が発生する。
「痛覚制御、もう切っても大丈夫だよ」
感覚制御アプリ『E-E』を噛ませていた痛覚信号が消えている。
エラーを疑ったがそうではない。
傷が塞がっていた。まるで傷を縫合された人形の状態を反映するかのように。
「何をした」
「呪術医だからね。おまじないだよ」
見慣れない言葉に馴染みのないルビ。
どこぞの異邦ではまじない師が医者も兼業していると聞くが、この異世界でもそういう職業があるということなのだろうか。
流石は異世界、あやしげなまじないであっても現実に効力を発揮するようだ。
理解を早々に放棄して、俺は現実に目を向ける。
「感謝するが、当然いまの治療も入院もタダじゃないんだよな?」
そしてこの街には政府などなく、保険にだって入れるわけがない。
嫌な予感に反して、少女は女神のように柔らかく微笑んだ。
「安心していいよ。当院ではすぐに支払いをできない患者のために低い利子でのお金の貸し付けやお仕事の斡旋、安価な住居の提供なんかもしているからね。このへんはあなたが追われている組織の勢力下にはないから、安心して働けるよ。やったね」
聞く限りだと至れり尽くせり。
言葉を素直に受け取るなら、この恩人はこれから俺の雇い主になるわけだ。
しかし、あまりにも都合が良すぎる。
俺の疑念を察したようにトリシューラが目を眇める。
「いかにも怪しいよね。当然、私にもメリットがある。異世界転生者を手もとに置いておけるっていう破格のメリットがね」
「ゼノグラシア?」
既知の言葉に未知のルビが重ねられている。
意図するところがわからない。
俺に大した価値はないが、彼女にとってはそうではないとでも言うのだろうか。
「転生憑依者、あるいは異界知獲得者。異世界から漂着した情報構造体に自己を侵食されて変質してしまったものを、この世界ではゼノグラシアと呼ぶんだ』
知らないはずの知識、習得していないはずの言語。
それが不意に『前世の記憶』として蘇り、ごく自然に扱えてしまう現象。
真性異言なる現象から転じて、『異世界転生者』を総称してゼノグラシアとしている。
どうもトリシューラはその一種である俺に興味津々らしい。
「でもあなたは憑依型とはものが違う。過去に観測された夢参照型や憑依型の転生者とは異界情報の純度が比較にならない。九割九分九厘まで完全なアウトサイダーだよ。これはそうそうあることじゃない」
それはそうだろう。少しばかり予測不能な事故があったとはいえ、情報構造体の再構成には成功した。この世界に転生を果たしたのは前世そのままの俺だ。
「解剖実験にでも協力したほうがいいか?」
「まさか。私は人道を重んじるよ。あくまでも生体情報のモニタリングとか運動テストに協力して欲しいだけ。そうだ、折角だから私が善良で良心的な呪術医だというアピールをしようかな」
そう言ってトリシューラは部屋の隅に置いてあったモニタを指差した。口で「ぴっ」と言うと画面がどこかの光景を映し出す。
やや高い位置から撮られているリアルタイム映像のようだ。
白い建物と広い入り口。「ここのエントランスだよ」とトリシューラが説明していると、どこかから複数人の男達が集まってきた。
見るからに怪しげな、ずだ袋や覆面を被ったならず者たち。
釘の打たれた棍棒を荒っぽく振り回し、意味の通らない罵声や威嚇を繰り返す。
「何だこの茶番は」
「誘拐と臓器売買で利益を上げている『医療関係者』の皆さん。私たちが価格破壊の培養臓器で良心的に患者を救っているのが不満みたい」
病院の前で破壊活動を行おうとするならず者たちだったが、その思惑は阻止される。
建物から現れたのは美しい長身の黒装束と捩れた牙を持つ猪のような巨獣だ。
一人と一頭は凄まじい強さで襲撃者たちを蹴散らしていく。
いや、だから何だこの宣伝映像。これ見せられて「なんという勧善懲悪。トリシューラさんは信頼できる人だなぁ」と思える奴はちょっと警戒心が足りてない。
しかし、俺の目は映像に釘付けになっていた。
「あれ、もしかして機械義肢か」
「お、気付いたかな? いい性能でしょ?」
襲撃者たちを次々と薙ぎ倒す二つの影、その強さを支えているのは通常の肉体に増設されている追加部位だ。
ひとつは腰から伸びる長大な多節構造と鋭利な先端。サソリの尾を思わせるそれはしなやかに動いて敵を突き刺し、注入された何らかの薬液により対象は泡を吹いて昏倒。
もうひとつは背中にへばり付く装甲から伸びた機械腕。四足歩行の獣は猛烈な勢いで突進を繰り返し、回避した相手や背後からの襲撃に対しても的確な応戦を行っていた。
「私にはあのレベルの機械義肢が用意できる。タダとは言わないけどね。私に協力すればあなたの左腕を用意してもいいよ」
全ての言葉を素直に受け取ったわけではない。
何かの陰謀や企てに巻き込まれている可能性はある。
いいように利用されることになるのだろう。
だとしても、その報酬は俺にとって喉から手が出るほどに魅力的だった。
半年前に失った左腕、その代わりがなんとしてでも欲しい。
「わかった。何からすればいい?」
「話が早くて助かるよ。それじゃあ早速、あなたを利用させてもらおうかな」
トリシューラは露悪的に言いながらにこりと笑みを作った。
手渡されたのは連絡用の携帯端末。長方形の薄い金属板はかなりクラシックな作りをしていたが、説明されればおおまかな使い方はわかる。
「依頼はそのページに掲載しているからチェックしておいてね。受注するかどうかは自由。ただし早い者勝ちだよ。さっき暴れてた二人みたいに、私は他にも請負人を抱えてるからね。効率的に達成報酬を得れば追加の装備なんかも支給できるよ」
「言い回しはともかく、この『メインクエスト』ってのは?」
日本語訳が重なって微妙に視認性が悪い端末の画面に顔を近付ける。
ゲームじゃないんだぞと言いたくなるが、わざとゲームっぽくしてこっちの危機感を鈍磨させようとしてないか? 人間の脳が騙されやすい脆弱性を突いたり快楽物質ドバドバ出させてパフォーマンス上げたりしようとするの、止めて欲しい。
「それは優先的にやってほしいなーっていう依頼だね。ボーナスも出るよ。今なら追加の装備に右腕の無料充電、食料と医薬品、おまけで義肢の無料アップグレード権利まであげちゃうよ!」
軽やかにメリットを並べ立てるトリシューラ。
俺はなるほどと頷いてから、当然の疑問をぶつけた。
「で、危険度は?」
「この街に真の安全なんてないよ。ここは半年前と変わらない。人が死ぬ戦場で、欲望を貪り喰うダンジョンなんだから」
俺を利用する、と少女は言った。屈託のない笑顔はとても人工的で、貼りついた仮面のように完璧だ。美しい表情は悪魔のような現実を映し出している。
彼女の言うとおり、この場所の本質は半年前から変わっていない。
恐ろしい人狼が支配する森、そこでの戦いはかろうじて俺たちの勝利で終わった。
だが戦場は戦場のまま。
世界の様相は変わり、混沌とした街が構築されてなお平穏は訪れない。
支配権を主張するならず者たちが血みどろの抗争を繰り広げる修羅の巷。
それがこの場所。
「『第五階層』なんて相当な深層だよ。世界一危険なダンジョンのど真ん中で生きようとするなら、それなりに覚悟が必要でしょう」
「わかってるさ。欲しいものがあるんだ、それなりに頑張らせてもらうよ」
ここは異世界。そして、異世界の中にある異界なのだという。
途方も無く巨大な構造物。その内部に作られた九層の異界。
外界と断絶されたその巨大な尖塔の名を世界槍と呼び、折り畳まれた広大な箱庭の支配権を巡っての争いが日々繰り広げられる。
俺が訪れたのは、そんな物騒な異邦なのだった。
戦いは続く。生きている限り、何度でも。
言葉を得て開けた視界。クリアになった世界で何かを為すのであれば、両手が揃っていた方が都合がいいだろう。
さしあたっては左腕だ。利用されているのならこちらからも利用し返すまで。
「よろしく頼むよ、トリシューラ」
「こっちこそよろしくね。私のゼノグラシア」
差し出した右手を無視して存在しない左手の方に手を伸ばすトリシューラ。
奇妙な動作だが、『上手くやればいずれ渡す』という意思表示だろうか。
などと疑問に思っていると妙なことを言い出した。
「そうそう、もし首尾良く依頼をこなせたら、私の用意する義肢なんていらないって言い出すかもしれないね」
「どういう意味だ?」
「次に行く場所で、あなたは神秘をその身に宿せる可能性がある。適性があればの話だけど。形のないアストラル体。『幻掌』とでも言うべき『呪術』を会得できたりしてね」
理解不能のオカルト話、とは限らない。
この世界にはそういうものがあるということは知っていた。
言葉を翻訳する不思議な力もそのひとつだ。
それが、自分のものになる?
「それは楽しみだ。わくわくするな」
正直に言えば半信半疑だったが。
翌日、俺は心底から仰天することになる。
手で触れずに遠く離れた場所にいる相手を打ち倒す、遠当ての奥義。
『達人』の技を目の当たりにして。
余談。
退院する際に例のブルドッグ男と顔を合わせた。
聞けば名をプーハニア・トストンスと言うそうだ。顔を記録してARネームタグと紐付けして『恩人』『闘技場チャンプ』と付箋を貼っておく。
「お、上手いこと仕事にありつけたか。あの呪術医、いいやつだよなあ。俺も請負人登録させてもらったよ。依頼が被ったら協力しようぜ」
どうもすっかりトリシューラを信じ切っているらしい。心配になるくらい素直だった。
「ああ、その時はよろしく。それにしても世話になった。どう礼をしたらいいか」
真面目に言ったのだが相手は豪快に笑って俺の背中をバンバンと叩いてきた。
印象通りシンプルな男らしく、細かい事は気にするなとばかりに笑う。
「なあに、いいってことよ! どうしてもってんなら今度メシでもおごってくれや。それか可愛い垂れ耳で安産型のいいケツした女の子を紹介してくれ」
正直、内心『うおっ』と仰け反ってしまう。とはいえ恩人だ。善良で気のいい奴ではあるのだろうし、程々の距離感で付き合っていきたい。
「あー、わかったメシだな。あと人前でそういうセクハラっぽいのは控えた方がいいぞ」
「ん? 何だよ、安産型は褒め言葉だろ? あ、ケツはまずいか! うん、安全にお産ができそうなナイスバディ! これならどうだ! やっぱ普通の分娩が一番だからな」
意思疎通って難しいな。言葉が通じたからと言って考えが通じるわけではないのだ。個人の信念や文化の差異を埋めるのは難しい。
いつか言動で炎上しなきゃいいんだが。
恩人の未来に一抹の不安を感じながら、俺は短い入院生活を終えたのだった。