依頼?(前半)
「マコちゃん、取り敢えず部屋に戻ろうか?」
「そうだね、疲れたよ」
部屋へ戻ろうとエレベーターに乗ろうとした時。
!これ何?
ロビーのレストラン前に昨日まで無かった立て札が。
『王都直送!ドラゴンステーキ1人前、4万G、今だけお値打ち価格!』
「マコちゃん......これって、この間マコちゃんが倒した......」
「たっ多分.......」
立て札の横には見本があり、見本のお肉の大きさからして一人前200gぐらい?
えっ?お肉100g、2万円って、一匹丸々だと一体いくらになるの?
これでお値打ち?って言うかドラゴンのお肉って売れたの?
僕が貰ったお金は取り上げられたけど、確かあれは討伐の報酬って言ってた!
素材のお金なんて貰ってないよ?
なんか.......なんか騙された感、半端ない!
問い詰めなきゃ!王都に戻ったらサーニャさんを絶対に問い詰める!
僕だって男の子!言う時は言うんだから!
決意を新たに部屋へ戻る。
その夜の夕食は、やっぱりドラゴンステーキが出た。
ん?ドラゴンステーキ?
お高いんだよね?
硬くってそんなに美味しくは無かったよ、昨日の和牛の方が断然美味しかった。
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朝から支度をして、昨日と同じワンピースでクリスと一緒にギルドに出かける。
フロントのお姉さんに聞いた話、ギルドは海岸通りにあるみたい。
リサの喫茶店に近い場所だった。
クリスと手を繋ぎ、歩いて坂道を下り海岸道路へ。
ビーチが見えて来て、小さくてシックなリサの喫茶店を通り過ぎると、赤煉瓦で二階建ての可愛い建物が見える。
フロントで聞いてたギルドの建物だ。
ギルドの木製の扉を押し開くと、中に居た人達の視線が一斉に僕とクリスに向いた。
けれど、一瞥して直ぐに其々の仕事を始める。
王都と違って観光地だからだろうか、冒険者みたいな人はあまり見かけない。
商売をしてる風の人が多いかな?なんだか若い女性も多い様な気がする。
そのまま一つしかない受付に向かうと何故だか、またもや刺す様な視線が背中に刺さる。
視線を無視して、俯き事務作業をしている受付のお兄さんに僕は声をかける。
「すみません!ちょっと良いですか?」
お兄さんは作業の手を止め、顔を上げ僕の顔を見るなり、爽やかな笑顔を見せる。
端正な顔立ちにスラリと背は高くそれでいて華奢な感じもしない細マッチョとでも言う所?白い歯をキラリと光らせながら口を開く。
「どうされました?お美しいお嬢さん方、初めて見るお顔ですけれど、ギルドに御用ですか?旅行者の方でか?」
「はい、王都から来ました、王都のギルドマスターから此方のギルドマスターにお手紙を預かって来たんですけど、渡しといて貰えますか?」
そう言ってバックから手紙を出し、そのまま渡して帰ろうとしてたのだけど、受付のお兄さんは手紙を受け取ると手紙を持ったまま「すみません!お待ちください!」と慌てて奥に引っ込んだ。
え?待つの?なんで?お駄賃でも貰えるのかな?
ちょっと期待して待ってると、さっきのお兄さんは奥から戻ると受付のカウンターを出て来て、そっと僕の背中に手を回して「どうぞ此方へ」と恭しく僕とクリスを別室に促した。
先程から感じていた刺す様な視線が、さらに殺気の篭ったものの様に感じるのは気のせい?
お兄さんに扉を開けて貰い、促されて入った別室で僕とクリスはピタリと止まった。
「なんで!?なんで三郎さんとサーニャさんがいるの?」
部屋のソファーには、三郎さんとサーニャさんが座ってる。
クリスと二人ぽかーんとしてると、三郎さんが口を開く。
「あぁ、マコトさんとクリスさんですね!初めまして、ゼップギルドマスターの五郎です、ゼップへようこそ!」
「へ?五郎......さん?」
「王都で兄がお世話になっております、僕達、五つ子なんですよ!その反応は良くされます」
「はぁ......五つ子......ん?と言う事は、お隣はサーニャさんの妹さん?お姉さん?」
「マコトさん、何を言ってるんですか?私には姉も妹も居ませんよ?」
「えっ?じゃあ......サーニャさん?なんでゼップに?って言うか、サーニャさんが来るんだったらなんで僕に手紙?!」
サーニャさんは返事をする事なく、ツイっと視線を逸らした。
どう言う事?もしかしてギルドに僕をおびき寄せるのが目的だった?何か陰謀的な物を感じる。
!そうだ!丁度良い、ドラゴンの素材の事を此処で問い質さなきゃ!
と僕が口を開きかけた時サーニャさんは何時もは見せない笑顔を作って話しかけて来た。
「所でマコトさん、丁度良い所に来てくれました、実は一つ依頼を受けていただきたいのですが.......」
これか!この依頼を受けさせるのが目的だね?丁度良い所とか白々しい!
僕はサーニャさんの話を遮る様に口を開く。
「丁度良かったですよ!僕もサーニャさんに話があったんですよね、僕、昨日ドラゴンステーキって言うのを初めて食べたんですけど!」
「...........」
「あれって僕が倒したドラゴンですよね?」
「..........」
「素材の代金、僕、受け取って無いんですけど!」
「チッ!」
あっ!舌打ちした!この人今、舌打ちしたよ?!
サーニャさんは作り笑顔を浮かべて口を開く。
「でもマコトさんはあの時、ドラゴンの処理をギルドにお任せ頂いたのでしょう?ならば素材の権利はギルドに移譲されたと言う事ですから、適正に処理致しましたよ?」
「でも..........素材が売れるって知らなかったから!」
「今更そんな事を言われても、冒険者の常識では無いですか?」
「そんな!」
「では、この話は終わりで!依頼の話をしましょうか?」
僕の抗議はあっさり打ち切られる。
なっ!こんな状態で依頼とか、百歩譲って僕にこの世界の常識が足りないのは僕自身せいだよ!確かにあの時、早く壊したギルドの前から立ち去りたくてお願いはした、でもそんな態度は無いんじゃない?
「嫌です........」
「え?」
「依頼は受けません!サーニャさんの事、信用出来ないもん!」
「くっ!」
サーニャさんは眉尻をピクピクと痙攣させて笑顔を痙攣らせる。
ギルマスの五郎さんとクリスは僕とサーニャさんの攻防に息を呑み硬直したまま、僕とサーニャさんを交互に見つめる。
サーニャさんは一度溜息を吐き、作り笑顔をやめて真面目な顔になり口を開く。
「分かりました.........では証文を作りましょう、依頼料も弾みます、マコトさんの条件が有れば全て呑みます!これでなんとか受けていただけませんか.......」
そう言ってサーニャさんは頭を下げる。
え!何?この必死さ?一体どんな依頼なの?ちょっと依頼の内容に興味が出て来た。
「この依頼はマコトさん以外にはこの街の冒険者では達成する事が叶いません、どうかお願いします」
サーニャさんは言葉を重ねて頭を更に低くする。
本当に何なの?僕以外には無理な依頼?ドラゴン退治とか?
それにしても、こんなに頭を下げられると居た堪れない。
「もう!頭、上げてください!僕が悪いみたいじゃないですか!一応聞きますけど依頼って何なんですか?あっ!受けるか受けないかは内容次第ですから!」
「ありがとうございます、取り敢えず依頼の内容をお話しさせて頂いてよろしいですか?」
サーニャさんは顔を上げ、珍しくニコリと一度微笑み、そして何時もの無表情に戻ると話始めた。




