反撃?
ルミエールに回復魔法をかけて貰って体に力が入るようになった僕は、確かめるように手を握ったり開いたりして動きを見た後、クリスに支えられたままの体を自分で少し起こす。
そして恐る恐る自分の背中に手を伸ばし傷があったであろう場所に触れてみる。
服は裂け破けてるものの皮膚には何も残ってないみたい。
そんな僕の様子に安心して気が緩んだのかクリスの瞳から涙が溢れ落ちた。
「マコちゃん!」
クリスはとめどなく溢れる涙を気にも止めず僕に縋り付いた。
「良かった.......良かったよ!マコちゃん死んじゃうかと思った.......」
クリスは僕の体に顔を押し付けるようにすすり泣く、僕はそんなクリスの体をそっと抱きしめる。
「クリスごめんね、怖い思いしたよね?それに、この服破けちゃった」
クリスは涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げ、精一杯の笑顔を作り答えた。
「大丈夫!私がもっと可愛い服、買ってあげるからね!」
「遠慮します.......」
クリスは僕の返事に涙も拭わないまま頬を膨らませ、そして笑った。
「マコトはなんで魔法を使わない?」
とつぜんの問い掛けに振り向くとアサギさんが船から降りて来ていた。
冒険者達は3匹に分裂したケルベロスを取り囲んではいるが攻めあぐねているみたい。
「黒い魔物は魔法が効かないから.......」
「?効かない?防御魔法か?私の魔法は避けていたが?」
ん?魔法を避けた?そう言われてみれば調査の時に出くわしたブラックウルフも僕のアイスランスを避けてた。
そもそも魔法が効かないと思ったのはゲームの知識だ、それもレベルがまだ低かった時に出くわしたブラックウルフとの経験からだ。
もし防御魔法を持ってても今のレベルならシールドを抜ける魔法攻撃もできるんじゃ無い?
「そうですわ!マコトなら、あんな犬なんて魔法でパッとやっつけられるんじゃありませんの?そう!城で使った『ソーロランス』?とか?」
突然ミリアが話に割り込むが、聞き慣れない魔法の名前.......僕が使った?城で?もしかして酔っ払ってた時の話?
「ミリア?それってどんな魔法?」
「どんなって?あぁ!覚えて無いのですね?凄かったですわよ!マコトの周りに沢山の剣が現れて、それはもう戦女神のようでした!」
!.......それって『ソードダンス』の事じゃ無い?ゲームの設定の中に有った、魔法剣士だけが使える固有魔法!でも、僕は使えるまでにはレベルを上げられなくて本当にあるのかわからない幻の魔法って言われてた、それを僕が使ったの?
ステータスを見る事が出来ないけれど、もしかして僕のレベルが上がってる?
それともこの世界に来た所為?
「良し!じゃあ、僕、倒して来るよ!」
そう言って僕は立ち上がる、クリスは少し心配そうな表情を浮かべるが、僕の目を見て小さく頷く。
僕はケルベロスを囲む冒険者達の円の中に進みでる。
目があったマーサに頷くとマーサは一歩後ろに下がった、そしてダームさんが確かめる様に聞いてくる。
「マコト?いけるか?」
それにも僕は頷くとダームさんも一歩下がり他の冒険者達も下がった。
そして3匹のケルベロス達と目が合う、3匹は僕を見つめたまま身体を寄せていき、元の姿、三つ頭の本当のケルベロスの姿を現わす。
「なっ!ケルベロス?」「神話の中の魔獣がどうして?」「マコト達はこんなのと戦ってたのか?」
冒険者達は口々にその驚きを吐き出す。
僕は両手を天に向かって突き出す、もし出来なかったら凄い恥ずかしい!とかチラリと脳裏を過るが、みんな期待してるし、やるしか無い!
「ソードダンス!!」
詠唱と同時に何時もなら手を離した瞬間、消えてしまう何時もの剣が、僕の目の前に浮かぶ。
その剣を起点に上空、左右と同じ剣が僕の周りに無数に現れた。
その剣の様子を見て魔法剣士だけが使える魔法って、こう言う事なんだ!と納得する。全ての剣はケルベロスに切っ先を向けていた。
「行け!」
僕の号令と共に剣達はまるで一つ一つが意思を持ったかの様にケルベロスに襲いかかる。
剣が斬撃を繰り出した瞬間、無数の黒く透明な魔法陣がケルベロスの周りに剣達を阻む様に現れるが、それを剣が切り裂いていく、するとまた新たな魔法陣が無数に現れる。
暫く経って無限に続くかと思われた剣と魔法陣の攻防に「ギィィー!」と突然のケルベロスの悲鳴が響き渡る、シールドを張るだけの魔力が残っていないのか、もう魔法陣は現れる事は無い。
後は数の暴力、次々に剣達はケルベロスの身体を切り裂いていく、周りで見ていた冒険者達も、圧倒的な光景に息を飲む、その時、ガチッ!と硬質な物同士が合わさる音がした。
剣が魔石を打ち砕いた音だ、同時にケルベロスは断末魔の咆哮を挙げ溶けるように身体が消えていく。
ケルベロスの居た場所には粉々に砕けた魔石が落ちていた。
「マコト!大丈夫か?」
マーサが駆け寄る、僕は全ての剣を消してマーサに向き直る。
「マーサ、ミコトの事知ってるの?」
「知ってはいる.......だけどあれは俺が知るミコトとは違う.......」
「そうだよね.......あんなミコト.......ミコトじゃ無い.......」
その時、ダームさんが「全員これで調査は終了だ!さっきの事も含めて報告は俺がする、報酬は明日以降ギルドで各自受け取る様に!解散!」と冒険者達に向けて叫んだ。
冒険者達は其々帰途につく。
無言になった僕とマーサの所にクリス、ミリア、ルミエール、アサギさんの四人が近寄って来る、僕の血で汚れてたクリスはアサギさんが清浄魔法をかけたのだろう綺麗になってる。真っ先にアサギさんが口を開いた。
「マコト、あの魔物何処から来た?」
「えっと.......」
僕は口籠る、正直に話せばミコトの事も話さなければいけなくなる。
そこにマーサの助け船が入った。
「停泊してる魔道船の中に隠れてたんじゃないかな?俺らが来た時はもう居たから」
「.......そう?」
全てを見ていたクリスとミリアは僕とマーサの態度に沈黙を決め込み、アサギさんは訝しげに僕とマーサを見つめて、目を瞑り溜息を吐く。
「はぁ.......今日の所はそう言う事にしておく」
アサギさんはそう言うと踵を返して帰途につく。
そしてルミエールが話しかけて来る。
「マコちゃん!ウチも報告しなきゃなんで教会に帰るっす!」
「ルミさん、なんで魔道船で帰ってきたの?助かったけど」
「あぁ、アレっすか?マコちゃんと別れた後も調査してたんすけど、魔物が全然いなかったんす、で、帝国領まで足を伸ばしたら王妃様が魔道船を手配してくれてたみたいっす、お陰で一日早く帰れて間に合ったって事っすよ」
「そうだったんだ?ルミさん!本当にありがとう!ルミさんのお陰で命拾いしたよ!」
「まぁ、それがプリーストの仕事っすから!じゃあマコちゃんまたっす!」
「ルミさん!またね!」
気が付くと時間はもう夕方に差し掛かっていた。
クリスが僕の手を握る。
「マコちゃん?帰ろう?」
僕はクリスの手を握り返してマーサの方を見る、マーサも僕の視線に気付いて向き直り口を開く。
「マコト、話は次だな?」
「次は絶対に聞かせて貰うよ!」
「なんですの!もう次のデートの約束ですの!」
ミリアが唐突に割って入る。
その様子を見てマーサはこれ幸いとばかりに「じゃあ!」と軽く手を挙げ走り去る。
死にかけたし、流石に疲れた僕は追うのを諦め帰途につくことにする。
僕とクリスとミリアの三人で手を繋ぎ無言のまま歩く。
ギルド前の広場まで来るとミリアの家の馬車が迎えにきていて、「またね!」と何かを聞きたそうにしているミリアと別る。
僕は、いつもよりきつく手を繋ぐクリスと二人でゆっくりと宿屋に帰った。




