薬草採集?
宿屋の仕事は、夕方までには帰れば良いとクリスが言うので、そのまま採集に行く事になった。
手を繋いで昨日の城門に向かう。
クリスは、男の子と手を繋いでいても恥ずかしく無いのかな、気にした様子も無い。
むしろニコニコして、機嫌が良さそうだ。
僕も、気にしない事にする。
城門まで来ると昨日の衛兵が話しかけてきた。
「クリス、またハーブか?昨日のお嬢さんも一緒か?」
身分証も作ったし、問題も無いだろうと思い、お嬢さん発言を訂正する事にした。
「あの?僕、男の子なんですけど?」
「はぁ??」
衛兵は間の抜けた声を出しながら、僕を上から下まで見回して、クリスに一度目を向ける。
相変わらずクリスはニコニコしてる。
それを見て、繋いだ手を見て、もう一度僕の顔をジッと見つめたかと思うと、一度溜息を吐いて、口を開いた。
「森は魔物が増えてるから気をつけろ、絶対奥まで行くなよ!」
そう言うと衛兵は、僕とクリスの頭の上にポンと手を置いた。
手を振って衛兵と別れ、森に向かう。
城壁に沿って歩いて行くと。森に続く小道が見えてくる。
クリスは迷う事なく僕の手を引き、小道に沿って森の中へ入って行く。
クリスは、歩きながら今流行りの服やアクセサリー、評判の化粧品の話をしながら歩く。
興味も無いし、よくわからないので生返事を返しながら手を引かれて歩く。
しばらく歩くと急に視界が開けた。
視界の先には綺麗な花畑が広がっていて、この付近にポーションの材料の薬草も自生してるのだとか。
クリスの指示通り薬草やハーブを摘みながら花畑の周りを探し歩く。
薬草と一緒に摘んだハーブは宿の料理に使うみたい。
探しているうちに、ゲーム内のアイテム探しをしてるみたいで楽しくなってきた。
途中、クリスは、腰に下げたバックからビスケットみたいな物を出して二人で分けて食べた。
小さいのにお腹が膨れる。携帯食らしい。
そのあとクリスは、花畑から花をいくつか拝借して花冠を作り僕の頭に被せる。
嫌がったが、花冠はとても良い匂いがした。
「洋服買う為にまだまだ沢山集めようね!」
僕はこの収入で服を買うつもりで言ったのに、何故かクリスは
ツイっと目を逸らして、そうだねーと気の無い返事をした。
その態度に首を傾げつつ、もっと頑張って薬草を見つけようと森の方に眼を向けた時。
森の中の茂みが動いた様な気がした。
一瞬の出来事だった。
茂みから、シルバーウルフがクリス目掛けて飛び掛ってきた。
僕は咄嗟に押し倒す様に襲いかかるウルフの爪からクリスを守るが、完全に避けきれず僕の頬を掠める。
汗が流れたのかと錯覚する様な少し冷えた血の流れる感触と、鉄の錆びた様な臭いが、周りの花々の匂いと色を搔き消す。
五感が、ゲームでは無く、リアルなんだと報せる。
電気が走る様に頭の奥が痺れてくる、一瞬で喉がカラカラに乾いていく。
景色が全てスローモーションになる。
ファイヤーボールを唱えようとウルフに目を向けて周りの花畑を思い出した。
花畑燃えちゃう。
ほんの僅かの判断の遅れに、ウルフは牙を剥き飛び掛ってくる。
同時にさっきの茂みからもう一頭が挟み撃ちの様に飛びかかって来た。
「アイスバースト!!」
拳大の氷の塊が僕とクリスを中心にドームを広げる様に高速で飛び散る。
氷の幾つかが二頭のウルフの身体を貫くと同時にウルフは解ける様に消えた。
その場所には小さな透明の魔石が落ちていた。
あっと言う間の出来事にボー然としているクリスを抱き起すと、ハッとして僕の両肩を掴み激しく揺すりながら捲したてる。
「なに!!?今の?魔法?魔法使いなの?あんなの見たことない!なんで!なんで!なんで!あっ血が...........」
クリスは揺すっていた手を離し、慌てて腰に下げていたバックからハンカチと小瓶を取り出し、中の液体をハンカチに染み込ませる。
そして液体の染み込んだハンカチで僕の頬を優しく拭ってくれる。
頬に暖かい温もりを感じ、触ってみると血も傷も消えていた。
「これ何?」
「ポーションだよ」
「これがポーション?!」
ファンタジーなポーションの威力に驚きながら頬を摩る。
ふと、ウルフから落ちた魔石のことを思い出した。
「ねえ?クリス?これって売れるのかな?」
魔石を拾い上げて、クリスの目の前に掲げるとなんだか目が泳いでる。
「うっうっう、売れない.....事は無い.......」
「どう言う事?」
「ちょっと待って!考える!考えるから待って!」
「?!」
「そうだ!薬草!ポーション屋さんに売りに行こう!」
「ギルドで売るんじゃ無いの?」
「任せて!薬草!先に売らないと悪くなるから!任せて!絶対!お徳だから!」
直販って事かな、ギルドに売ると中抜きされるんだとは思うけどね。
でも、この挙動不信さは何なんだろう。
この子、一体、何を企んでるんだろう。
取り敢えずポーション屋さんに行く事にする。