ディアナの魔道具店?(後半)
ハンドルに手をかけた瞬間、ズワっと魔力が流れる感覚がした。
同時にメーターの各灯火類が点灯して燃料計の針がEからFへぐんぐん動いていく。
その様子に慌てたミミリーは「ちょっと!ちょっと待って!店長呼んでくる!」と言ってカウンターの奥に「婆ちゃん!!」と叫びながら駆けて言った。
「婆ちゃんは辞めなって何度言ったら分かるんだい?何事だい?」
ブツブツと小言を言いながらミミリーから袖を引かれて出て来たのは、婆ちゃんと呼ぶのはとんでも無く的外れ、妖艶な雰囲気の美女、高く見積もっても30代前半、オマケに黒いツバの大きな帽子を被りローブを纏って「魔女ってこんな感じだよね?」と言う出立の女性。
女性はスクーターに手をかけて、お婆ちゃんと呼ばれて出て来た女性とのギャップに戸惑い固まっている僕を見て明らかに驚いた表情をして言った。
「お前さん、マコかい?」
「えっ?」
ちょっと待って?『マコ』ってもしかしてお母さんの事を言ってる?写真でしか見たことは無いけれど、目の前にあるスクーターは、お母さんが乗ってた物にソックリだ、それに僕はお母さんにとても容姿が似ている。
でも、お父さんからはお母さんは小さい時に亡くなったと聞かされていた。
それになんでこの世界で、お母さんの事を知ってる人がいるの?
「あの、僕マコトと言います、マコは僕の母ですけど、母の事知ってるんですか?」
「そうかい?私はディアナ、マコとは会った事は無いねえ、その乗り物の記憶、私は物の記憶が見れるんだ、その乗り物はマコの物だよ、アンタはマコの娘かい?」
「僕、男の子なんですけど.....」
僕の男の子発言に激しく反応したのはミミリーだった。
「はあ??嘘でしょ?アンタ何言っての?男の子になりたい系女子?」
「いや、ミミリー本当だから、マコちゃんは男の子」
クリスが肯定するが、ミミリーは信じてない様子で探るように僕を見ている。
ディアナは思い出したように「ああ!マコには息子がいたねえ」と納得してくれた。
そしてジッと僕を見つめて聞いて来た。
「マコトだったね、アンタがマコの子なら夢の世界の住人なのかい?」
ディアナは物の記憶が見れると言った。
と言う事はスクーターの記憶という事?夢の世界は僕が元いた世界の事を言っているのだろう、この世界からすれば夢の様な世界に見えてもおかしくはない。
「.....はい、多分ディアナさんの言う世界の住人です」
そう答えると、クリスが驚いた表情で僕をジッと見つめている。
僕は何となく疚しい気持ちを隠す様にクリスから視線を外してディアナに尋ねる。
「あの.....このスクーターどうやって手に入れたんですか?」
「エミーナとアストリアが戦争してたのは知ってる?」
「はい聞いた事はありますけど.....」
「昔、私はアストリアにいたのさ、その時にアストリアの城の宝物庫に置いてあったのをドサクサに紛れて持ってきた」
「アストリア帝国?戦争中に?」
「終わってからすぐの話だねえ、そもそもあの戦争自体がおかしかった、いきなり始まって、終わるのも早かったし、全てが唐突だったねえ」
「そうなんですか?」
確か戦争があったのはトウコさんが生まれる前とか言ってたから結構昔のはず?ディアナさんって一体何才なんだ?エルフか?と疑問に思いつつ、お母さんとこの世界の繋がり、スクーターがこの世界にある理由が全く判らない、もっと聞きたい気もするが、鍵はアストリアにあるのか?一度行ってみる必要があるのかな?
それにさっきからクリスの視線が気になるし。
クリスに隠し事をしている事が重くのし掛かり疚しい気持ちで一杯になる。
それにこの動きそうなスクーターの事も気になってスクーターに視線を向けるとミミリーも思い出した様にディアナに言い募る。
「ばあ、とっ、店長!これ動きそうだよ?どうするの?」
「どうするも、こうするもミミリーは早く捨てろって言ってたじゃ無いかい?捨てる物ならマコトにあげな!もともとその子の母親の物だし」
「勿体ない!」
えっくれるの?僕は唐突なディアナの申し出に嬉しくなるが、タダで貰うのは気が引けるので、何か無いかと考えバックの中身を思い出しバックの中から割れた真っ黒の魔石を取り出す。
調査の時の村で倒したブラックウルフの魔石だ。
「あの?これ代金の代わりになりますか?」
僕が割れた魔石を見せるとディアナはひったくる様に魔石を取り上げ掌に握り込み目を瞑る。
そして目を開き驚愕した顔で僕に言い募る。
「黒い魔物の魔石じゃ無いか!ウルフかい?どうしたんだいこれ?」
「倒しました、黒い魔物って?ウルフは黒かったけど.....」
「魔物は魔族が生み出してる事は知ってるかい?」
ゲーム設定にでは確かそんな設定になってた、設定通り?取り敢えず頷くとディアナは続ける。
「黒い魔物は魔王が生み出すのさ」
「え!魔王っているの?」
「アンタが夢の世界の住人なら神話は知らないね?神話によると、魔王はいない、勇者が倒したからね」
「じゃあなんで黒い魔物がいるんですか?」
「神話は本当の事だけを語っていると思うかい?世界を導くための神話、歪められた事実もあるんじゃ無いかね」
「歪められた事実?」
「そうさね、ただ確かな事はある、「人と人の出会いは運命、此処に私が立っている事さえも全てが決められた事」アンタの母親の言葉さね、だからアンタが此処に来たのも運命なのさ、だからその乗り物はアンタが持ってお行き」
お母さんの言葉、僕がこの世界に来る事をお母さんは知っていた?お母さんが亡くなったと言われていたのも本当の事なの?もしかしたらこの世界の何処かに.....
それに元の世界に戻るヒントも、そう考えているとずっと僕の事を見つめていたクリスと目が合う。
「ディアナさん、このスクーター貰って行きます、魔石は置いていきますから」
「あぁ魔石は貰っとくよ、色々使えるからね、良かったらまた来な」
横ではミミリーがクリスに魔球を渡していた。
僕はスクーターを押してクリスと店を後にする。
店を出たが、人混みの多い市場ではスクーターの試し乗りは危ない、ギルド前の広場まで押して歩く。
魔道具店からずっとクリスが何も喋らないので沈黙が重い。
広場までたどり着き、いざ乗ろうとしたけれどヘルメット無いと危ないよね?確かシートの下に、と思ってシート付近を探すとボタンの様な物が有り押すとシートが跳ね上がった。
その中にはスクーターと同じ色の半キャプヘルメットが2つ、1つをクリスにこれ被ってと渡し、もう1つを僕が被る、そしてクリスのあご紐を留めてあげる。
そしてスクーターに跨るとクリスも僕の後ろに横掛けする。
「クリス!ちゃんと掴まっててね!行くよ!」
クリスは僕の腰にギュとしがみつく。
僕はアクセルを捻る、ズワっと魔力が流れる感じがしてスクーターはゆっくり走り出した。




