蒼玉を迎えに行こう
西方へ帰ろう。
話は以上だということなので、礼をして帝の部屋を退出する。帝直々に蒼玉を連れて帰る許可をいただいたので、さっそく帰ろうと思う。
行きに焔玉から案内された道を逆に進んでいく。
「それで、なぜついてくるのですか?」
特に声を掛けられることもなかったので、このまま無視していてもよかったのだが、あからさまに尾行している上司に我慢ができずに後ろを向いて尋ねる。
「ねぇ、叔父上様?」
気配を消さずに物陰に隠れて追うなんて、西方将軍ともあろうお方が何してんだよ。
黙って柱を見つめていると、バツの悪そうな顔で西方将軍であり俺の叔父でもある八房惣介が出てきた。
「いや、別に、お前を心配してとかではなくてだな。ただ、蒼玉殿をお迎えに行くのなら儂も一緒に行こうかと思ってな。我が一族にお迎えするのなら、この場にいる一族の中で最も位の高い儂も一緒の方が良いだろう?」
早口で、焦るように言い募る八房西方将軍。
先ほど帝より虫は全て潰せと命を受けたことを聞いたのか。
情に厚いのが叔父上の良いところでもあるのだが、この場合は俺に巻き込まれないために距離を置くのが将軍としての正解だろうに。
「はいはい。そうですね。では一緒に参りましょうか、叔父上様」
いい年をした自分の身を案じてくれる身内がいることに、少し恥ずかしいような妙な気持のまま蒼玉の元へ向かう。
肉親がいない蒼玉に、早くこの叔父を身内として紹介してやりたい。
お前の叔父になるのだと。そう言ったらお前はどんな顔をする?
叔父上と一緒に蒼玉が住んでいる宮に向かう。
西方への帰路で皇女様や中央守護軍が邪魔してくることを考えると、今夜中には都から出たいな。
中央守護軍の俺への襲撃を蒼玉が聞いたら激怒して何かすることは目に見えているので、秘密にするように叔父上にお願いをする。
少し納得がいかない様子の叔父上だが、俺といるときの蒼玉は叔父上の知る彼女とは違うのだと言うと、惚気るなとゲンナリした顔をされた。
惚気ではないのだが……。
「そういえば、辰之助。お前はいつから蒼玉殿と、その、そういう関係になったのだ?儂は全く気付かなかったぞ」
「叔父上はそういうことには疎いですからね。そうですね、西方にいたとき。あの十年前の内乱の時からです」
十年前、この国で大きな内乱が起こった。その時に西方で宝玉を失った蒼玉に出会ったんだよな。
そういえばあの頃はまだ蒼玉ではなく紅玉だったよな、アイツ。
十年前の内乱という言葉で叔父上の顔が曇った。あれは仕方のないことだったでしょうが。
「そろそろ蒼玉の宮に着きます。叔父上、覚悟は良いですね?」
何のことだと不思議がる叔父に断りを入れて、左耳のピアスで蒼玉に合図をする。
出ておいで、蒼玉。
すると、蒼玉の宮の中からバタバタ誰かが走ってくる音がする。扉が勢いよく開いてこちらに向かって黒い塊が突進してきた。
「辰之助さぁんっっ!!会いたかった!もう離さないでね、ずっと一緒よ!!」
そう言いながら俺に抱き着いてうれしそうに頬ずりをしてくる蒼玉をしっかりと抱きしめる。
久しぶりに彼女の体温を感じて自然と頬が緩むのが分かる。
蒼玉の気が済むまで抱きしめてから、叔父上を紹介した。
「西方将軍の八房惣介様ですね。不束ものですが、よろしくお願い致します」
満面の笑みで叔父上に挨拶をする蒼玉に固まっていた叔父上が困惑した目で俺を見る。
だからさっき、俺といるときの蒼玉は叔父上の知る彼女とは違うって言いましたよね。