我が国の頂点の方は恐ろしかった
俺が渋い顔になったのを見て、直属の上司である西方将軍が帝に発言を求め、俺に向かって言った。
「七房、元々お前が蒼玉殿を求めるのが間違っている。それなのに帝は少し待てば蒼玉殿をお前の妻にしてよいと言ってくださっているのだぞ。それでいいではないか」
「少しとは具体的にいつまででしょうか?それが分からぬのなら七房殿も蒼玉も困るでしょう」
「焔玉殿、儂は七房に言っておるのだ。黙ってくれ」
「いや、焔玉殿の言うことも一理あるぞ。お前はいつも考えが足りない」
俺は何も言っていないのに西方将軍と焔玉とがケンカし始めた。そして南方将軍、ウチの上司を煽らないでください。
「帝、一度七房殿と二人きりで話されてはいかがでしょうか?」
俺がどうしようかと悩んでいると、東方将軍が帝にそう進言した。
二人きりって、俺が帝に危害を加えないという保証はないのに何てこと提案しているんだ、この人。
「そうだな。では七房以外の者は部屋の外で待機してくれ」
いや、待機してくれって、ダメだろ。帝を、国の長を、こんな一般人と二人きりにしては。
一人うろたえる俺を残して、本当に全員出て行ってしまった。
もしかして、俺は消されるのかもしれない……。
「心配するな、七房。そなたは私を害する気はないのだろう。だったら大丈夫だ」
何が大丈夫なのか分からなかったが、帝がそう言うので一応頷いておく。
「まずは七房、私の妹がすまなかった。そなた達が素早く対処してくれたおかげでこの件はあまり大事にならずに済んだ」
「いえ、こちらも特に被害はありませんでしたので大丈夫です」
俺がそう言うと帝はほっとした様子だった。
「……あの、帝?」
「いや、聞いていた話とずいぶん違うと思ってな。では確認したいのだが、そなた本当に蒼玉を妻にする気か?」
今更な質問だな。
いや、帝からすれば地方軍人が国の守護者である蒼玉に憧れて妻に望んだと思っていたのかもしれない。なら、せっかくなのできちんと話した方がいいな。
蒼玉と古くからの知り合いであること、お互いが夫婦になることを望んでいること、宝玉から解放してやりたいことなどを俺は言った。
「もちろん、私が次期西方将軍候補だとしても蒼玉とはつり合わないと分かっています。しかし、蒼玉を手に入れるためにどんなことでもすると誓いました。この機会を逃そうとは思いません」
俺が顔を上げると、黙ってこちらを見つめていた帝と目が合った。
「ならば周りを黙らせろ。手段は問わん。蒼玉がそなたの元に嫁いでも誰も文句を言えんようにしろ」
「……承知致しました」
儚げな見かけの帝からは想像ができないような威圧を掛けられ、一言返すだけで精一杯だった。
「宝玉の力がなくとも鬼を殲滅できるだけの戦力は整いつつある。あと数回試せば実戦に投入できるだろう。そうすれば蒼玉を宝玉から解放できる」
俺が固まっているのを見た帝は、優し気な声を出して苦笑いをしている。
「そなたも噛んでいるのであろう、疑似宝玉の作成に。里浦家の嫡男から聞いているぞ。ずいぶん前から蒼玉を解放するために動いておったようだな」
里浦家の嫡男?
……ああ、焔玉の婚約者か。
先ほどの帝からの威圧の影響でまだ体がこわばっている俺には、返事をする余裕がない。
そんな俺にお構いなしに、帝が自ら扉を開けて外に待機していた各将軍達を部屋に招き入れていた。
「大丈夫か?深呼吸をしてゆっくり体から力を抜くといい」
俺の目の前にお茶をだしながら労わる様に言ってくれたのは北方将軍だった。他の将軍たちはニヤニヤしている。部屋のすぐ外にいたので俺が帝から威圧を受けていたのを知っていてこれだ。最低だな。
深呼吸して体の力を抜いていく。北方将軍にお礼を言いつつ差し出されたお茶を飲んで俺が落ち着くと、帝から好きにしろと言われた。
「今は特に蒼玉がする事もない。西方に連れ帰っても構わん。道中、虫が出たら全て潰しておくのだぞ」
虫って、あなたの妹とかですか。