何でついてくるんだ
どうやら思っていた以上に、俺に蒼玉が与えられたという話は早く出回ったらしい。各駐屯地で待機していたはずのこいつらが知っているのがその証拠だ。
「まだ蒼玉様をお迎えに行っていないのは何故ですか?」
メガネをいじりながら隆介が聞いてくる。
「褒美として与えると言われただけだからな。具体的なことは何も。だから一旦駐屯地に戻って、色々準備しておこうかと思って」
多分、今は蒼玉が飛び出すのを焔玉が止めているだろうし。あんまり長くはもたないだろうから、早く色々準備しておかないと。
「ふーん、何を準備することがあるんや?お前、いっつも準備万端やん。次期西方守護領主サマ」
次期領主は俺の兄だ。俺はただの地方軍人だ。
こんなとこで時間を無駄にするわけにはいかない。今夜のうちに蒼玉を連れて西方の勤務地に帰りたいし。色々聞いてくる三人を無視して、駐屯地へ急ぐ。
俺が黙って歩き出すと、なぜかあいつらはついてくる。おもしろそうだからって。なんだそれ。
西方守護軍の駐屯地に着き、執務室に急いで向かう。途中部下に褒美として帝から蒼玉を与えられたことを告げ、急いで帰還の用意をしろと命令する。
ついてきた三人は執務室にあるソファーに座って各々勝手に茶を飲んでいる。
ほんと何しに来てんだよこいつら、邪魔なんだけど。
そう思っても、あいつらには色々助けてもらったことがあるので、強くは言えない。
元々、圭壱が言ったようにすぐに西方に帰ることができるようにしてあったので、準備はすぐにできた。 まぁ、帝に謁見するためだけに西方から来てたわけだし。
蒼玉をどうやってここに連れてこようかと考えていると、突然扉が開き武装した男が部屋の中になだれ込んできた。
「七房辰之助、皇女様の命だ。蒼玉様への洗脳の術の行使により貴様を捕ら、ぐはッ」
先頭にいた男が話を終える前に吹き飛んだ。そして、後ろにいたやつらごと倒れた。
ほかにもいたが、同じように床に倒れこんでいる。
先頭にいた男を殴ったのが、真澄。ほかのやつらを床に沈めたのが圭壱と隆介。
「お前ら、何をしたのか、わかっている、のか……」
真澄に殴られたやつの下敷きになったやつが何か言っていたので、とりあえず殴って気絶させた。
「こいつら中央守護軍だろ。蒼玉様が洗脳とかされるわけねぇだろが。皇女の命とか言ってたが、本当か」
「本当だろうな。多分蒼玉がこっちに来ようとして張り切っているところでも見て、勘違いしたんだろ。あの皇女様はオトモダチの蒼玉が褒美として地方軍人に無理矢理嫁がされるのを阻止したいようだったからな」
とりあえず、部下を呼んで床掃除をしてもらう。そいつら全員まとめてゴミ捨て場に捨ててこい。
「いやー、それにしてもついてきて正解やったわ。すぐに面白いことが起きたな」
ニヤニヤ笑いながら圭壱が言う。
「そうですね、蒼玉様に洗脳の術とは……。相変わらずあの皇女様は思い込みが激しい」
「まあ、分からんでもねーけどよ。俺も最初は辰之助といる蒼玉様を見た時は別人みたいだと思ったし。でも、いきなり兵を向けるってのはなぁ、やりすぎだろ」
うーん。蒼玉は皇女様のことを上司の妹としか思っていないし、関心もないから放っておいてもいいと考えてたんだが、俺たちの邪魔をするんなら潰しておくか。
俺がそう呟くと、部屋にいた全員が賛成した。