面倒なヤツに捕まりました
帝がおわすこの城を囲むようにして、南側に南方守護軍、西側に西方守護軍、東側に東方守護軍、北側に北方守護軍の駐屯地がある。城の敷地内には中央守護軍があるが、これは主に帝一族の警護のための軍だ。
東西南北の方位守護軍は主に国境付近を巡回し、鬼の討伐を行っている。各守護軍は頂に将軍を置き、その下に第一から五までの部隊があり、さらに各班へと分けられている。
俺たち方位守護軍は日夜鬼の動向を見張っており、絶対にこの都へ鬼の侵入を許さないことを第一の目的としている。今の帝のおかげで他国との交流もうまくいっており、戦争の気配もない。直近の争いから10年ほど過ぎている。
だからか中央守護軍にいる若い奴らは、帝の、国の守護者である蒼玉と焔玉の力を軽視している節がある。二人とも美しい容姿をしていることも一因だと思うが、都には鬼が出現しないため、二人が戦っている姿を見たことがないことが大きいと思う。
方位守護軍に所属しているやつらは全員もれなく二人の力を見たことがあるので、絶対に軽視しない。宝玉の契約者は根本的に俺たちと力が違うからだ。あんな戦い方、人間にはできねぇーよ。相手にしたら、すぐに死ぬ自信がある。蒼玉は宝玉の力を使いたがらないので、主に焔玉が畏怖の対象になってるけどな。
普段の姿からは想像できない戦い方なので、二人が戦った姿を見たことがないやつらは、手に入れてみたい宝玉だの、愛でてみたいだの言い寄っているらしい。
しつこいし、思い込みが激しくて話が通じない、と蒼玉が怒っていた。
その筆頭が今俺の目の前に立っている中央守護軍の将軍、三条孝臣だ。謁見の間で、帝が俺に蒼玉を与えると言った時に大きな声で、俺の方がふさわしいとか叫んで周りの大臣からは失笑されていたやつ。
ご丁寧に部下まで引き連れて何の用だよ。俺はこれから蒼玉を迎える準備をしなきゃならないんだよ。あいつはベッドじゃなくて布団派だからな。前々から二人で目を付けていたあのダブルサイズの布団を買いに行かなきゃならないんだよ。
俺が黙っていると、身の程知らずがと暴言を吐かれた。
「たかが鬼風情の群れを討伐した程度で調子に乗って蒼玉を妻に望むとは。蒼玉にまとわりつく虫め」
たかが鬼風情の群れだと?
中央守護軍の将軍とは思えない発言に、殺気がこみ上げる。
「何だ、当たり前だろう。大体方位守護軍は大げさなのだ。何もない田舎にいるから獣風情を倒したくらいで大騒ぎしおって。まったくこれだから品位がないやつは……」
何もない田舎?
南方守護軍の本拠地は港があってすごく栄えてるぞ。北方守護軍のとこなんかすごい観光地だし、東方守護軍のところは学術都市って呼ばれている。俺のいる西方守護軍は技術者の都って呼ばれているし。こいつひょっとしてバカなのか。
そういえば蒼玉が昔、中央守護軍って中央至上主義者が多くて、都以外の場所は何もない田舎だと本気で思っている人がいる、と言ってたな。
改めて目の前の男を見る。見た目は精悍な顔つきで、体付きもまあまあ。女にモテそうだが、顔と権力に群がる雌猫どもめとか思ってそう。
「聞いているのか、お前。蒼玉は優しい女だからな、俺が代わりに言ってやっているのだ。先ほどの身の程知らずな発言を撤回しろ。大体、何を勘違いしたのか知らんが、あれは俺に惚れているんだぞ」
「さっきから黙って聞いてりゃ調子に乗りやがって。挙句の果てには蒼玉様がお前に惚れているだと?殺すぞてめえ」
「たかが鬼風情とはよくもまぁ言ってくれましたね。方位守護軍全員を敵にまわすとは、自殺願望がおありだとは知りませんでしたよ」
「何もない田舎なんて本気で信じてんのんか。ウチのチビどもよりアホやなお前」
俺が怒る前に言うなよ。
後ろから殺気をまき散らしながら歩いてきた奴らがいるなとは思っていたが、まさかこいつらだったとは。捕まらないように気をつけていたのに。
突然現れた三人の殺気に青ざめる三条将軍たち。覚えておけっ、などと捨てゼリフを言いながら逃げて行ってしまった。
「さて、辰之助君。あんな低俗な輩に言い返すこともしないなど、見損ないましたよ」
「おい、蒼玉様を、その、妻にするというのは本当か」
「辰っちゃん、おめでとう。人生の先輩に何でも聞いて~」
上から、北方守護軍第一部隊隊長、堤下隆介。東方守護軍第四部隊隊長、瀬能真澄。南方守護軍第二部隊隊長、藤井圭壱。
5年ほど前、北方に大量の鬼が現れ全軍で殲滅にあたった時からの腐れ縁である三人に捕まってしまった。
早く蒼玉に会いたい……。