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母、太后エミリアの秘密  作者: りんご
疑問 Ⅰ
24/37

王宮での暮らし -4-



「やはり、この時間しか無い」



 私は六騎士から仕入れた警備計画を頭の中でもう一度確認した。

 ユリウスの殺害は昼食後がよい。やはり、その時間が一番よい。

 どう考えても、その時間だけが私の考える良い条件を満たしていた。



 ユリウスは昼食後、必ず1時間ほど独りきりで書斎に籠る。中で何をしているのか誰にも分からないが、とにかく、その時間書斎の外に控えるのは六騎士のみで、それ以外の者は書斎に近づいてはならない決まりになっていた。つまり、その時間帯だけは六騎士とユリウスだけが、まるで王宮から隔離されたようになるのだ。


 いや、それとも夜中の方がよいだろうか? と思うが、頭を横に振った。夜中はかえって王の警備が厳しくなるのだ。六騎士だけではなく、一般の近衛兵も加わり、警備に厚みが加わる。だから夜はダメなのだ。


「やはり、昼食後ね」と言い私は軽く頷いた。

「なに独りごと言ってるの?」とシェリンダが開いた扉の隙間から声をかけてきた。

 私は驚いて後ろを振り向いた。


 うっかりしていた。こんな近くに人がいるなんて。自室に居るからといって、油断してはいけなかった。窓から朝日が射しこまれていた。


「ほらエミリア。だらしない」と言ってシェリンダは無断で私の部屋に入り、半端に広がっていたカーテンを窓の端にしっかりとまとめた。



「ありがとうシェリンダ」と私は笑って誤魔化した。

「いいのよ別に」とシェリンダは例のサバサバした口調で言った。「ただ、こういうのは品格に関わる行為よ。これから気をつけることね」

「そうさせてもらうわ」

「じゃあ行きましょう。サマンサ様は自分より遅く起きる侍女を嫌うわ」

「ごめんなさい。その……、今日はお腹が痛くて……。だから、お休みさせてもらっていいかしら?」


「え?」と言ってシェリンダは固まった。

「本当にごめんなさい」と私は謝った。基本的に王妃は侍女の休みにまで関与しない。それは侍女の教育係であるシェリンダが決めることだった。シェリンダは困り顔で言った。

「もっと早く言ってくれると助かったんだけど……」

「ごめんなさい。でもお腹が痛くなるなんて痛くなってからじゃないと分からないことだし、その……。ごめんなさいね」



 シェリンダは私の顔を注意深そうに見て言った。


「本当なの? そんなに調子が悪いようには見えないけど」

「本当よ。私、なんていうか、その……結構顔に出ない方なの」

「顔に出ない? あなたが? ふふふ。私の抱いてるあなたに対する印象と真逆の答えね」と言い、シェリンダは笑った。「まぁいいわ。今度、あなたの持ってるブローチの中でも綺麗な物を頂戴。それで勘弁してあげるわ」


「ありがとうシェリンダ」と私が言うと、黒髪のシェリンダは手をふり、そのまま私の部屋から出ていった。不思議な女、と思った。そして普通の女、とも思った。普通の人間と喋ると心が鈍る。彼女と喋っていると、自分が数々の人々を殺してきた人間であることを忘れそうになってしまう。



 そして、一瞬だけ思ってしまった。

 こんな道以外の道も自分にはあったのではないか、と。

 私は(もや)を振り払うように頭を左右に振った。



 何を……。

 何を考えているのだ私は。

 仇がすぐそこにいるのに。

 もうすぐお父様やお母様やお兄様やユスフの仇を討てるのに。

 ああいう何も背負っていない者に心を許してはダメ。

 彼女と私は何もかもが違うの。

 そう。何もかもが。



 私は、ポケットに手を突っ込み、土人形を取り出すと息を吹きかけた。すると、私そっくりの土人形は体をくねらせ大きくなってゆく。同じ背丈になった土人形のエミリアが目の前に立つと、私は吐き捨てるように命令した。



「ベッドで深く眠って。誰が来ても反応せず、深く眠るのよ」



 土人形は頷くと、私の代わりにベッドに入り、寝息をたてた。そして私は呪文を唱えた。



「セレルナル=アルド=ラオ=デラン=パルメ」



 いつもと同じように、床の一部が真ん中から割れ、ドアが現れた。私は自分の右手を赤く光らせ、ドアを開け、中に入ってゆく。暗く長い階段を降り、最深部の部屋に辿りつくと、ゾーイが笑顔で出迎えた。



「今日に決めたのね」



 そんなしわがれた声が私の耳に届いた。

「ええ」と私は短く答えた。



 今日。そう今日なのだ。

 あの燃え盛る城で私は誓った。

 あの親子を必ず殺す、と。

 それが今日なのだ。

 まずはこの世でもっとも生かしてはおけない男、ミッドランド王ユリウスを殺す。

 王太子ハロルはその次だ。ヤツはこの王宮に戻って来てからゆっくり殺せばいい。

 報いを受けさせてやる。

 今までの報いを受けさせるのだ。

 絶対に。必ず。


 私は赤く光る右手を握りしめた。


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