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母、太后エミリアの秘密  作者: りんご
偽りのはじまり
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誕生 -2-



 ――七番目……とは何だ? 契約できない、とは。



 のどを抑えて四つん這いの形になったゾーイに声をかけようとすると、ゾーイは四つん這いのまま降参するように手をひらき、片手をあげ「分かってるわ」と言った。


 分かっているならいい。


 私は、大きく息をつくと、腕を組んだ格好でゾーイの回復を待った。私は荒い鼻息を押しこめるように、少し意識してゆっくり息をした。すると、不意に辺りが陰る。空を見ると、握りこぶしの形をした大きな雲が真上にのぼった太陽をすっぽりと覆っていた。次に視線をゾーイに戻すと、ゾーイはすでに立ち上がり普通に息をしていた。そして、口をひらいた。



「7番目の生まれ変わりの話をすればいいのねアナスタシア」

「それと、お父様やお母様と契約が無理だ、という話も」と私が付け加えた。


 ゾーイは頷いた。


「どこから話そうかしら」とゾーイが言って、デイン城を指さした。中に入ろう、という意味らしい。私は、背中を丸めて歩くゾーイと並んで歩き始める。


「少しあなたには分かりづらい話でしょうから前置きから喋ろうかしら」とゾーイは歩きながら言った。


「異界の神々は、ある日、この世の理を司る7人の魔女をお作りになられたの。記録がないぐらい遥か遠い昔にね。どうしてそんなことをしたのか、どんな目的でそんなことをなされたのかは未だに分からないのだけど、とにかく、7人の魔女をお作りになられた」


「7人?」


「そう7人。6人でも8人でもなくね。私達はこの7人を《根源の魔女》と呼んでいるの。そして、この力が受け継がれてゆくものなの。ん? あれ? 力が? 力は?」


 ゾーイは私の顔を見ながら眉をひそめた。

 接続詞がよく分からないらしい。


「大丈夫。なんとなく意味は分かるから」と私は力なく答えた。


「賢いのねアナスタシア。賢いことは良いことよ。え~と、どこまで話したかしら? まぁいいわ。とにかく、その7人の魔女達にはこの世の理を保つ力がそれぞれ与えられた。時・記憶・原始・水・命・暗黒・光。そして、それらの魔法を頂点まで極めることのできる肉体と、生まれ変わる力も与えられた」


 私は黙って話を聞いていた。ゾーイは続ける。


「生まれ変わる力とは、肉体が滅んでも精神は生き永らえる力。根源の魔女は例え肉体が滅んだとしても新たな宿主に寄生し、精神は永遠に生き続けるの。もちろん前世の記憶は消えるけど。だから、なんといえばいいのかしら。この7人の魔女は不滅の存在なの。もう分かったと思うけど、あなたの中にはこの根源の魔女のうちの1人《鉄鎖のエマ》の精神が生き続けているの。だから私はずっとあなたを探し続けていた。異界の神々と契約を結ぶことができるのは、エマの生まれ変わりのあなただけだから」


 私はその話に何の反応をすることもできなかった。

 生まれ変わり? 根源の魔女? 訳が分からないことの方が多かった。だがゾーイは続けた。



「そして、あなたは、あの城で異界の神々と契約し、ようやく魔法を頂点まで極めることのできる魔女の肉体を取り戻したの」



 ドクンと心臓が一度激しく鳴った。

 やはり、そうだったのか、と思った。

 やはり私は魔女になっていたのか。

 予想はしていた。予感もあった。そして不思議なことに実感もあった。心のどこか深いところで私はとっくの間に納得していた気がした。だが、その話はあとにしようと思った。言いたい事や吐きだしたいことがあるが、とにかく、家族の話の方が先だ。


 すると、ゾーイが城の敷地を指さした。崩れた城壁の一部の石がちょうど城内の敷地に転がっていた。たぶん、そこに座ろう、とゾーイは言いたいのかもしれない。私は再び大きく息をつくと、軽く頷き、その長方形の形をした石の上に浅く腰かけた。


「つまりこういうこと?」と私はゾーイの赤い目を見据えながら尋ねた。「根源の魔女とやらの生まれ変わりじゃないと、そもそも異界の神々とやらと契約することができない、と言いたいの?」

「ええ、そのとおりよ」

「だから、私の家族とは契約をできず、助けられなかった、と」

「ええ、そういうこと」とゾーイは言った。


 このゾーイの素っ気ない受け答えに眉がピクリと動き、眉間にしわが寄った。

 だからと言ってそんな簡単に諦めてもいいの、と言いたかった。もしも、そうじゃなかったとしても、何とかお父様やお母様を逃がしてほしかった。というのが本音だった。でも一方でお父様がゾーイを殺そうとしていたことも私は知っていた。


 ――もしもゾーイが助けるとしても、お父様はゾーイの言う事を聞いてくれたかしら。


 分からなかった。


 ――いや、でも。


 私の頭は考えれば考えるほど、堂々巡りをしてしまい、終わりがなかった。ゾーイはそんな私の思考を顔の表情から読みとっていたのか、全く話しかけてこなかった。やがて、日が傾き始め、その終わりの無い問いに虚しさを感じた私の目尻に涙が溢れた。

 もういないのだ、と思った。お父様もお母様もお兄様もユスフも、誰もいないのだ。

 私は数時間ぶりに口を開いた。


「根源の魔女は、私達の他にあと5人いるの?」

「え?」とゾーイは言った。


 何かおかしなことを私は言っただろうか?


「ああ、ビックリしちゃった。いいえ、根源の魔女は私達の他に6人よ。あなたは根源の魔女だけど私は違う」


 え? と思った。当然ゾーイはそうだと勝手に思い込んでいたからだ。

「そういう意味での自己紹介はまだだったわね」とゾーイは言った。



「私は“はこぶ者”。あなたを見つけ。あなたを育て。あなたと一緒に寄りそう存在。私の生はそのためにあるの」



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