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母、太后エミリアの秘密  作者: りんご
偽りのはじまり
16/37

誕生 -1-



 1年前に時は遡る。

 尻から杭を打ち込まれたお父様を見て、そこで談笑する貴族達の姿を見て、石達の記憶は終わり、城は元の黒い石へと姿を変えた。


 デイン城の黒くくすんだ城壁のすぐ傍の緑色の大地に私とゾーイは並んで立っていた。

 隣に佇んていたゾーイがまず口を開いた事を覚えている。

 うっとうしくて、思わず蹴り飛ばしたくなるような、あの調子で。



「見て、そして感じてくれて良かったわ。アナスタシアは賢い子。見て感じる方を選ぶのだから。私が保証するわ。あなたは本当に賢い子。時々ね、本当に時々なのだけど、見たくも感じたくもない変わった人がいるのよ。だってね、おかしいでしょう? せっかく見たり感じたりできるのにわざわざ説明しろっていうのよ。又聞きの方を好むの。だからね、私は丁寧に教えたわ。絶対に又聞きなんかより、臨場感も何もかもたっぷりな映像や音の方がいいってね。とってもリアルだし、肌でビリビリ感じるし、絶対に味わうべきよって。なのに、その人はそれが嫌だっていうのよ。強烈すぎるとか、訳わかんない事言って。私ビックリしちゃって。価値観の違いってあるのね。そうそう、たとえばこんなことに近いのかしら。ヒキガエルが蠅を捕えるとき、長い舌を伸ばすじゃない。ビヨォーンってね。でもあの舌が長いからってなにも蠅を――」とゾーイが言いかけたところで、私はゾーイの骨と皮だけの首を左手で思い切り掴んだ。


 血走った目。

 私は、そんな目でゾーイを睨んで、動物の唸り声のような低い声で一言言った。



「黙りなさいゾーイ」



 体中の筋肉がこわばり、全身の毛という毛が逆立ち、その毛穴から自分では止められないほどの憎しみが漏れ出ていた。

 憎かった。胸が黒い炎で焼け焦げるほど憎かった。

 そして、その憎しみの一つがゾーイに向かった。


「ねぇゾーイ」と私はまた低い声で言った。「どうして私だけだったの」


 足下のまっすぐと伸びた草が、不意に背後から吹きつけた風に揺れた。

 顔を赤紫に染めたゾーイは、目を左右にせわしなく運びながら「どうして、って? 何が?」と言った。私の言葉の意味が分からなかったらしい。

 だから私は叫んだ。


「どうして、私の家族を、私みたいに助けてくれなかったのよ! あなたならできたでしょ!? ねぇ! 違う!?」

 そこまで言うと、私はゾーイの首を放した。



 ゾーイは喉をおさえ、せき込んだ。そして、ようやく息ができるようになると


「ねぇ、こういう行いをどう考えればいいのかしら」と、しわがれた声で言った。

「ひょっとしてミッドランド人は親愛の情を示す時に、こうやって相手の首を絞めたりするものなのかしら。私が知らないだけで、そういう文化があるのかしら。

 もしもそうだとしたらよ。私からとっておきの忠告をしてあげるわ。

 これはとっても野蛮な文化だから、少なくとも同じ風習を持つ者同士だけでこの行いをすることを強くお勧めするわ。ちなみに私は違う文化で育ったの。だからもうミッドランド式の愛情表現をしなくてもいいのよ。普通に握手したりすればいいの。あ、ひょっとしてミッドランドでは相手の手を握り潰すまで握手するって文化はないでしょうね? だってさっきのミッドランド式をやられると、とても不安になるじゃな――」とゾーイが言いかけたところで私はまたゾーイの細い首を掴んだ。


 このよく喋る口が憎らしかった。



 私が指に力を入れながら「ねぇあなたならできたでしょう!? 私の家族を助け出すことぐらい」と叫ぶと、ゾーイは苦しそうな声で「む、無理よ……」と言った。


 私はまたゾーイの首を放した。


 無理、とは何が無理なのだ、と思った。現に私はこうして助かった。なんでこんなことになっているか全然分からないけど、とにかく助かった。

 するとゾーイがせき込みながら言った。



「わ、私は……。な、7番目の生まれ変わりを、さ、探していただけ。だから、生まれ変わり以外は無理なの。契約できないの」



 私には、その言葉が何を意味しているのかさっぱり分からなかった。


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