ヘルガの決意
陛下。陛下に突然お手紙を差し上げる無礼をお許しください。
今、私の手は震えております。そして、震えているのには理由があるのです。それを伝える為に今回は手紙という手段を選ばざるえませんでした。
まず、どうか、その無礼をお許しください。
私は今まで数多くの助言を陛下にいたしてまいりました。サマンサ様のことに関してもそうです。陛下は私の言葉に耳をすませ、言葉のひとつひとつに頷いてくれました。
その温かく、紳士な姿勢に私は今まで心から感銘を受けてまいりました。だから私もなんとか陛下のお役に立たねば、と思い、全力を傾けてきたのです。そこに対しなんら嘘偽りはありません。
しかし……、私はそんな陛下の信頼を裏切ってしまいました。お手紙を差し上げたのはそのためでございます。
「あの事件のことは気にするなヘルガ」と陛下は私におっしゃいました。いえ、違うのです。全ては私のせいなのです。
あの事件に関して、私は陛下に隠してきたことがあるのです。
3年間ずっと……、私は陛下に真実を隠し続けて来ました。
怖かった。陛下の怒る顔が怖かったし、なにより、陛下が永遠に私から離れてゆくのが怖かったのです。陛下は私の光りでしたから。
でも、もう真実の話をしなければなりません。そうすることでしか、私は陛下にむくいることができないからでございます。
あれは、そう、ちょうど3年ほど前の冬でした。
肌寒い風が王都に吹き付け、立ち並ぶ街路樹の葉も色を失った頃、ある者が私の下にやってまいりました。彼女は強い使命を背負っていました。もう10年もこの広い大地をさまよっていた、と彼女は言っていました。
体はやせ細り、鼻は折れ曲がり、可哀想だった。だから、つい親身になってしまったのかもしれません。だから、つい私は、世界の未来を捻じ曲げる話をしてしまったのかもしれません。
そのせいで、陛下は愛しの子を失い、多くの命が失われた。
つい先日の助言を覚えておいででしょうか陛下。
陛下のもう一人のお子。あの子にも、逃げられない運命が待ち受けております。陛下は私の言葉を聞き、涙をながされましたね。ミッドランドはどうなるのだ、と陛下はおっしゃっていました。
そうです、このままでは偉大なるミッドランドの血脈は断たれてしまうのです。
だから、私は覚悟を決めました。
時空の歪みを恐れず、大きな力を使う時がきたのです。ひょっとしたらそのせいで大きな歪みにとらわれてしまう人々もいるかもしれない。もちろん、私はその過程で命を失うでしょう。私はかつて様々な弟子たちに次の言葉を口酸っぱく説きましたから。
大きすぎる力は大きな歪みを生み出す。その力を使ってはならない。絶対に使ってはならない、と。でも、その力を使う時がきたのです。自分の命を燃やさねばならない時がきたのです。
偉大なる王家の血を残す為に。