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彼が神子と呼ばれるまで  作者: 杏子
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全てが終わったとき、ユリウスの肩で大きく息をして額には汗が浮かんでいた。対照的に青年は、始まる前となんら変わらず悠然と佇んでいる。


王宮魔導師との、歴然とした魔力の差に毎度ながら驚いてしまう。

しかし今回、ユリウスは青年の魔法より規模も精密さも劣ってはいたが、全ての魔法を展開することができた。次第点ではないだろうか。


ちらりと周囲を見渡して反応を確かめるも、青年をはじめとして高座の4人の表情も雰囲気も変化はない。不安と焦燥が募る。



「少し休憩なさりますか?」


青年に問われ、首を振る。


「ハァハァ…だっ、大丈夫です。続けてください」


汗をぬぐいながら、答える。

疲労を訴える身体を休めるよりは、ユリウスは一刻も早くこの拝謁を終わらせたかった。

その思いを知ってか知らずか、ゼーハー言っているユリウスを前に青年はそれ以上何も言わなかった。



「…次で最後になります。次は識別晶を用いた適応検査を行います」



青年がそう言い終わると、従者が大事そうに水晶を運んでくる。



「こちらの水晶に魔力を込めると、その者に合った属性が映し出されます。火属性なら炎が、水属性なら水が、そのどちらもではあれば炎と水、といった具合です」



青年の説明と同時進行して、ユリウスの前に識別晶がセッティングされる。



「両手で水晶を包むように触れてください」



青年に言われた通りに水晶に触れる。



「ユリウス様のタイミングで、魔力を込めてください」



身体から湧き上がる熱を両手から水晶に送る。



しばらくすると、ぐにゃりと水晶に何かが写った。目を凝らすように細める。


青と黒と、そして…


これはっ!


カタカタと水晶が震えだした。

目を背けたくても、水晶から手を離したくても、ユリウスの思いとは裏腹に映像に引き込まれていく。




狂った笑い声がこだまする。




ユリウスは立っている。


年老いた[彼]の隣に。



[彼]は小さい青を抱いていた。



そして、狂気が年老いた[彼]を襲う。ドスッドスッドスッ。突き立てられては、引き抜かれ、そしてまた突き立てられる。


[彼]は赤黒く染まっていく。


それは今朝ユリウスがみた光景。今度はそれを[彼]の隣で何も出来ずに、ただ眺めていた。


[彼]が力なく崩れると、[彼]に隠れていた青い少女が現れた。



「どうして」



少女らしからぬ凛とした声が響く。



「どうして助けたの?」



[彼]は応えない。



「あなたの死は評価されない」



少女は瞬きをひとつして、今度は、真っ直ぐにユリウスを見据える。



「              」



少女の言葉を狂った笑い声が掻き消す。ユリウスが聞き返すより先に、世界がぐにゃりと歪み、弾けた。




ユリウスの瞳に魔法訓練場の天井が写る。

青年が慌てたように駆け寄ってくるのが見えた。何かを言っているようだが、ユリウスには聞こえない。


まるで耳に栓をされているようで、全てを遠く感じる。


重い瞼に視界が塞がれて、意識を留めておく術がなかった。




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