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彼が神子と呼ばれるまで  作者: 杏子
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「こちらにお掛けになって、お待ちください」


白と金を基調とした一室に通される。座るよう促された椅子でさえ高級感に溢れており、ユリウスは躊躇ってしまう。


「どうぞ」


有無を言わさない青年に、恐る恐る椅子へ腰掛ける。

それを見届けて、青年が退室し代わりに侍女が紅茶を運んできた。


「カモミールティーにございます」


隙のない動きでユリウスの前に紅茶を並べ、一礼して退室する。


急に静まった部屋に居心地の悪さを感じて、用意された紅茶に手を伸ばす。


「……美味しい」


フローラルの香りが広がり、優しい甘さにホッとした。


今日は何をするのだろうか、ちゃんと出来るだろうか、ユリウスの胸に緊張と不安が渦巻く。


そもそも自分なのかという考えが浮かんで、咄嗟に頭を振る。

この王都に来てから、初めて王宮を訪れてから、浮かんでは振り払い、しかし、振り払いきれずにユリウスに付き纏う疑惑。


考えてみてほしい。



『世界を救う蒼い瞳の()()


ユリウスに当てはまっているの蒼い瞳だけ。乙女ではないし、乙女の心も持ち合わせていない。

そして、初めて国王に拝謁したとき魔法試験が行われた。それが決定的だった。

魔法とはイメージだと簡潔すぎる説明の後、初級魔法の詠唱を教わった。それまで魔法とは縁のない生活を送っていたユリウスにとって、初めての魔法に胸が高鳴った。

逸る気持ちのまま詠唱する。


ユリウスの魔法に誰もが息を呑み、眼を見張り、感嘆の声をあげた。


なんて事はなく。


ユリウスには出来なかったのだ。何度、詠唱しても魔法のまの字も発動しなかった。


落胆の色がその場を包み、その空気は容赦なくユリウスを襲った。

やっぱり、自分が神子姫であるはずがないんだ。

その日は家に帰って、ただひたすらに泣いた。


それから何度か王宮に呼ばれ、先程の青年に魔法について教わった。練習を重ねて、やっと魔法を発動できるようになり、本日、再び拝謁することとなったのだ。


村を離れるとき、自分は大丈夫だと父と母に笑った。あれはユリウスにとって誓いだった。だから、自分ではないと思いながらもユリウスは今日まで努力を惜しまなかった。


もしかしたら、今日で神子姫ではないと判断されるかもしれない。しかし、国王がそう決めるまでは頑張るしかなかった。


「よしっ!」


自分を奮い立たせるように残りの紅茶を一気に飲み干す。カチャリとカップを置いたとき、後ろで扉を叩く音がした。


「お待たせいたしました。準備が整いましたので、ご案内致します」


青年に案内されてきた場所は、魔法訓練場だった。ユリウスの家一軒分より広いそこは、普段は王宮魔導師の訓練場であった。初めて国王に拝謁したときも、ここだった。

広い訓練場にユリウスと青年が並ぶ。


「ユリウス・クラウディアにございます。ゴソンガンをはいし、きょっ、キョウエツシゴクに存じます」


魔法とともに何度も練習した国王への挨拶だったが、緊張のせいでぎこちなくなってしまう。


「そんなに堅くならずともよい。楽にせよ」


頭上より言葉を投げかけられて、伏せていた頭を持ち上げる。高座に4人の人影が見えた。と言っても、ユリウスから見えたのが4人だけで奥にもっといるのかもしれない。


高座の中央に位置し、唯一座っているのが、このアラン大国の現国王であるノストールダム・アラン・エドワード王。歴代最高の名君と謳われている人格者。プラチナブロンドの立派な髭が印象的である。


国王の右奥にいるのが、ガーランド・ストフィナール宰相。国王の右腕であり、アラン大国の最大貴族であるストフィナール公爵家の現当主である。


その宰相の隣にいるのが、アイロス・バルドーナ総騎士長。貴族出身ではあるが、剣技において彼の右にでる者はいないと言われている実力者。


国王の左奥にいるのが、レイモンド・ナナ大魔導師。付加魔法の第一人者である。


付加魔法とは、あらゆる物に魔法を付加することを言い、付加する魔法によりその物自体を強化したり、その物に魔法を纏わせることができる。その方法を確立したのが、このレイモンド・ナナ大魔導師である。それにより文明が急激に発達し、生活の質が向上したと言われる。そのため、この大国において彼の名を知らぬ者はいない。


そんな偉大なる4人を前に萎縮しない方が難しい。緊張しているユリウスを他所に、大魔導師からの目配せに青年がうなづく。


「では、これより魔法適応試験を始めます。私がお手本をお見せ致します。ユリウス様は、その後に続いてください」


魔法には種類がある。


「は、はいっ!」


そして、魔法にはそれを扱う人間との相性が存在する。炎の扱いに長けている者、水の扱いに長けている者、様々である。

ユリウスと相性の良い魔法を見極めようということらしい。


「火属性から始めさせて頂きます。…フレイム」


青年が手を前に出して、火属性の初級魔法を詠唱すると、青年の手から炎が生まれた。ちょうど青年の顔程の大きさの紅い炎がユラユラと燃え上がる。


それを見て、ユリウスも両手を前に出す。右手を支えるように左手を添える。


「………フレイム」


青年に倣い、詠唱する。

すると、身体の奥から熱が湧き出す感覚がする。熱が身体中を走りまわり、右手に集まっていく。


燃えろ!


ユリウスの思いに応えるように右手に炎が生まれた。青年の炎の半分の大きさで揺らめく。


それを見て、ユリウスはホッと息を吐いた。気が緩んだ一瞬のうちに炎が不安定に揺れ、ふっと消えてしまう。


「あっ、すいません」


思わず謝罪する。


「謝罪には及びません」


そう言う青年の手からもパッと炎が消える。


「次は水属性です…アクア」


水属性の初級魔法が唱えられる。いとも簡単に青年の手の上で水が渦巻いている。


「アクアッ」


今度こそ、そう思い詠唱する。

再び右手に熱が凝集し、透明な水が渦巻きはじめる。気が緩まないように全神経を右手に集中させる。



「っ!」


しばらく魔法を維持していると、集中力を容赦なく遮断される感覚に魔法を維持していられなくなる。

バシャッと音を立てて床に水飛沫が舞う。


「あっ、す、すいません…」


濡らしてしまった床を見て肩を落とす。そんなユリウスの右手から水が滴り落ちていた。


「以前にも申し上げましたが、魔法訓練場は特殊な付加魔法に覆われております。初級魔法では、汚れひとつ、つけることはできません」


青年の言葉に再び床に視線を落とすと、すでに床は何事も無かったかのように乾いてしまっていた。


「どうぞ、お使い下さい」


青年よりハンカチを差し出され、ありがとうございますとユリウスは受け取る。ユリウスが右手を拭いたことを確認して青年が口を開いた。


「次に移ります」



その後、風属性、土属性、雷属性、光属性、闇属性と続いた。



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