その12 大丈夫。神様は見てくれてるから。by優華
日向は今日も呑気な寝息をたてて眠るはずだった。
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「こんなもんで金がもらえるなんてな」
深い山の中、男達が少女のまわりをかこんでいる。
少女は何も喋らずに、深く掘られた穴の中に横たわっている。
「さっさと埋めちまおうぜ。暗くなる前に」
「そーだな…へへっ、悪いなお嬢ちゃん。これも生活のため…なんでね」
「…!」
日向は飛び起きた。
「…こんな…夢…」
あの少女は日向。
日向は言われるがままに薬物を投与され続けられていたのだ。おかげで身体能力、頭脳、それらが格段に上がった。
しかし、肉体は確実に限界に近づいていて、ある日、動くこともままらなくなり、言葉も話せなくなってしまった。
ミカエルに引き取られなければ、あの時に日向は死んでいた。
今は、もうすでに喋ることも動くこともできるようになった。
「…っ…」
だがあの日の傷は、一生癒えない傷となってしまったのである。
「け〜いたっ」
「む?か…姉さん。どうした?」
相手がミカエルの名で呼べばミカエルの名で。
仕事中の名前で呼べば仕事中の名前で呼びあうことになっている。
「あれ、まだ本読んでるの?」
「俺は眠ることが必要ない体だからな」
カルマも、かつて薬物投与がなされていた。
しかし、体に支障が出る程度ではなく、睡眠時間や、食事量を大幅に減らすことができた上に、身体能力も高くなった。
「…そっか」
「ああ」
啓太はコーヒーを口に含んだ。
「…ねぇ啓太。一緒に寝ましょ」
「ぶっ!!」
そして吹いた。
「ば、馬鹿っ…お前、できるかそんなこと…」
「どうして?」
「だ、男女が同じ布団にはいるのは好ましくない。大体、間違いがおきたら…」
「じゃあこれは試練。間違いを起こさないようにしなさい」
「あ、あのなぁ…」
啓太は呆れて顔を伏せ、頭を掻いた。
そして、どうやってこの状況を収めるか考えた。
「…お願い…」
声の感じが変わったことを不思議に思い顔を上げると、日向が真面目な、そして悲しげな顔をしていた。
啓太は一つの結論にいきついた。
「…そうならそうと言えばいい」
「…ごめん」
「…家族だろ?」
「…うん」
啓太は日向を抱き締め、頭を撫でてやった。
啓太も知っている。日向がどうしてミカエルに入ることになったのかを。
「あ、あの。兄さ…」
「誤解だ優華」
啓太は反応が早かった。
「優華ちゃんも一緒に寝ましょ?」
「ふぇ!?」
そして、今回は恐ろしいオーラを出す暇が無かった。
「待て、布団が…」
ベッドに三人入れるのかどうか…。
「いや、以外といけるわよ、ほら」
「な、何をする…」
「ほら、優華ちゃんも」
「え…え、え…えー…」
つまり、態勢はこうだ。
↓日向
枕↓啓太
↑優華
横に眠る啓太に二人がしがみつく態勢。サンドウィッチである。
「さぁ〜啓太、間違いおこさないようにね〜」
「ま、間違いぃ!?」
優華は思わず声が裏返ってしまった。
「ちなみに、ちょっかい出したりするからね」
「や、やめ…こらっ、くすぐるな…」
優華と啓太は顔が真っ赤になっている。
そして日向も少し…。
日向はいつも心の支えになってくれる啓太を頼もしく思えたりするのである。
日向は思った。
あの時があるからこの今がある。
感謝すべきか憎むべきか…ただ今は、この出会いに感謝したい…と。
この後、啓太は眠れずに、優華は朝起きたら逆上せていた。