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理奈とアメ  作者: とほせちはち
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不思議なあめ玉?

 夢の世界アンダラウェルト、通称アンダで我はアルカンジュ様のお言葉を聞いていた。

 「そなたをスペランツァに命ずる。あとはそなたの自由じゃ。主が望めばフェリチタにもそなたならなれよう。その時は一度わしのもとへ帰ってきてくれ。一つの体を授けてやろう。ただし、主には逆らうな。その時そなたは泡となり消えてしまうであろう。気を付けよ。」

 アルカンジュ様の横に小さな穴が開いた。

 「ここから覗き、主を決めよ。」

 我はその穴を覗いた。しばらく見て一人の赤ん坊に目をつけた。

 「あの者にします。」

 アルカンジュ様は強くうなずかれた。

 「よかろう。」

 そう言ってアルカンジュ様は我になにやら術を施した。

 「良いスペランツァにの。いつかまた会えることを楽しみにしておるぞ。」

 次に気づいたときには赤ん坊の少女がいた。

 我はこの者のスペランツァになったのだ。


 改めまして自己紹介。

 我はアンダの生物スーティアン。名前はまだない。いわば、アンダからの『名のない使者』である。名は主に決めてもらう。それがスーティアンの習わしだ。

 この子はどんな名をくれるだろう。

 すやすや眠る少女を見つめながら我は未来を想像した。



 とうとう私の番が来た。

 私は少し先にある高跳びのバーを見た。高さは80センチ。

 (高いーーーいや高くない。みんな跳んでる。大丈夫。でも…高い!)

 「栗原さん?早く跳んでください。」

 あまりにも長い間跳ばないので、後ろには長蛇の列ができている。先生が早く早く、と目で急かしてくる。

 (えーい、もうやけくそだ。)

 私はバーに向かってスタートダッシュをきった。っていってもたかが3メートル。

 バーが迫ってきている。いや実際は私が迫ってるんだけど。

 足が地面から離れるて、マットにバーが落ちてーーー。

 私にみんなが駆け寄ってくる。

 (え?)

 私の前に星がとんだーーー。


 何かの音が聴こえる。

 水滴?

 耳だけじゃ分からない。

 そう思って私は目を開ける。

 目の前にはお母さんーーー、じゃなくて親友の夕夏のママがいた。心配そうに「大丈夫?」と聞いてくるのはなぜ私の親じゃないんだろう。でももうそんなことはどうでもいい。

 「はい、大丈夫です。」

 そう言って起き上がってみると、そこは病院だった。隣のベッドの点滴の音だけが部屋に響いている。

 (はっ?) 

 今の状況にちんぷんかんぷんの私に夕夏のママが高跳びの時のことを話してくれた。 

 どうやら私はバーを飛び損ねたらしい。それは悲しいことにいつも通りのことだけど、そのあと運悪く頭を岩にぶつけて気を失ったそうで。

 「まぁ私もその場に居合わせたわけじゃないし、詳しいことは夕夏に聞けばいいわ。まさか岩に当たるなんて、何があったのかしら?」

 ほんとだよ。

 何がどうなって岩なんかにー。

 「でも理奈ちゃんどうしたの?こんな失敗するなんて。考え事でもしてたのかしら。」

 ふふっ、と笑ったおばさんだったけど、跳べないのはいつも通りだった。

 こんなことになるなんて思ってもみなかったけど。

 「そうそう」

 そう言っておばさんは封筒をひとつ手渡してきた。

 (げっ、これもしかしてー。)

 「これ、学校のプリント。夕夏が預かってきたんだけど、テストだそうよ。」

 あー、やっぱり。最悪。

 「夕夏は成績が悪くてねー、もう困るわー。50点なんていう点数、どうやったらとれるのかしらね、ほんと。」

 はぁ、私、ふつうは30点だよ?50点なんて夢みたい。

 おばさんに話を振られて、いつもの癖でなにも言わずに微笑しながら首をかしげた。 

 理奈は5人家族だった。

 大きな総合病院をもつ両親とすごすぎる姉と妹。

 お姉ちゃんは中学3年生にして卓球日本代表だった。小学3年生の妹も、マラソンの小学生記録を塗り替えて。今や、いろんな大会に出て、いっぱい賞をとって、陸上界の神童と言われている。

 何も取り柄のない理奈はだんだんと家族の中で孤立していった。親からも姉妹からも無視され続けてもう3年。理奈だけは自分のご飯は自分で作り、洗濯も何かも自分でしなければならなかった。

 でも絶対に周りの人には相談しなかった。相談すれば本当になにもできないことを自白しているようなものだから。

 孤独に一人耐えて3年間やってきた。

 これからも頑張るつもりだ。

 そんな理奈は不思議な力を持っていた。

 幼い頃から夢の中に一人の女の子の友達を持っているのだ。毎日夢に来てくれる、本当に夢の中だけの友達。

 桃ちゃんというその子は、私の悩みを誰よりも(現実に理解する人なんていないけど)理解してくれる大親友だ。

 誰にも言ったことはない。私一人の秘密だった。

 けれど最近は夢の中の友達なんて役に立たない、と思い始めていた。現実に桃ちゃんがいればーーー、そう思うのだった。

 そんなある日のことだった。

 私は桃ちゃんに普段の悩みの辛さに八つ当たりしてしまったのだ。さらさらと出てきたその言葉はもう止められなかった。

 その日から桃ちゃんは会いに来てくれなくなった。怒らせてしまったのだろう。

 私は、大きな後悔にさいなまれた。

 ずっとそばにいた桃ちゃん。

 その存在の大切さを思い知ったのはその存在がなくなってからだった。

 不安や悩みを打ち明けられて、それを理解してくれる人が一人でもいることがどれだけ素晴らしいことかがよくわかった。

 毎日毎日、再び桃ちゃんと会えることを祈る理奈は、何度も何度も桃ちゃんに謝り続けた。

 それから数日経って、理奈は学校へ向かって一人歩いていた。

 いつも私は1人。

 夕夏も陸上の朝練があって、一緒に登校できるのなんて、月に1、2回だ。

 「はぁー…。」

 溜まりにたまった辛さを、せめてでも…と、大きなため息をはいた。

 そんな理奈の頭上に穴が開いた。理奈が通りすぎたあとの空気に、だ。どこからともなく空いたその穴は、どこかの世界と繋がっているように黒く、深く、渦巻いていた。

 「理奈、これからは楽しくなるよ。」

 穴の真下にいたその少女はそう呟いた。

 学校に着いて、チャイムが鳴って。席についた理奈は先生と入ってきた転校生を食い入るように見ていた。

 「佐倉桃です。これからよろしくお願いします。」

 その転校生は、夢の世界の親友、桃ちゃんその人だったのだ。桃ちゃんは夢の世界の住民のはず。それなのにどうしてここに…。

 「理奈ー!」

 桃ちゃんは最初の休み時間、私のそばへやって来た

 「久しぶり、理奈。」

 と言った桃ちゃんを私は唖然として見た。ニコニコしていて、微塵も怒っていないようだった。ほっとしながらも、理奈は恐る恐る聞いた。

 「い、今までどこにいたの…?」

 桃はそれには答えなかった。

 「怒ってなんかないよ?」

 と、理奈の心を見透かしたようにまたニコニコ笑って言っただけだった。

 この数日、桃はアルカンジュ様のもとへ行っていたのだった。

 アルカンジュ様は一言、

 「佐倉桃、か。良い名をもらったな」

 と言ってくださった。

 桃は無事、フェリチタになり、体をもらった。そして理奈の学校へ編入したのだ。理奈には秘密なんだけど。

 「理奈。」

 桃は理奈を校舎裏まで引っ張ってきてはじめて口を開いた。

 「アメあげる。」

 理奈は唖然としてアメを見つめた。

 初めて見るようなきれいな虹色のアメだった、…いや、そこじゃない。

 「お菓子禁止だよ?転校初日に校則破るなんて…。」

 この学校は、やけに規則に厳しい。もし見つかりでもしたら…!

 なのに桃ちゃんは何でもないという風に

 「大丈夫、大丈夫。」

 と眉をあげた。

 「今食べなよ。」

 「何でよ。」

 「何でも。」

 「何でよ。」

 「何でも。」

 「なん、…わかった。」

 私は桃ちゃんの頑なな態度に気圧されながらもアメを口に放り込んだ。

 色に似て、いろんな味がするようなアメだった。

 でもーーー。

 けれどちょうどそのとき、幸いなことに予鈴が鳴った。

 先生にバレるのが怖くて、私は大急ぎでアメを噛み砕いた。


 あっ、理奈が寝てる。ヤバいヤバい。

 昼休みのすぐ後の5時間目。

 ただでさえ睡魔に襲われるこの時間。

 理奈にはひどいことをしたなー。

 そう思いながら、桃は、上杉先生に近づかれている理奈を見る。

 あの先生って確か…。

 「栗原、栗原、おい栗原!起きんか!」

 バシッ。

 うっわー、やっぱりー。

 痛そ。

 あはは、ごめんね。

 あのアメ、ちょっとした副作用があるんだよねー。はじめて食べたときは眠気が襲うっていう…。特に噛んだときには猛烈なね。

 ふふっ。さぁ理奈、驚きなさい!あなたはなんと…?!

 

 今は手術中なの?

 なんか頭をいじくられている感じがする…。

 「…ら、…はら、…栗原。」

 ん?上杉先生の声?

 「おい、栗原、起きんか!」

 バシッ。もぉー、痛い痛い!!ビックリして目を覚ましたら、今は理科の授業中…?

 「寝ているとは余裕ですねぇ。一つ質問を差し上げましょうか?」

 えっ!?ヤバい!

 理科はちゃんと聞いてないと分からない科目No.1なのに!あたふたしてる間にも、先生は軽く質問を投げてくる。

「光合成は何と何から何を作る反応だ。答えろ。」

 ってそんなのわかんないって!無理無理!

「水と二酸化炭素からグルコースを作る反応です。」

 だって。って、えっ!?今誰が答えた?

 「おー、栗原、やればできるじゃないか。その調子だぞ。」

 答えられないと思って、上杉先生が皮肉たっぷりに出した質問にすらすら答えた私。

 今の…私?分かったの?えっ?な、何でー!?

 

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