滅亡まで、あと30日 前編
―――俺はこの世界を滅ぼした。
慣れ親しんだ大地は荒れ、平和だった空は黒くなり、人間含め全ての動物が絶滅した。
黒い雨が体を濡らす。
「これがあなたの望んだ結果なの?」
誰かが言う。
全ての始まりは一か月前。
さあ、事の顛末を語るとしよう。
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目を開けるとそこにいた。
暗闇の世界。
そこに一人の老人が立っていた。
「少年、起きたか…」
真っ白な白髪とヒゲを生やした老人は言う。
「あの…、ここはいったい…」
戸惑いつつも冷静に問う。
「ここか、ここは言うなれば天界。とも言うべき場所じゃ。」
「天界?それじゃああなたは…神?」
大きなヒゲを擦りながら答えた。
「みたいなもんじゃな。一つ勘違いして貰いたくないが、お主はまだ死んだ訳では無い」
「えっ。それじゃあ一体…」
「少し長くなるが聞いてもらえぬか。」
それから、老人は背を向けて語り出した。
「わしはいくつもの世界を管理しとる。そこには必ず人間がいた。お主の世界もそのひとつじゃ。…しかし、その世界には必ずと言っていいほど共通点があるのじゃ。お主はなんだと思う?」
唐突の質問だった。顎に手を当て考える。
「争いとか…ですか?」
「見事じゃ。その通り、争いじゃ。」
何も言えない。
「そういえばお主の名はなんと申す。」
「アヤトです…」
「アヤトか…、若いのぉ。実はわしにもお主と同じぐらい歳の孫がいてのう…」
「すいません。話の続きを。」
おお、すまんすまんと老人は謝り、コホンと咳をし改めて話を続ける。
「ここからが本題でのう。わしはいつまで経っても争い続ける人間達にわしは失望した」
老人は振り返り、俺の目をギロっと睨む。
「そこで、わしは決めたのじゃ、愚かな世界を滅ぼそうと!!」
その場は静まり返る。
聞こえるのは心臓の脈打つ音と過呼吸になりかけの息を吸う音のみ。
「ただし、すぐに滅ぼす訳にもいかん。
そこである決断をしたのじゃ。」
そう言ったあと一人の少女がコツコツと音を鳴らし近づいてくる。
「わしの孫のチトセじゃ。」
老人の言った「チトセ」と思わしき少女は俺のすぐ横に着いた。
銀髪のロングヘアーの彼女はなんと言っても顔が整った美少女だった。
「私はチトセ。これからよろしくね。」
美しい笑顔での自己紹介だ。
「これからというのはどうゆう事ですか」
俺の問いかけに老人は答える。
「わしは人類に一度チャンスを与えようと思ってな、人類は戦争を終わらせることが出来る事をわしに証明してもらう。」
「そこで、お前達には争いの絶えない世界に行ってもらい、お前達の手で1ヶ月以内に戦争を終わらせるのじゃ。いわば試験じゃの」
思わず、えっ。と言ってしまった。
ここまでの記憶を整理して老人にひとつ質問する。
「もし、1ヶ月以内におわすことが出来なければ、いったい…」
「その時は、お主の元の世界を含めたすべての世界をわしの手で滅ぼす。貴様の母親、父親、兄弟、すべての人が死ぬことになる。」
老人は俺に指を向ける。
「もちろん、お前もじゃ。お主の行動全てが人類の未来を決めることになる。」
その言葉に一瞬言葉を失い、足が勝手に後ろへ後ずさりする。
「で、でも。一体どうすれば。」
「それはお主、お前自身が決めること…」
息が苦しくなり、立っていることさえできなくほどできないほど混乱している俺にチトセは一言声を掛けてくれた。
「アヤト。心配することないわ。私が付いてる。何とかなるわよ。」
その言葉に少し救われた。
「しかし、目的が無いのは理不尽じゃの。
ヒント位はやらんとな。」
一言そう云うと、
「まず、お主たちの着く国、グラウス共和国で、まず軍隊に入るといい。ヒントはここまでじゃ。それと…」
そう言ったあと、ひとつの鍵付きノートをチトセに手渡す。
「このノートは戦争を終わらす一つの方法が書いておる。そのノートは開くべき時に開く。」
そう言うと。老人はどこかえ去っていった。
チトセが口を開く。
「それじゃ、行きましょ。」
急に視界が真っ暗になる。
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瞼の上から光が刺してくる。
目を開けるとその光景に目を疑う。
「酷い町ね…」
目に映ったのは、たくさんの錆びたトタンの小屋が立ち並ぶ路地。スラム街だ。
小屋の隙間から、寝込んだやせ細った老人、食事をせがむ小さな子供たち。
「父ちゃん。お腹すいたァ…」
と、穴の空いたボロボロの服を着て小さな赤ん坊を背負った男の子。
「誰かァ、誰かァ、ダベモノヲクダサイ…」
と、掠れた声で叫ぶその子の父親。
「これが戦争の結果なのか…」
驚く自分にチトセは何も喋らなかった。
一人、少女がチトセの服にしがみついた。
「おねぇちゃん。たべものちょうだい」
「可哀想に、ごめんね私何も持ってないの。ちょっと待ってね。食べ物持ってきてあげる。」
そう言うと、女の子と俺を置き去りにしてどこかへ走っていった。
チトセは近くを歩いていたどう見ても裕福に見える男性になにか話している。
ボーッとしているのも寂しいので女の子に話を聞く。
「キミのお母さんとお父さんは?」
そういうと急に泣き出して答えた。
「おどうぢゃんと、おがあぢゃん。どっがいっぢゃった。」
と、涙を溢れさせた。
俺は知らないうちにその子を胸に抱き寄せていた。
女の子は胸の中で大泣きしている。
時間が経ち、チトセはパンを片手に戻ってきた。
「はい。このパンあげるね。だから、泣かないで…」
今度はチトセまで、涙声になっていた。
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老人は軍隊に入隊しろと言っていた。が、
どうすればいいのか分からず終い。
俺たちは行く宛もなくただ路地を進んでいた
チトセに目を向けると目はまだ潤んでいた。
「あんな子が沢山いるんだな…」
チトセは沈黙を貫いていた。
しばらく歩いていると、あるチラシを見つけることができた。
そこには、民兵募集と書かれたチラシ。
兵士に意思があるならば午後2時に広場に集まるようにと明記されてた。
「今は何時だろうか…」
「まだ2時にはなってなさそうね」
やっと口を開いてくれた。
ずっと心配していたので少し安心した。
「広場ってどこなのかしら」
「さあ、いつまで経っても景色はスラム街のまま。」
その時だった。赤い鉢巻をした若い青年が通りかかる。
「なんだ、お前ら民兵志望者か?」
そう問いかけてきた。