第98話「反乱軍②」
時の力でもなく、自らの意思で止まった大悟に、東條は問いかける。
「叶わぬ相手と知っても、諦めず戦い続ける理由…
それが私には分からない…
なぜあなた達は戦うのです…?」
「俺達が戦う理由だと…?」
「そう…
ここから“上”の戦いは、“エレクト”のみに許された領域
その領域に、あなた達が足を踏み入れたところで
どうなるというのですか?」
「!!!」
そうなのだ。
大悟の心の中にはずっと、ある“ひっかかり”があった…
“リミテッド・エレクト”
という、大きすぎる力。
ジン、レトイン、そして…善。
力を持たない自分が、戦場にあがっても
単なる足手まといになるだけなのではないだろうか…?
そんな思いが大悟の心の中にあり、ずっとひっかかっていた。
善という人間を、知っているからこそ分かる…
もし、俺達が殺されるとなったら
きっと善は俺達を助けに来るだろう…
俺達は、そんなお荷物でしかない…
だったら俺達は最初から
そのステージに上がる必要など、ないのではないかと…
東條の伝えたかったことが、なんとなく理解できた気がした。
こんなに強力な力を持つ東條さえも
エレクトの力を持たぬ者は皆同じ…
俺達と同じくくりでしかない…
邪魔な存在でしかないんだ…
「確かにな…
俺達が挑んだところで、邪魔になるだけかもしれない…」
「そうでしょう?
力を持つもの、持たないもの…
権力や金を持つもの、持たないもの…
決して世の中、生まれながらにして
平等なわけじゃないのです…」
大悟は東條を、心のない人形のような人物と思っていた。
しかし、大悟は今、東條の中にある
“闇”を見た気がした…
それと、もうひとつ大悟に感じたものがあった。
それは…
『どこか俺達は似ている…』
憎くて仕方なかったはずの東條に、大悟は親近感を覚えた。
(東條…おまえは俺達をもて遊んでいたのではなく…
俺達をずっと“試していた”んだな…
いつ俺達が諦めるのか…
いつ俺達が力の前に、ひれ伏すのか…
その瞬間を見たかったのだろう
けれども、その瞬間は訪れなかった…
それこそがきっと、俺達と東條の違い
だが、そんな思想だけでは
どうやら現実は変えられそうもない…
志保やエーコは、俺達の今のやり取りの中で
何かを感じ取ることができたのだろうか…?
いや、きっと分かっているはずがない…
大悟と東條だけに理解できた会話だ…)
大悟は志保とエーコに、申し訳ないと思いながらも、東條にこう言った。
「邪魔者は邪魔者でも、俺達は抗う邪魔者だ…
ここで俺達を生かせば、それでも俺達は前に進むだけ…
もういい…
それが無意味というのなら、いっそ俺達を……
殺してくれ」
突然の大悟の発言に、志保とエーコは驚いた。
「な、何言ってんの大悟!?」
「バカなこと言うなし!!」
東條は大悟の言葉の意味を理解し、小さく頷いた。
「分かった
終わりにしよう…すべてを…」
大悟は腹をくくる。
手にしていた大剣をしまった。
(やっぱり…俺達だけに成立してた会話だったか…
悪かったな、2人とも…
どうやら俺には、東條の“闇”を救えそうにはない…
俺じゃあだめなんだ…
この闇を“光”へと変えてくれるのは…
“あいつ”しかいない)
“あいつ”は初めは、ただのその辺にいる、ただの子供だった。
だけどもあいつは、どんどん強くなり、成長し…
簡単に俺を、追い抜いて行った。
(ずっと俺達の後ろにいると思ってたのによ…
いつの間にか…だな…
悪いな…あとは頼んだぜ…!!)
大悟は無抵抗を貫き、両手を広げた。
そんな大悟に向けて、東條は銃をかまえる。
東條が銃を撃てば、すべてが済む話なのだが
2人しか分からないと思われた、先程の会話…
実は“もう一人”
理解できる人物がいたのだ。
「なるほどな…東條…
おまえもジョーカー・ジンを恨む
反乱軍の一人だったわけか…」
「だ、誰だ!?」
東條は声のする方を振り向いた。
そこに立っていたのは“あいつ”ではなかったが…
紛れもない、救世主ではあった。
「遅くなったな みんな!!」
「レトイン!!!」
レトインが遅ればせながらも、大悟達のもとへとやってきた。
「大悟…何勝手に決めつけてやがる!!
敵わなくても、最後まで抗ってくれ!!
まだまだ“俺達”にはおまえらが必要なんだよ!!」
「レトイン…」
「それに…俺も約束破るわけにはいかないからな…
全員こんなところで死なせない…
なぁ…善」
第98話 “反乱軍” 完




