第96話「心無き人形③」
怯えるゲンジに、東條は顔色ひとつ変えることなく言った。
「諦めろ ゲンジ
恨むなら、ジンさんを恨むんだな…
いや…
恨むなら、自分の弱さか…」
どこまで本気なのかと、ライジングサンのメンバーはまだ疑っていた。
だが、東條は“本気”だった。
「冗談だろ…?東條さん!!
お、おい!!!」
東條はコートの内に忍ばせていた拳銃を手にし、ゲンジの額に拳銃を当て引き金を引く。
「ピストル!!
う、撃つのか…?本当に…」
ライジングサンのメンバーは動揺し続けるが…
東條は何のためらいもなく…
ゲンジを拳銃で撃った。
パァン!と乾いた音が鳴り響き…
静かにゲンジは倒れた。
体と声を震わしながら、志保は東條に向かって言った。
「何考えてんのよ…あんた…
仲間だったんじゃないの…?」
「仲間…?
私が信じるのは、自分とジンさんだけ
不要なんですよ 弱いやつはね」
震える志保に、大悟が寄り添う。
「忘れたのか志保…
これが“ジョーカー”だ」
「最低だし!!!」
エーコも志保同様に、声は震えていた。
とっさに大悟は二人を庇うように、一人前に出る。
無謀な相手と頭では分かりながらも、臨戦態勢に入った。
心なしか、大悟の体も恐怖で震えている。
目の前にいるのは四天王、最強とまで言われている人物。
無理もないだろう…
東條はそんな大悟の姿を見て話を始めた。
「大悟…少し話をしよう
分かるか…?
“そろそろ終わりにする”
この言葉の意味するものが…」
「このくだらないすべての争いを、終わりにする…
そういうことか…?」
「そう…
ジンさんからしたら、全員捨て駒なのさ
“リミテッド・エレクト”でないもの、すべてね…」
それを聞いた大悟は、挑発気味に強く出る。
「エレクト以外全員?
フン!!ならば東條!それはおまえもか!?」
その問いに対し、東條は揺るぎもなく答えた。
「あぁ、そうさ
もちろん私も含めて全員だ」
「!!!
な、何を言っている…
だったらなぜ貴様は忠実にジンに従う!?
おまえは死ぬっていうのか…?
ジンのために…」
東條は少し黙り、沈黙を貫いた。
そして……
「仕方がないだろう
ジンさんが私を気に入らなかっただけの話…
結局のところ、私もゲンジと同じだ…
捨て駒にすぎない
私が弱いからいけないのだ!!」
東條は自らの死を受け入れた。
「い、イカれてやがるぜアンタ!!」
「なんとでも言うがいい
さぁ…邪魔者はここで消えるとしようじゃないか!!
まずは大悟…お前たちからだ!!」
直接、手合わせしたことはないが
東條の強さは十分理解している大悟…
大悟はひたすら焦っていた。
(一体どういうつもりだ…!?ジン!!
四天王ゲンジを送り込んできたのに関わらず、ここに来て東條だと!?
東條が捨て駒?
バカな!ヤツの強さは本物だ…
今までゆっくり時間をかけて
じわじわと遊ぶようにしていたくせに…
今度は一気に終わらせようというのか…!?)
大悟が明らかに動揺し、怯えているのが東條にも見てとれる。
「どうしました?大悟?
何をそんなに怯えている…」
「くっ…!!黙れ!!
(いくら力が離れているとはいえ
いとも簡単に四天王のゲンジがやられるわけがない…
一体さっき、東條はゲンジに何をしたんだ…!?)」
東條の動向を伺い続ける大悟の姿に、東條がピンときた。
「なるほど…私の力が読めない…
どんな手を使うかが、分からないわけだ…
だから怯える 恐怖を感じるわけですね!
その正体さえ分かれば、少しはまともに戦えますか?」
(こいつ……)
余裕、自信の現われか?
人とは違った観点、切り口。
この男の行動はいつも奇妙で不気味だ。
何を考え、何を思っているか分からない…
東條の心が一向に読めない。
だから俺は、こいつが嫌いだ……
けれども、それも先程のやり取りで、少し理解できた気がする…
恐らくこいつは何も考えていないんだ…
主人の言われるがままに動く
まるで操り人形のように……
意思無き、心無き人形は
冷めきった目で、大悟を見つめ続けていた。
第96話 “心無き人形”




