第85話「正義と悪①」
ジョーカー四天王・ゲンジは笑いながら言った。
「そこまで分かれば、俺の能力を教えてやろう!!
“ファントム・リミテッド”
“幻覚”の力!!!」
大悟は能力の正体を知っても、なお驚きを隠せないでいた。
「幻覚…?
これが全部幻だというのか…?
(どっからどう見ても、本物にしか見えねぇじゃねぇか…)」
ゲンジが繰り出す、幻の力によって作り出した映像
それは高速道路のど真ん中に立たされた映像である。
(くそっ…惑わされてはだめだ…
待てよ…?)
下唇を噛む大悟だが、ここで大悟はあることに気がつく。
(この高速道路…確かに見た目は本物そっくりだが、これはあくまでゲンジが作り出した幻だ
ということは、実際に車が走ってるわけでない!
現にここは俺達がいたアジトだ
道路ですらないんだからな…
よし、それなら…)
そう大悟は判断し、走りこんで来る車に向かって、勇気だして思いきり飛び込んだ。
「大悟!!危ないし!!」
突然の大悟の行動に、エーコは慌て叫んだ。
しかし、大悟は至って冷静だ。
「いや…大丈夫だ!
こいつは本物の車じゃねぇ!!
実体なんかあるはずがないんだ!!」
冷や汗をかきながらも、大悟は己を信じた。
どっしりと構え、道路のど真ん中に立つ。
するとどこからか、不気味な声が聞こえた。
「バカめ…」
実体はないと決め込んだ大悟であったが…
車が大悟と重なると…
まるで本物の車に跳ねられたかのように
大悟の巨体は吹き飛ばされた。
「ぐわっ!!!」
「大悟!!」
吹き飛ばされた大悟は、ゆっくりと体を起こす。
唖然とし、大悟の頭は理解不能に陥っていた。
「な…なぜだ…?
こいつは幻じゃ…?」
不思議がる大悟に、ゲンジは怒り口調で答える。
「俺の力をあなどるな!!
いかにこいつが幻であろうと…
リアルすぎる作りに、視覚、脳が反応し
幻であるのに関わらず、想像だけで痛みを伴ってしまう
『こうされれば、これをくらえば痛い』と
そう勝手に脳が判断してしまうんだよ!!」
ゲンジの話を聞いても、志保は納得できずにいた。
「なにそれ…
脳が“錯覚”を受けているというの…?
思い込みだけでダメージを受けてしまうなんて…」
あの猛スピードの車に轢かれたにも関わらず、大悟の体は致命傷には至っていない。
ダメージは残るものの、体は動ける。
そこで大悟が幻の力のカラクリに勘づいた。
「でもおかしいな…
脳が錯覚を起こすのは分かったが、さっきの走ってきた車に、実体があるのはおかしい話だ!
明らかに俺は、何かがぶつかった衝撃があった!
それに、本当のあの車の速度でぶつかれば
俺は即死なはずだ…」
大悟の冷静な分析に、ゲンジは驚かされ、思わず大悟を誉める。
「!!!
頭いいなおまえ…
それは簡単だ
これは“リミテッド”だからだ」
ゲンジの発言に、一同は首をかしげる。
「おまえ達が剣を作り出せば、本当に切れ味が生まれるのと同様…
俺も力を生み出せば、そいつに実体は現れるってわけだ!!
そりゃ実際にあの速度で走る車を生み出してるわけではないからな
威力は同等にはならん」
思ったよりも、想像したよりも
ゲンジの能力は厄介であった。
そんな歯痒さからか、エーコは苛立ちを見せる。
「なんだし!あんたら!
音だとか、影だとか…
今度は幻って、単なる惑わし集団じゃん!!」
「けっ…何とでも言え!!
おまえらは俺に攻撃を与えることすらできずに、幻の力にひれ伏すんだよ!!」
自信満々に言うゲンジであったが、その自信にも根拠があった。
相手を困惑に落とし入れる、ファントム・リミテッド
なによりこの能力の厄介だった点は……
「さっきからゲンジの姿が見えねぇな…」
ゲンジの姿が幻の中に紛れ、居場所が見えていないところだった。
ゲンジの声はするものの
どこから声がするのかは、全く特定できないでいる。
「志保…
幻が通じないとすれば、おまえが頼りだ…
おまえでも見えないのか?ゲンジの姿…」
「ごめん…
私は、聴力には強いみたいなんだけど…
目の方は全然だめね…
全くもって見えてこないわ…」
頼みの志保も、困惑した状態にいる。
一切、幻を見破る方法は、まだ見えて来ない。




