第73話「すべての始まり②」
「!!!
てめぇ!!!!」
怒りが爆発した善は、レトインを本気でぶん殴りにかかる。
「待て!!善!!!」
しかし、飛び掛ろうとする善を、大悟が体を前に出して止めた。
「なぜ嘘をつく…
レトイン」
「うそ…?」
「さっきも言っただろ
俺には分かってる
間違いない あの力はジンだ
さっきまでジンはここにいたんだ
そしてヤコウを殺したのはジン!!
そうなんだろ?レトイン」
大悟の問いに、またレトインは黙った。
そして、数秒間の沈黙のあと、レトインは声を圧し殺しながら答えた。
「あぁ……
そうだ ヤコウを殺したのはジン
それは間違いない」
善はレトインの言っている意味が分からなかった。
先程は自分が手にかけたと言っていたのに
今度は犯人はジンだと言っている。
「どういうことだよそれ…
わけ分かんねぇよ!!」
「俺が殺した…
そのようなものなんだ」
「自分が殺したようなもの…?
だってヤコウを殺したのはジンなんだろ?
さっきから意味が……」
善は更にレトインに近づいていった。
すると善の目には、自然とあまり見たくない映像が映り込んできてしまった。
血だらけの動くことのないヤコウの姿だ。
しかし、それと同時に“あるもの”に善は気づいた。
「ん…?
なんだこれ…
地面に何か書いてある…」
ジンに敗北し、死を直前にしたヤコウ。
ヤコウは今まで心の中にあった、ある一つの想いをどうしても伝えたかった。
それでも伝えることができぬまま、死を迎えようとしている…
その想いを伝えるために、ヤコウは最後の力を振り絞った。
地面には文字が書かれていた。
その字は赤く、明らかに自分の血で書かかれたものだと思われる。
かすれた字ながらも、かろうじて読むことができた。
そこには、こう書かれていた。
『すまない レトイン』
ヤコウがどうしても伝えたかった想い。
それはレトインに対する想い。
レトインへの謝罪の言葉だった。
「すまないって…
なんでヤコウがレトインに…」
善はレトインをふっと見た。
レトインは握りこぶしを作りながら、震えていた。
「もっと他に…他に残すことがあっただろう…
ここにこんなにも、おまえの死を悲しむ者がいるんだぞ…」
エーコ…
エーコはずっと泣いていた。泣き崩れていた。
今でもヤコウの死を信じることができず、現実を受けいれずにいた。
「レトイン…」
そして善は気づいた。
冷静なふりを装っているが、先程からずっと涙をこらえているレトインの姿に。
善はレトインの体を強く揺すりながら叫んだ。
「なぁ…教えてくれ!!
何があったんだ!?
レトインはジンやヤコウのことを以前から知っている…
昔何かあったんだろ!?
なぁ!!本当のことを…
“真実”を教えてくれ!!」
レトインは震えた声で返した。
「真実…?
これが真実だ
今起きていることがすべての現実であり
これが真実だ!!」
そんなレトインの言葉を否定するように、善は更に大きな声で叫んだ。
「違う!!!!」
善は心の底から叫び続ける。
「これは…真実なんかじゃない!!
俺は…俺達はまだ何も知らない!
おまえがヤコウを殺したと自ら言っても…
ジョーカーを創ったのはレトインだと自分から言っても…
俺はそんなの信じない!!!
すべてを聞くまで、真の答えを聞くまで、俺はそんなもの信じない!!!」
今まで溜まりに溜まっていた善の気持ち。
レトインが真の敵だと知らされても
善の心の奥底では、レトインを信じる気持ちは変わってはいなかった。
確かにそれは、現実から目を背けているだけで
そうあって欲しいという、善の単なる願望なのかもしれない。
しかし、そんな願望でもいい。
すがれるものがあるなら、何でもすがりたい。
本当の答えを、“真実”を知るまでは
善は誰が何と言おうと、レトインを信じたかった。
「そうだよレトイン!
私達、あんたの言ってることなんて全然信じてないんだから!
だってあんた嘘つきだしね!」
「もうあきらめろよレトイン…
善のあきらめの悪さ…
おまえなら知ってんだろ?
いい加減、すべてを話してくれ!」
「志保…大悟…」
善だけではない。
志保や大悟だって、本当はレトインのことをずっと信じ続けていた。
「次レトインが話すこと…
それが“真実”だと俺は信じる!!
だから今度ばかりは、嘘やごまかし…
そんなものは一切やめてくれ!!」
善の熱き想いが、レトインに届いたのか…
先程まで涙をこらえていたレトインが、今度は少し笑った。
「フン…
俺の負けだよ
おまえらの執念にはかなわん
分かった
話そう “すべて”を
ジョーカー、キング設立から
今ここに至るまでのすべてを」




