第66話「交わりあえぬもの①」
体が…熱い…
俺の体に、何が起こっているんだ…?
“リミテッド・エレクト”
一体何なんだそれ…
ちゃんと教えてくれよレトイン…
お、おい!
どこ行くんだよレトイン!!
善は去りゆくレトインを、必死に叫んで呼び止めた。
しかし、レトインは振り返ることなく
善に背を向けたまま、暗闇へと消えた……
そこで、善の目が覚めた。
「!!!
夢…?」
「善!!目が覚めたのね!!」
志保が善の元へ駆け寄る。
「心配したのよ!あれから2日も寝てたんだから!!」
「俺…そんなに寝てたのか…
頭がボーッとする…
なぁ、志保 夢…なんかじゃないよな…?
俺、四天王の琢磨を倒したんだよな?
“リミテッド・エレクト”っつー、変な力使って…」
「そうよ!勝ったのよ!!
勝てたのも善のおかげ!
もしかして…覚えてないの…?」
「なんだか、意識がはっきりしないんだ…
あん時の俺は、本当に俺なのか…?
自分でもよく分からない…」
「確かに、あの時のおまえは別人だったぜ」
「大悟…」
善の目覚めに気づき、大悟も善の元へとやってきた。
「あまりにも起きねぇもんだから、もう起きねぇんじゃねぇかと思ったぜ!」
「はっ…バカ言え」
「ホント心配かけすぎだし
それに、まだ寝ぼけてんのか、気づいてないみたいだし」
エーコも善の元へとやってきた。
全員善の体を心配していたようだ。
「エーコ…
気づいてないって…何が…?」
「ここ この場所…
どこだか分かってる?」
「あっ…!!」
善達が今いる場所は、以前ライジングサンがアジトとして使っていた所だった。
あまりに見慣れた景色だったのか、善は違和感なく感じてしまっていたようだ。
「なんだよ…結局戻ってきちまったのかよ…」
「考えてみたら、俺達に行く場所なんてなかった
まぁ今となっては、善もリミテッドとして、スキルアップしたことだし
力を使用しない限り、ジョーカーから居場所はバレることはなくなった…
そうなると、逆に場所がわれてるアジトにまた戻ってくるってのも…
敵の裏をかくことになるかもしれないだろ?」
大悟の相手の裏をかく考え。
これには今の善には好都合だった。なぜなら…
「そうかもな…
せっかく移動したのに、また場所が知られてるアジトに戻ってくるなんて…
それはそれで、相手を混乱させることになってるかもしれないな!」
この『いつも見慣れた風景』
これこそが、今の善にとっては、何よりの安らぎを与えていたからだ。
「ところで善…
こいつはおまえが持っていたものなんだが…
この写真に写ってる女性は、もしかして…
彼女かなんかか…?」
大悟は少し嬉しそうににやけながら、あの“ペンダント”を善に手渡した。
「あっ!これは…」
3BECAUSE
第66話
「交わりあえぬもの」
善は大悟からペンダントを受け取り、改めて中を開けて見てみた。
そこには以前と同様に、笑顔の女性の写真が収められている。
エーコは、そーっとペンダントの中を覗きこみ
写真を見るなり、善を茶化した。
「なんだし!善、ちゃっかりしちゃってるし!
この人が善の彼女!?」
「ち、違ぇって!!
これは俺のじゃない…
おそらくこれはレトインのだ」
「レトインの…?
なんだか…レトインらしくないわね…
ちょっとイメージと合わないっていうか…」
志保は首を傾げた。
あのぶっきらぼうのレトインが、女性の写真を持って歩くなんて、信じがたい光景だ。
「確かにな…
(写っていた女性…
俺より年上だろうから、20代ぐらいか…
レトインの妹…?彼女…?
大事な人であることは、間違いないんだろうな…)」
善は写真を眺め、少し考え事をしていたが…
「うっ!!」
「善!!?」
再び体が苦しくなり、善はその場でしゃがみこんだ。
「くそっ…なんなんだこれ…
体が重くて、まだ頭がボーッとしてる…」
「よほど“あの力”が、善の体に負担をかけていたんだろう…」
「あの力…
“リミテッド・エレクト”か…」
「そうだ…
あの時のおまえから放たれたリミテッドの力
とても凄まじいものだった…
無限に放たれているかのようでな…
本来はリミテッドの力も、限りがあるはずなんだが…」
大悟があの時の善の状況を伝えていたが
志保が続けるように、不安そうな表情を見せながら言った。
「ちょっと表現が難しいけど…
善から炎の力が放たれていたと言うより…
善自身が炎だった
私にはそう見えたよ」
「!!!」
善自身は、何が起きていたのかまるで分かっていない。
聞かされて、初めて自分がどのような状態になっていたのかを知る。
「あの時の善…正直怖かった…
いつもの善とは全然違っちゃって…
意識もはっきりしてなかったのかもしれないけど…
まるで別人だった…」
当時を思いだし、怯えながら話す志保を見て…
善は自分の持つ力、自分という存在自体に、恐怖を覚えた。
“リミテッド・エレクト”がもたらす力
リミテッドの中でも、さらに特別な存在である自分…
そんな自分が善は怖かった……




